【老後資金をどうするか】家族で話し合うために必要な材料 生活費の目安は「現役時代の7~8割」「医療費は120万~420万円」…不動産、保険などの資産の把握も重要

極端に少子化が進む日本でも、昭和初期まではきょうだいが5人、8人という家庭はごく普通だった。一族にとって若い世代は大切な「労働力」であって、高齢世代や、事故や病気で働けない家族の生活を、みんなで支えていたからだ。寿命が延び続け、セカンドライフに不安を抱える人が多い現代こそ、家族で老後資金を検討し直すべきだ。仕送りなどの援助は当然のこと、資産の把握や運用にも役立つうえ、生前贈与や相続まで視野に入れることで、親も子も孫も経済的にメリットがあることは意外に知られていない。
平均的な介護費用は580万円
まず必要なのは、話し合うための材料。現在の収支や年金額といった現状把握が第一歩だと、行政書士でファイナンシャルプランナーの松尾拓也さんが言う。
「リタイア後、1年間の収入から支出を差し引きした金額に『平均寿命—現在の年齢=残り年数』をかける。老後は支出が減るケースが多いので、基本的にはそれがプラスになっていれば、老後資金は足りているといえます」
残り年数は例えば、現在70才の女性なら、女性の平均寿命である87才までの「17年」をかければいい。
老後の収入は公的年金のほか、会社員なら退職金や個人年金保険なども含む。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。

「支出は大きく『生活費』『特別費』に分けられます。生活費には個人差がありますが、一般的には現役時代の生活費の7~8割になることが多い。特別費とは、医療費や介護費用のほか、葬儀代や墓代といったいわゆる終活費など。また子供や孫に金銭的援助をする予定なら、その分の金額も含めましょう」
生涯の医療費の半分は70才以降にかかるとされ、その額は2021年度の厚生労働省の統計によると約1400万円。自己負担はその1~3割なので、140万~420万円ほどと概算できる。一方の介護費用は、生命保険文化センターの調査を基にすると1人あたり、平均介護期間は5年1か月で約580万円と算出された。
支出は生活費だけではない。社会保険労務士の井戸美枝さんが言う。
「住宅や自動車のローンのほか、クレジット払いなどの負債もきちんと書き出しましょう」
自宅や車の評価額を知る方法
次に、現在の預金額や株式などの有価証券や不動産の評価額といった「資産」を把握しよう。老後の収入が少なく、生活費に不足があっても、貯蓄が充分であれば心配はいらない。評価額の確かめ方について、ベリーベスト法律事務所の弁護士・田渕朋子さんが解説する。
「自宅の評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書で確認できます。固定資産税の評価額は市価の7割とされるため、固定資産税評価額を0.7で割り戻すと自宅の土地の価格の目安になります。なお、相続税に関する評価額は国税庁のホームページで確認できる路線価で計算できます。それを0.8で割り戻せば、実勢価格の目安になる。車は日本自動車査定協会に問い合わせれば、中立的な評価額がわかります」

生命保険などの“普段触らない資産”も忘れずに。
「特に払い込み済みの保険や古い保険はいざというときに“契約内容が古く、保障の範囲外だった”“受取人が亡くなっていた”といったことにならないよう、契約内容や保険金額、受取人が誰かなど、改めて確認を」(井戸さん)
同様に、価値を見込みすぎない方がいいものもある。
「宝飾品や骨董品などは、価値の変動が大きく、実際に処分や相続するときには価値が下がっていることもあるので、老後資金を試算し、話し合う際は計上しない方が無難です」(三原さん・以下同)
またネット銀行など紙の通知が届かない資産がある場合、亡くなった後にわからなくならないようにメモしたり、キャッシュカードがあればほかのものと合わせて保管しておき、保管場所を家族で共有しておこう。
「老後資金が足りない人には住宅ローンの返済が続いて苦しんでいる人が多い印象です。バブルの頃はそもそも“不動産は持っているだけで価値が上がり続けるもの”だったので、ローンの途中でも家を売って資産を増やすことができました。そうして35年ローンで72才まで返し続けるといった計画を立てていたのが、時代が変わって負債になってしまったのです。
一方、心配している人が多い葬儀代は、コロナ禍で直葬が定着してきた影響もあり、昔と比べてかからなくなっています」
中には老後資金がどれだけあるか、家族に知られたくないと考える人も多いだろう。だが、老後が近づいてきたら、金額や保管場所を秘密にするのはNG。
「老後資金は、調べることや決めておくことが多く、最終的には贈与や相続にも関係するため、客観的な意見も必要。夫婦ふたりだけでなく、子供や孫も含めて考える方が安心です」

※女性セブン2025年2月20・27日号