
今、紅白に出場する人気アーティストたちから熱視線を注がれるダンサーがいる。2023年末にはYOASOBIの『アイドル』、そして昨年末はこっちのけんとの『はいよろこんで』と2年連続で紅白の目玉パフォーマンスとなった曲の振り付けを担当したのが、ダンサー・振付師のKOTARO IDEさんだ。
“ガチ”のダンスは刺さらない
日々投稿するダンス動画が若い世代を中心に人気を集め、SNSの総フォロワーは約300万人を数えるIDEさん。彼の現在の主戦場は、TikTokやYouTubeなどに投稿される、15秒から60秒ほどの「ショート動画」だ。
彼の発信するコンテンツの中で特に人気なのは、アニメからキャラクターたちの特徴的な動きを抽出し、その動きに合わせて踊ることでダンスに昇華させた「アニメダンス」というスタイル。シンプルで特徴的な動きと“アニメ×ダンス”という着眼点が人気を博し、フィギュアスケーターの羽生結弦(30)も「踊ってみた」動画を公開するなど話題になった。
IDEさんは、アメリカで行われたダンスの世界大会で優勝経験のある実力者。彼がTikTokに動画を投稿し始めたのは、2018年のことだった。
「ぼくは子どもの頃から、世界で活躍する人になるのが夢でした。SNSで発信を始めた当時は、ダンスで世界一を獲り、ダンスだけでないアーティストへの道を探って日本で活動し始めた頃だったんです。

かねて“アーティストになりたい”という思いを話していて、ダンサーとしての仕事でお世話になっていた方に、“TikTokというものがあるんだけど、やってみない?”と声をかけていただきました。
動画の内容は、投稿を始めた当初からずっとダンスです。ただ、“どんなダンスをどうやって踊るか?”という部分は常に試行錯誤を続けてきました。ショート動画の主要な視聴者層である中高生には、いわゆる“ガチ”のダンスは刺さらない。
“こんな動きしたら、みんな面白いと思ってくれるよね”という動きを一つひとつ、自分の体で形にしていくという作業です。何本も動画を撮影して投稿するなかでちょっとずつ違いを作り、少しでも再生回数が伸びたら、その部分をもっと突き詰めてやってみる。研究を重ねるなかでたどりついたのが、アニメダンスです」
地道に研究を続けながらコツコツと動画投稿を続けるうちに、自分なりの「バズるための方程式」を導き出した。今やTikTokのフォロワーは200万人を超え、トレンドを生み出すインフルエンサーに成長した。

YOASOBI本人からの連絡
2023年末、紅白の最終盤で『アイドル』を披露したYOASOBI。その日のパフォーマンスではYOASOBI本人たちだけでなく、司会の橋本環奈、乃木坂46やNewJeansなど、豪華アーティストたちが集結して踊るという演出が話題となった。
IDEさんが『アイドル』の振付を務めることになったのは、やはりアニメダンスがきっかけだったという。
「2023年の4月、『推しの子』というアニメが始まりました。その主題歌が『アイドル』。ぼくはいつもアニメダンスを作っているように、『推しの子』の中から面白い動きをピックアップして、『アイドル』の曲に合わせてダンス動画を作りました。
そしてご存知の通り、アニメ自体がものすごくヒットして。その後押しがあって、ぼくが考案したアニメダンスもTikTokでバズりました。『推しの子』ブームはアニメの放送終了後も収まる気配はなく、アニメダンスの「踊ってみた」動画もどんどん広がっていったんです。
その後はK-POPアイドルの方々にも広がっていって。9月か10月ごろにはTWICEさんが踊ってくれました。それによってTWICEさんのファンの皆さんの間でも広がって、どんどん拡散されていきました。
12月、YOASOBIさんご本人のSNSアカウントから紅白での使用許可を尋ねるご連絡が来たときは、もともとYOASOBIさんの楽曲がすごく好きだったこともあって、本当に嬉しかったです」

“ギリギリダンス”ヒットの一因に
2023年末に華を添えたIDEさんのダンスだが、その翌年も、彼のダンスが世間を席巻することになった。
2024年“最もバズった曲”といえるのが、菅田将暉の弟・こっちのけんとによる『はいよろこんで』だろう。“ギリギリダンス”というサビの特徴的なフレーズが人気を博し、SNSでの総再生回数は100億回を超える大バズりとなった。
この曲のヒットを後押ししたのが、IDEさんが振付を担当したダンス。彼の考案した公式ダンスが「踊ってみた」動画として急速に拡散され、ここまでのヒットにつながったのだ。著名人の間でもブームとなり、香取真吾や小林幸子も「踊ってみた」動画を披露。この曲が幅広い世代に認知されるきっかけをつくった。
「こっちのけんとさんとは、『はいよろこんで』が発表される2ヶ月ほど前に、友達として出会って仲良くなったんです。この曲を初めて聴いたときに、率直に“いい曲だな”と思いました。
もともとあったMVをもとに、もっとみんなが踊れるようなダンスに変えて拡散しやすくすることで、『彼の力になればいいな』という思いで踊ることにしたんです。それで、あのダンスが生まれたんですよ。その後本人とコラボして、“じゃあ、これを公式にしよう”という流れで決まりました。先に振りを作って、その後に公式として認められたんです」
『はいよろこんで』は、紅白でトップバッターを飾った。出場アーティストらが一同に会したオープニングの直後だったこともあり、その場にいた錚々たるアーティストたちがそろってIDEさんのダンスを踊った。IDEさんのつくるキャッチーでコミカルなダンスが改めて認知される瞬間となった。
歌手として紅白の舞台に立ちたい
現在は、歌手としてのデビューをめざして日々レッスンやトレーニングを積み、その様子を公式YouTubeに投稿している。自ら作詞とプロデュースを務めるオリジナル曲も10曲以上あり、今後歌手活動を本格化していく予定だという。
「これまで自分はダンス一本でやってきましたが、やっぱり自分は歌でも世界の舞台に立ちたい。将来的にはドームや世界ツアーも組めるくらいのアーティストになりたいと思っています。
今年の目標は自分の楽曲で、1曲、世の中に自分を知ってもらえるものを作りたいです。振付ではなくて、今年こそ歌での紅白出場もめざしたいですね(笑い)」

