健康・医療

冬と朝こそ気をつけたい血管病の注意すべきポイント「心筋梗塞で痛みを感じる部位に男女差」「朝の高血圧が最後の一撃に」…予防のためには「適度な室温を保つこと」が重要

冬は心筋梗塞や脳卒中など血管病の危険が高まる(写真/PIXTA)
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寒さで血管が収縮し、血圧が上昇。暖かい部屋から寒い場所へ移動したときにヒートショックに襲われる。一年の中でも、心筋梗塞や脳卒中など血管病の危険が高まる冬。知っている人だけが命を救われる知識がある。

心筋梗塞を自覚しない女性

2人に1人ががんに、5人に1人が認知症になるといわれる時代、「死ぬまで健康」でいるために、この二大疾患について予防を心がけている人は多い。その一方で、超高齢社会が進む中で患者数が急増している病気がある。それが心不全だ。

日本心臓財団によると、現在の罹患者数は約120万人と推計され、2030年には130万人に達する見込みだ。また、厚生労働省の患者調査によると脳梗塞や脳出血を含む脳卒中の患者数は約170万人と、さらに上回る。がん患者が100万人であることと比較すると、そのリスクがいかに大きいかがわかるだろう。

血管病の恐ろしいところは、自覚症状がほとんどないため音もなく忍び寄り、症状が出るとその瞬間に死が近づくサイレントキラーであること。高齢者ほどリスクは高く、血管が収縮しやすい冬は特に注意が必要だ。信濃坂クリニック院長で東京医科大学名誉教授の高沢謙二さんが言う。

心筋梗塞で痛みを感じる部位は男女差がある(写真/PIXTA)
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「収縮することで血管が狭まって血圧が上がり、硬くなって、傷つきやすくなります。それを繰り返すうちに血栓ができやすくなって、それが破裂、もしくは血管が破れて心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。外出時に急に寒い場所に出たり、入浴時など、冬はその寒暖差に体が対応して熱の拡散を防ごうとするためリスクが高まるのです」

なかでも心筋梗塞については、近年「性差」による死亡率の違いに注目が集まっている。2023年8月、東北大学病院は、「心筋梗塞の死亡率は女性が男性の2倍」であるという研究結果を発表。患者数は男性の方が多いのに、女性の死亡率が高い原因について、“治療までにかかる時間にある”と結論づけた。

「まず、心筋梗塞を起こす年代に男女差があります。男性はだいたい55才から65才ぐらいまでが多いのですが、女性の場合は65才から75才ぐらいがピークです。そうすると、そもそも発症時に体力が落ちて弱くなっているので回復が難しいということがあります」(高沢さん・以下同)

女性の場合は、痛みへの忍耐力が強く、心筋梗塞の症状である胸の痛みなどを覚えても心筋梗塞と思い至らず、がまんしてしまうことも一因といわれてきた。しかし医療が進み、そもそも痛みが出る部位に性差があることが明らかになった。

「主に胸のあたりに痛みが出る男性に対し、女性は肩やのど、腹部など胸だけではないといわれています。そのため、痛みを感じてもそれが心臓の異常だとは気づかず関節痛や肋間神経痛などと勘違いして治療が遅れ、手遅れになってしまうケースがあるといわれています。ある研究からは、女性の方が血管の痙攣が起きやすいことが明らかになっており、女性のかたは年を重ねて違和感のある痛みを覚えたら病院を受診してもいいかもしれません」

「モーニングサージ」が命取りに

気をつけるべきは痛みが出る部位だけではない。寒い毎日でも、特に意識したいのは「朝」だ。

「暖かい布団の中から出たときに、血管が痙攣を起こしやすいといわれます。人は寝ている間に副交感神経が血管をリラックスさせて体全体を柔らかくしている。朝方の眠りが浅くなるレム睡眠時は夢を見ることが多いのですが、怖い夢だったりして手足が動くなど日常活動しているのと同じような現象が起きると、一気に血管がぎゅっと痙攣を起こして収縮し、心筋梗塞を起こすということも考えられます」

特に朝は血管が痙攣を起こして収縮し、心筋梗塞を起こす可能性がある(写真/PIXTA)
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新小山市民病院院長の島田和幸さんは、「モーニングサージが血管の詰まりや、破裂を引き起こすことがある」と指摘する。

「血圧が瞬間的に急上昇することを“血圧サージ”といいます。血圧には個人差がありますので具体的な数値の定義はありませんが、普段の血圧が120の人が突然180になることもあります。血圧サージの起こりやすさも個人差があるものの、年を重ねるにつれ、血管も老化するので起きやすくなるといえるでしょう」(島田さん・以下同)

この血圧サージは、朝方に多いという。

「早朝高血圧などともいわれますが、就寝中の副交感神経が優位な状態が起床時に交感神経優位に変わることで、朝方に血圧が高くなりやすいと考えられます。

人間は朝、起き上がりますが、これにはものすごいエネルギーが必要で体の内部の状態が大きく変わる。そこで血圧が一気に上がると、血管の血液が固まりやすくなって詰まりや破裂につながるとされています。血圧サージによって、血管が破けたり、詰まりやすくなるメカニズムに関して、血圧という物理力以外の原因についてはまだはっきりしていません」

自分自身に血圧サージが起こりやすいかどうかを判断する方法はあるのか。島田さんは、自分の血圧がどんな状態かをまず知ることが大切だと説く。

「血圧は人間の体で一日中、ずっと変動しています。心臓が動く回数分、1日に10万回ほど血圧がかかり一定ではありません。1拍ごとなのですべてを記録することができません。ですが、1日の間に数回測ることで自分の血圧が高い状態で推移しているのか、低い状態で変動しているのかを把握することはできる。

さらに、その数回の測定で大きく変わるようであれば変動しやすい状態にあると考えてもいいかもしれません。血圧サージ、モーニングサージだけで血管病を発症するわけではなく普段血圧が高い人や高齢で血管が傷ついている人は、急変動が“最後の一撃”となってしまうということです」

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