健康・医療

「鼻呼吸」は全身状態を向上させるためにも有効 深い呼吸を行うための「呼吸筋ほぐし」のやり方を解説 

呼吸する女性
「鼻呼吸」は全身状態を向上させるためにも有効(写真/イメージマート)
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本来、人間は息を鼻から吸って鼻から吐く「鼻呼吸」が基本。だが、いま、口呼吸をする人が増えている。口呼吸は虫歯や歯周病になりやすくなるほか、夜間頻尿や口内炎、唇の荒れなどを引き起こすことがあるという。そこで、鼻呼吸に注目。呼吸器内科医が深い呼吸を行うための「呼吸筋ほぐし」について解説する。

鼻呼吸は全身状態を向上させるためにも有効

鼻呼吸は口腔環境を整えるだけでなく、全身状態を向上させるためにも有効だ。呼吸器内科医の松野圭さんが説明する。

「鼻に入った空気は、鼻腔を通る間にスピードがゆっくりとなり、この間に加湿・加温されます。たとえば約20℃の空気が鼻から喉に通るとき、湿度はすでに100%近くになり、温度は体温に近い35~36℃にまで上がっているんです。

さらに、鼻毛が花粉やほこりをブロックしてくれる。鼻は超高性能のエアコンといえるでしょう」

それに比べ、口呼吸は汚れた空気が直接肺に入るうえ、口の中が乾燥し、喉のバリア機能も落ちてしまう。

「これでは健康にいいことはありません。実は、コロナ禍以前から、スマホによる姿勢の悪化が原因で口呼吸になる弊害は指摘されていました。ほとんどの人が下を向き、頭が前に出た姿勢でスマホをいじっています。

あの姿勢で重い頭を支えるため、首の筋肉が常に緊張状態になり、あごが下に引っ張られて口が開く。それが口呼吸を招いています」(松野さん・以下同)

口呼吸と鼻呼吸では、体の中の動きも違うという。

「胸(肺あたり)とお腹(へそあたり)に手を置き、勢いよく口から息を吸って吐いてみてください。次に、同じ程度の息を鼻から吸い、鼻から吐いてみてください。

どちらの呼吸も、胸もお腹も動くのですが、前者の呼吸は胸の動きの方が大きく、後者はお腹の動きが大きいと思います。鼻呼吸の方が、横隔膜が大きく使われているということです」

横隔膜とは、胸郭(胸部の骨格)の下方にある膜状の筋肉で、下がるときに息を吸い、上がるときに吐く。口呼吸の場合、横隔膜の動きが少なく、鼻呼吸は横隔膜の動きが大きい。実際に松野さんが自身の横隔膜の動きをMRIで撮影したところ、鼻呼吸の方が口呼吸のときよりも横隔膜が1.5cm下降していたという。

呼吸の仕組み
呼吸の仕組み(イラスト/Suetsumu Sato/PIXTA)
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「横隔膜を大きく使う鼻呼吸は、深くゆっくりな呼吸となり、肺いっぱいに空気を行き渡らせることができます。呼吸数も少ないので省エネになる。呼吸は24時間止まりませんから、呼吸に費やすエネルギーを抑えた方がほかの機能に使えるため、結果的にスタミナアップにつながるのです」

ちなみに、一般的な呼吸数は1分間で15〜20回ほど。これより速いと呼吸筋(胸郭まわりにある10以上の筋肉群)の負担に。速い呼吸は疲れやすくなるうえ、精神的にも不安定になる。リラックスを求めるなら「鼻から吸って鼻から吐く」が鉄則だ。

肺は半分以上使われてない?

「呼吸」というと、どうしても吸うことが大事だと思いがちだが、「実は吐き出す方が重要」と、松野さん。

「呼吸によって肺で入れ替わる空気は、実は6割ほど。残り4割は機能的残気量(肺に残る空気量)です。デスクワークの多いかたは、使えている肺の割合はさらに少ないでしょう。機能的残気量が増えると、空気の循環が悪くなります。

かつて海女さんの機能的残気量を調べたことがありましたが、一般の人より断然少なく、ふだんから肺の7〜8割を使えていました。吐き出すことが重要です」

吐き出したくてもその力がないという事態も。肺は自力では動かず、呼吸筋が動かしているのだが、運動不足や悪い姿勢などで呼吸筋が凝り固まると、呼吸する力が衰えてしまうという。

「そんな呼吸筋をほぐすために医師の本間生夫さんが考案したのが『呼吸筋ストレッチ』です。私自身も実践し、呼吸と姿勢が改善しました。

図はほんの一例ですが、やれば呼吸がしやすくなると思います」

「呼吸筋ストレッチ」は、本間さんが解説するYouTubeで詳しく紹介されている。

超簡単・呼吸筋ほぐしのウオーミングアップ

【1】肩の力を抜き、両足を肩幅に開く。

肩の力を抜き、両足を肩幅に開く
肩の力を抜き、両足を肩幅に開く(イラスト/坂木浩子[ぽるか])
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【2】「1、2、3、4」と4秒くらいのペースを心で数えながら鼻から息を吸い、ゆっくり肩を上げる。

「1、2、3、4」と4秒くらいのペースを心で数えながら鼻から息を吸い、ゆっくり肩を上げる。
「1、2、3、4」と4秒くらいのペースを心で数えながら鼻から息を吸い、ゆっくり肩を上げる(イラスト/坂木浩子[ぽるか])
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【3】【2】と同様「5、6、7、8、9、10」と6秒くらいのペースで口から息を吐きながら、ゆっくり肩を下げる。

【2】と同様「5、6、7、8、9、10」と6秒くらいのペースで口から息を吐きながら、ゆっくり肩を下げる
【2】と同様「5、6、7、8、9、10」と6秒くらいのペースで口から息を吐きながら、ゆっくり肩を下げる(イラスト/坂木浩子[ぽるか])
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YouTube「ドクター本間の呼吸筋ストレッチ体操」より

◆呼吸器内科医・松野圭

順天堂東京江東高齢者医療センター「息切れ外来」で診察にあたる。順天堂大学医学部呼吸器内科学、同学部スポーツ医学研究室准教授。呼吸筋ストレッチ体操認定指導士として各地で指導を行っている。

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2025年2月6日号

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