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《「皇室は女性差別」問題について》弁護士の菅野志桜里さん、愛子さまの現状に「私たちはもっと反省を」「皇室に入った女性を苦しめる制度はやめるべき」

愛子さまの将来が揺れている(2024年12月、東京・港区。撮影/JMPA)
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1月27日、日本政府は国連への拠出金を、「女性差別撤廃委員会」の活動に使わないよう求めた。昨年10月、同委員会が皇室典範について「皇位継承における男女平等を保障するよう改正すべき」と勧告したことへの対抗措置だった。

間を置かず、1月31日には安定的な皇位継承に関する与野党協議が行われ、額賀福志郎衆院議長は「今国会中に結論を得たい」と表明した。女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する案には各党派がおおむね賛同している一方、配偶者や子供の身分をどうするか、といった課題はクリアになっていない。

女性皇族の今後を左右する議論が一気に進み始めたように見える一方、議論の本質は、本当に天皇家の愛子さまや秋篠宮家の佳子さまをはじめとした女性皇族のお気持ちに沿っているのだろうか。皇室制度に詳しい、元衆院議員で弁護士の菅野志桜里さんに見解を聞いた。

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「女性差別撤廃委員会」からは、今から9年前にも皇位継承について同様の指摘がなされようとした過去があります。その時には、政府が抗議をして最終見解案から削除させました。その後時間があったにも関わらず、議論を先送りにしていたことが、今回の勧告にまでつながったのでしょう。これまで政府として真摯に対応してきていれば、「しっかりと問題解決に向けて国会や国民全体で議論しているので、国連から非難される言われはありません」と堂々と説明できたはずです。

外圧によって重い腰を上げたとか、議論が左右されたように見られたくないという思惑も

お金の使途を制限するといった敵対的な手段は、昨今の国際情勢の中で、アメリカや中国、ロシアなどが力で理屈をねじ伏せて自国の主張を通そうとする傾向に似ています。日本政府が、そうした風潮を真似るような強硬姿勢をとってみせることは、まったく日本のためにならないと思います。

現行の皇室典範では、《皇位は、皇統に属する男系の男子たる皇族が、これを継承する》と規定されています。それが「皇室は女性差別」と映ったわけですが、「男系男子」を強く主張するのは保守層の勢力でした。

今回の対抗措置を聞いて、少し驚いた点もありました。というのも自民党内では、強硬な保守系議員が前回の衆院選で当選できず、減少傾向にあるわけです。それこそ安倍政権の頃と比べると中道な政権になっているにも関わらず、現在の石破政権でも強権的な措置をとったのには疑問も残りましたね。皇位継承については必ず議論をしなければならないわけですから、外圧によって重い腰を上げたとか、あるいは議論が左右されたように見られたくないという思惑もあったのかもしれません。ただ、大事なのは国内での本質的な議論であって、外に対して居丈高にふるまうことが適切なテーマであるとは思いません。

国会議員の多くが「自分は男系であってほしい」とか「自分は女系派だ」といったように、個別の願望を載せて皇室制度について話すからです。そうではなくて、「国民はどういう皇室であってほしいと思っているか」、「皇室に対して自然と信頼や敬愛を抱くにはどのような制度であるべきか」といった見方をしなければならないでしょう。

こっそりと「皇族数の確保問題」にすり替えられた

そもそも、「今国会中に結論を出したい」としている皇族数確保のための議論も、本来は「安定的な皇位継承」のためのものです。天皇退位に関する皇室典範特例法の付帯決議では、安定的な皇位継承を確保するための課題というのを真っ先に挙げて、先延ばしできない喫緊のものとされたわけです。にも関わらず、こっそりと「皇族数の確保問題」にすり替えて、皇位継承に関してはずっと先送りしてきた。その時点で、皇室の皆さまに真摯に向き合っているとは言い難い。

その影響をダイレクトに受けているのは、やはり女性皇族です。少し話は逸れますが、愛子さまは今年の『歌会始の儀』において、《我が友と ふたたび会はむ その日まで 追ひかけてゆく それぞれの夢》という歌を詠まれました。それぞれの夢や目標を追いかけていくご友人との邂逅を望まれるお気持ちが伝わる一方、よくよく考えると、愛子さまは果たして天皇になる可能性があるのか、結婚した場合皇族として生活するのか、それとも一般国民になるのかという、人生の根っこの部分をご自身で決められず、先行きの見通しが立てられない状況です。若者として人生の夢や目標が定められない状況を強いてしまっていることを、私たちはもっと反省しないといけません。運命の枠づけさえない中で、生まれ育っていく方々の人生はどんなものだろうという想像力を私たちはもっと持つべきですし、国会議員はより持つべきだと思います。

女性皇族が結婚後も皇族でありながら、配偶者や子供は一般国民となれば、「家族観」として明らかに歪

それでもなお皇室の中で生きていくというご覚悟を持っていらっしゃることは切に感じます。法的な話とは別に、やはり皇室の方々と私たち国民は同じ日本という国に生きる人間同士という温かさがあってしかるべきだと思いますし、人間としての思いやりや温かさというものが、この議論にはどうも欠けている気がします。

実際、仮に女性皇族が結婚後も皇族でありながら、配偶者や子供は一般国民となれば、「家族観」として明らかに歪ですよ。かつて皇室というのは日本の家族観のロールモデルのようなイメージがありましたが、家庭の中に皇族と一般国民が混在していては、国民からの見え方がおかしくなります。住む場所や生活費の問題なども発生しますし、たとえば、配偶者や子供は選挙に立候補することはできるのか? どこかの政党を応援できるのか? 表現の自由はどこまで保障されるのか?と疑問ばかりが浮かびます。結局は皇族並みに行動や言動を制限されるのは明らかです。であれば、配偶者にもその子供にも、皇族の身分を与えるのが至極自然なことだと思います。

それでも保守派は「男系男子につながるから」と否定的な姿勢を崩さず、「旧宮家の男系男子が養子として皇族に復帰する」案の議論に進んでいこうとするのでしょう。考えるべきは、男女関係なく親子のつながりで天皇がつながっていく制度と、旧宮家とはいえ一般国民から養子を取ってでも男子でつないでいく制度、どちらの方が自然に親しみや敬う気持ちを国民の多くが持てるかということ。答えは明白ですし、自ずと女性天皇・女系天皇を認める方向で議論が進むべきです。

いまの男系男子の制度というのは、「男子を産みなさい」という強烈なプレッシャーが各妃にのしかかってきたものでした。お世継ぎの重圧から心身の不調を訴えられる姿も、私たちはこれまでに見てきたわけです。皇室に入った女性を苦しめる制度はやめるべきだし、それを変えることによって皇室が自然につながっていくのなら、これ以上のことはないと思います。女性皇族の苦しみを少しでも減らし、それによって皇位継承も安定するわけですから、矛盾はありません。それを理解した上で、「皇位継承のあり方」について、国全体で考えて行くべきなのです。

皇室をめぐる課題に切り込む菅野さん(提供写真)
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~~プロフィール~~
菅野志桜里(かんの・しおり)
弁護士。2009年、衆議院議員選挙で初当選。3期10年にわたり衆院議員を務め、待機児童問題や皇位継承問題、憲法改正などに取り組む。2021年に次期衆院選への不出馬を表明。同年11月、一般社団法人国際人道プラットフォーム代表に就任した。

愛子さま(写真/宮内庁提供)
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車椅子バスケをご観戦の天皇皇后両陛下と愛子さま
天皇陛下もスカイブルーのネクタイでリンク(2025年2月2日、撮影/JMPA)(2025年2月2日、撮影/JMPA)
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「令和7年皇宮警察本部年頭視閲式」に出席される雅子さまと愛子さま
ロングコートにブーツというおそろコーデの雅子さまと愛子さま(2025年1月24日、撮影/JMPA)
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ご静養のため、栃木県塩谷郡高根沢町にある御料牧場をご訪問の天皇皇后両陛下と愛子さま
動物好きの天皇ご一家。今年も牧場での静養を選ばれた(2024年5月2日、撮影/JMPA)
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(写真/時事通信)
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ご静養のため、栃木県塩谷郡高根沢町にある御料牧場をご訪問の天皇皇后両陛下と愛子さま
静養に入られた天皇ご一家(2024年5月2日、撮影/JMPA)
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新年祝賀の儀に、白いローブ・デコルテとティアラの正装で臨まれた愛子さま
新年祝賀の儀に、白いローブ・デコルテとティアラの正装で臨まれた愛子さま(2025年1月1日)
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