標準治療かオーダーメードか
「標準治療」とは、「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」のことを指す(国立がん研究センター運営公式サイト「がん情報サービス」より)。肝胆膵がん手術の名医として知られる、静岡県立静岡がんセンター総長の上坂克彦医師が言う。
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「がんの治療はどんどん進歩しており、生存率も右肩上がりです。なぜかというと、臨床研究の積み重ねによってエビデンス(科学的根拠)が積み重なり、それに則って標準治療が組み立てられているから。保険診療で受けられる標準治療より、高額な自費診療の方が優れていると思い込んでいる人が結構いますが、それは間違いです。
日本では有効性と安全性が証明された治療は、迅速に保険適用にする仕組みになっています。ですから、標準治療を重んじる病院を第一に選ぶべきです。そのうえで、保険外の『先進医療』の研究や『臨床研究』を、標準治療ときちんと区別して行っている病院を選んでください」
臨床研究を実施している病院は最先端の治療を行っており、質が高いともいわれている。がんでは「日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)」に参加している病院かどうかも指標のひとつとなるだろう。
標準治療は大事だが、一方ですべての患者がその適用になるわけではない。その根拠となる臨床試験が、80才を超えるような高齢者や基礎疾患のある人を除外して行われることが多いからだ。条件から外れた患者は、手術や抗がん剤を受けられないことも多い。だが、それで諦めてしまう病院もよくないという。
「標準治療ができることが前提ですが、さまざまなオプションを用意し、患者の年齢や体力など一人ひとりに合ったきめ細かい『オーダーメード治療』ができるかどうかも重要です。
近年、がん患者は高齢化していて、さまざまな併存疾患を持っています。体の状態が悪いままだと、負担の大きな手術に耐えられないので、併存疾患を治療してから、がんの治療に入る必要があります。
しかし、病院によってはほかの病気の専門医が少ないため併存疾患を治療できず、手術を受けられないことがある。高齢の人や併存疾患のある人は、がん以外の専門医もたくさんいる大学病院や基幹病院を選んだ方がいいでしょう」(福永医師)
抗がん剤治療を受ける場合も、年齢や体力に応じて、薬の加減を細かく調整しなければならないことがある。そうした場合には、抗がん剤治療を専門とする腫瘍内科医がいた方がいい。さまざまなニーズに対応できる人材がそろっているかどうかも、病院選びのひとつの指標と言える。
がんを治療するのは外科医だけではない
がんの治療は手術だけでは済まないことがほとんどで、薬物療法や放射線治療などを組み合わせた「集学的治療」が必要だ。それだけに、「病院の総合力が求められる」と上坂医師は言う。
「たとえば、膵がんの疑いのある患者さんが紹介されてきたら、本当にがんかどうかを確かめるための大切な検査のひとつに造影CT検査がありますが、造影剤の入れ方、タイミング、スピード、撮影角度など、さまざまな技術を駆使しなくては、膵がんをうまく診断できません。それには放射線診断医や放射線技師の力がとても大切になります。
そして最終的に膵がんの診断を確定させるために超音波内視鏡検査を行い、十二指腸や胃から針をさして生検してもらいます。それには腕のいい内視鏡科医師や消化器内科医が必要です。もちろん、術前に抗がん剤治療や放射線治療を行うこともある。このように、外科医が手術をするためには、ほかの診療科の医師の力が不可欠なのです」
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もちろん、看護師や薬剤師、ソーシャルワーカーなど、ほかの医療職の力も必要だ。多職種の人たちが連携してひとりの患者を支える体制を作ることを「チーム医療」と言う。その重要性を佐治医師が解説する。
「同じがん治療をめぐっても、重要だと思うポイントが、患者さんと医師とでずれていることがあります。そんなときに看護師さんが患者さんの視点や生活面からバランスを取ってくれるのは、医師として本当にありがたい。
しっかりした乳腺外科外来には、ベテランの看護師さんがいて患者さんのさまざまな疑問や不安に答えてくれています。特に日本看護協会の専門資格である『乳がん看護認定看護師』がいると大変助かります。患者さんが治療を決めるときに助けてくれるので、いた方が圧倒的にいい。医師と同じレベルで相談できる人がいるのは患者さんにとっても大きいと思います」
診断に疑問がある場合や、ほかの治療を受けられるかどうかを知りたいときなどに有効なのが「セカンドオピニオン」だ。主治医に「ほかの医師の意見を聞きたい」と切り出すのは勇気がいるが、診断や治療に自信のある医師ほど、自分の患者がセカンドオピニオンを受けることを推奨する。
「セカンドオピニオンはとても有効な方法なので、もっと活用すべきです。私はセカンドオピニオンの担当医も『チーム医療』の一員だと考えています。医師も、通常の外来は多くの人を待たせているためストレスを感じています。5分、10分しか時間がなくて、どうしても『これでいいですよね』と、説明を急いでしまう。
その点、セカンドオピニオンは費用がかかりますが、医師の時間を買うものだと言えます。外来に比べ長く時間がとれるので、多くの悩みが解決するでしょう。ただし、30分、60分と時間が決まっているので重要度の高い内容から順番に質問してください」(大野医師)
患者の意思決定を待ってくれるか
最後に、実際に受診してみて、医師がどれだけ患者と真摯に向き合ってくれているかも見極めた方がいい。
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「私は初診の患者さんが来たら、5分か10分で心をつかむように努力します。併存疾患などがある難しい患者さんが来ると、多くの医師がトラブルになりたくないので、『こんな合併症が起こりうる』と、ネガティブな話ばかりしてしまう。
しかし、それでは患者さんを不安にするばかりです。本当に自信のある医師は、そんなことはあまり言いません。神様ではないので100%の保証はできませんが、たとえ合併症が起こったとしても、最大限努力するので任せてくださいと言うはずです」(岡田医師)
患者の中には、つらい治療は受けたくないという人もいる。中には標準治療を拒否して、医薬品ではない抗がんサプリメントや民間療法に頼る人もいるが、そのときの対応で医師の人間性もわかるという。
「『なんでそんなことをするんだ』と頭ごなしに否定する医師がいます。でも、否定すると話が進まなくなる。私の患者さんにも『抗がん剤は受けたくない』と言う人がいますが、その場では無理に受けるように言いません。多くの患者さんが、『やっぱり治療を受けたい』と戻ってくるからです。『標準治療をしないなら、他所へ行った方がいい』という医師もいるけれど、患者さんを信じて待ってくれる。そんな医師がいいと思います」(佐治医師)
同じがんと言っても、人によって受け止め方や価値観は異なる。そうした個々人の意思を尊重してくれる病院や医師であるかどうかも重要だと言えるだろう。 ここにあげた「7つのポイント」を頭に入れて、ぜひあなたが納得できる「いい病院」を選んでほしい。
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※女性セブン2025年2月20・27日号