
“いつまでもダイエットに成功しない”いう人に朗報! かつては“肥満は敵”といわれたものだが、近年「中高年以降は小太りの方が健康にいい」という説が浮上している。「いい小太り」の基準や、やせ型のリスクなど、見た目や体重だけでは測れない「長生きできる体」について、いま一度、見直してみよう。
“若く見える”よりも“元気そう”を目指す
中高年以降は「スリム」より「ぽっちゃり」がいいのはなぜか。医学的に解説する。
お腹や二の腕をつまんではため息をつき、「今度こそダイエットしなきゃ」と重い腰を上げる…。
「そう悩む中高年女性の中で、医学的に減量が必要な肥満の人はそれほど多くないといっていいでしょう」と言うのは、抗加齢医学の第一人者である伊藤裕さん。
肥満を判定する際に用いられるのが、「BMI」という指標。判定値は国ごとに異なるが、日本の標準値は22で、25以上が肥満とされている。たとえば身長150cmでBMI22の人の体重は49.5㎏、BMI25だと56.25㎏となる。

標準値が22である根拠は、統計上、肥満に関連する症状(糖尿病、高血圧、脂質異常症)に最もかかりにくい数値だとされる。
「肥満の判定値域にあるからといって、イコール病気ということではありません。日本肥満学会でも『BMI25の肥満は医学的に減量を要する状態とは限らない』と注釈を添えています。
むしろBMIが低い方が、老後の健康を損なうリスクがあると考えています。国内外の調査でも、BMIが低体重の域に入ると死亡リスクが急増するという統計データが出ているのです。
将来の寝たきりリスクを考えると、中高年以降はダイエットをするよりも、しっかり食べて『やせない体づくり』にマインドシフトする必要があると思います」(伊藤さん・以下同)
手でつまめ、主に下半身につく皮下脂肪は、美容的には“悪者”とされがちだが、健康面においては必須だという。
「皮下脂肪が少し多い方が、風邪やがんなどの疾病と闘う際のエネルギーに利用できる点で有利です。
もちろん、多すぎるとひざの痛みや圧迫骨折など整形外科的な問題が生じますが、日常生活を送るうえでは支障がなく、審美的な観点で『やせたい』と考えている女性の多くは『健康的な小太り』と言えます。
欧米に比べ、日本女性には極端な肥満が少ないせいか、太ることに敏感な傾向があります。年をとってもスリムな体形に憧れる気持ちがあるかもしれませんが、医師の視点で見ると、高齢でやせていると心配になってしまいます」
食が細くなり、筋力が低下することでフレイル(健康と要介護の中間の状態)になると、日常生活にも支障をきたし、寝たきりのリスクが高まる。厚生労働省が2022年に発表した調査結果によると、女性の平均寿命は87.09才だが、健康寿命は75.45才。12年間も、自分で活動することがままならない状態で過ごす高齢者が多いという事実に驚かされる。
「フレイルになった状態から太るのは非常に難しいので、動けるうちから小太りを目指した方がいいですね。
年を重ねたら、『若く見られる』ことよりも『元気そうに見られる』方が、いろいろな面で価値があります。
いまの体形を受け入れ、快活で朗らかにしている知人に会うと、『健康で幸せな人生を歩んでいるのだな』と安心するものです」

いい肥満と悪い肥満がある
女性は男性に比べて皮下脂肪がつきやすいという。小太りがいいといっても、皮下脂肪が増えることで疾患のリスクが高まることはないのだろうか。
「前述のように見た目で悩む人や、関節の痛みにつながるケースはありますが、内臓が悪くなることは、それほど多くはありません。
肥満にも善し悪しがあって、私はいい肥満を『内臓疾患になりにくい肥満』、悪い肥満を『内臓疾患になりやすい肥満』と定義しています。内臓疾患になりにくいのは皮下脂肪が多いタイプで、後者は内臓脂肪が多いタイプ。つまり、女性はいい肥満に、男性は悪い肥満になりやすいのです。
脂肪が皮下につきにくい男性は、その分の脂肪を内臓に蓄えてしまいます。しかし本来、脂肪は皮下にためられるべきもの。それが内臓にたまるという非常事態に、体は血圧や血糖値の上昇といった“拒否反応”(いわゆるメタボリックシンドローム)を起こし、病気を誘発します」

男女の性差は、飲酒や喫煙など生活習慣の違いの影響もあるが、ホルモンの違いが大きい。
女性ホルモンは皮下脂肪をためこむ性質があるが、男性ホルモンは筋肉の成長にかかわるため、皮下脂肪がつきにくいのだ。
「メタボリックシンドロームの診断基準の1つに腹囲のサイズがありますが、男性が85cm、女性が90cm女性の方が大きいのは、皮下脂肪が多い分、基準を緩めているのです。
たとえば女性と男性のどちらもBMI26で、女性の方がふくよかだったとしても、男性を疾患リスクの高い『悪い肥満』と判断し、厳しく健康指導を行います」

となると、閉経で女性ホルモンが減少する中高年以降の女性は、一気に内臓脂肪が増えるのだろうか。
「確かに、閉経後に血圧や血糖値が上がるかたが多くなるのは事実です。しかし、男性並みに内臓脂肪が多くなる女性は、割合としては少ないですね」
内臓脂肪は体形や体重では判断しづらいので、気になる場合は医療機関でCT検査を受けるのが確実だ。
「ただ、医師として“小太りはまったく問題ない”と断言できない点があります。昨今、男女ともにすい臓がんや大腸がんが増えていて、それらは肥満とかかわりがあるのです。
血糖値を一定に保つインスリンは肥満になると効きにくくなり、分泌量が増加します。しかし、インスリンの分泌が多い状態はがんが育ちやすくなるのです。
不安を取り除くためにも、ぽっちゃり気味の人は60才になったら一度は大腸がん検査を受けることを強くおすすめします」
大腸がん検査で異常がなければ、その後の検診は数年に一度でいいそうだ。
「小太りOK」と油断して“食べてゴロゴロ”はもちろんダメ。病気も怖いが、それ以上に老後何年も動けなくなることの方が怖い。
◆慶應義塾大学予防医療センター特任教授・伊藤裕さん
慶應義塾大学名誉教授、医学博士。世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱した抗加齢医学の第一人者。近著に『いい肥満、悪い肥満』(祥伝社新書)ほか著書多数。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2025年3月20日号