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【不動産の相続】骨肉の争いを回避するために…誰からも不満が出ない「家族会議の開き方」 親が思う“平等”と子供が求める“平等”はイコールではないことに注意

争いを回避するための家族会議の開き方とは(写真/PIXTA)
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いまや“老後の大仕事”に相続が待っていることは、世の常識になりつつある。一般家庭こそ、“争続”が起こりやすいことを実感している人も多いだろう。とりわけ、手続きが複雑な不動産相続や、誰も住まなくなった実家の始末は「相続の壁」になりやすい。だからこそ、失敗と損をしないための家族会議が必要なのだ。【前後編の前編】

【目次】

相続を巡る家族の骨肉の争いを回避するカギは「家族会議」

日本の人口の5人に1人が後期高齢者となる今年、相続や実家の始末は誰にとっても身近かつ深刻な話題だ。本誌・女性セブンで詳報したとおり、2020年に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった志村けんさん(享年70)の自宅も、この3月から解体が始まった。志村さんの死後、5年間にわたって管理してきた兄・知之さんが高齢により、維持管理が難しくなったためだという。

超高齢化に伴い相続トラブルも増えている。司法統計年報のデータによると’23年の遺産分割事件数は1万3872件で、20年前の1.5倍に急増した。ベリーベスト法律事務所の弁護士・齊田貴士さんが語る。

「近年は超高齢化に加えて不動産登記や空き家に関する新しい法律が制定され、不動産相続や実家の始末に悩む人が増えています。

実際に相続が発生してから、きょうだいや親族が揉めて『争続』になっているとの相談も多いです」

超高齢化に伴い相続トラブルも増えている(写真/PIXTA)
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不動産の相続はただ揉めやすいだけでなく、必要書類が多く手続きが煩雑で相続のハードルが高い。しかし逆に言えば、これらの問題さえクリアできれば“相続に克った”ようなもの。

そのカギは「家族会議」にあると司法書士・行政書士の太田昌宏さんが語る。

「とりわけ遺言書がないケースでは、自宅の相続で、きょうだいが争って修復不可能な関係になったり手打ちになってもしこりが残ったりする事例が目立ちます。事前に家族会議を開いて綿密に話し合っていれば、大半の相続トラブルは避けられたはずなのです」

骨肉の争いを回避する方法としてスポットライトを浴びている家族会議。具体的にいつ、どこでどのように行えばいいのだろうか。

親が亡くなってから「あれがない」「これがない」は子供の負担が大きい

家族会議とは文字通り、家族で行う会議のことだが、不動産相続や実家の始末について、そもそも誰が切り出すべきなのか。太田さんは「相続する側の親から子に持ちかけるのがベター」と指摘する。

「子供の方から切り出すと、“早く死んでほしいのか”、“遺産目当てではないか”と親が疑ってこじれることがあります。相続にはまだネガティブなイメージがあるので子供からは言い出しにくく、できるだけ親から切り出してほしい」

齊田さんも親から呼びかけることを推奨する。

相続に関しては、できるだけ親から切り出すほうが良い(写真/PIXTA)
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「相続争いを避けるには、親が自身の健康に不安を感じたり、終活を考え始めたりしたタイミングが最適でしょう」

親から子に持ちかける際は、わざわざ会議を開く理由をしっかり伝えたい。

「『健康診断で悪い数値が出て、先が心配になった』『雑誌で相続の記事を見て、そろそろ自分も考えなければと思った』など、具体的な理由を家族で共有しておけばみんなが同じ方向を向きやすく、話し合いが有意義になります」(太田さん・以下同)

とはいえ、親がなかなか老化を認めなかったり、子供が実家を離れ、遠方に住む親と会う機会が少ないこともある。そうした場合、子供から家族会議を切り出してもいい。

「お盆や正月などに家族が集まったタイミングで、相続特集をする雑誌などを見せて親に興味を持たせて、『家族会議といっても大げさなものじゃないから、一度話し合ってみない?』と水を向けると親も話に乗りやすい」

RICS代表で実家じまいコンサルティングの金石成俊さんは「特に実家の行く末については、親が元気なうちに話し合うのが必須」と語る。

「よく起こりがちなのは、家の権利書などの重要書類が引き継ぎされておらず、親が亡くなってから家捜しを強いられるケースです。家捜しはかなりの労力を要するので、親が元気なうちに家族会議を開いて『大切な書類はここに置いてあるから』といった引き継ぎをしておいてほしい。親が入院したり、施設に入居したりするときも会議に適したタイミングです」

いまは元気でも、何らかのアクシデントで急死したり、認知症になったりする可能性は充分にある。それゆえ、できるだけ早くから準備を進めておきたい。

家族会議に出席するメンバーは、法定相続人である家族に限るのが基本だ。

家族のなかに“問題児”がいる場合でも、外すより全員に声をかける方がトラブルを避けられる。

「金遣いが荒い子供や定職に就いていない子供がいて、“相続させたら財産を食い潰すのでは”と心配になるのはわかりますが、かといって声をかけないと、『のけ者にされた』と逆上してかえって揉めやすい。本人の資質にかかわらず、家族会議には相続人を全員呼ぶべきです」(太田さん)

家族会議を招集したら、まずは「財産の洗い出し」を始めよう。

親の財産関係を確認しておくことが大事になる(写真/PIXTA)
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「子供は親から直接、財産関係を確認しておくことが大事です。不動産相続をするにしても所有状況だけでなく、銀行口座の保有状況や投資関係の資産の有無など、不動産以外の資産状況もできるだけ細かく聞き出しておくとのちのち便利です」(齊田さん)

親が実家以外の不動産を所有しているケースもある。それらがきちんと共有されればいいが、代々受け継いで資産価値がない田舎の“負動産”などは、親が子に教えたがらないことも多々あるという。それでも家族会議では、すべての不動産情報を把握できるよう、子供の方から上手にアプローチしたい。税理士の前田智子さんが解説する。

「財産について子供は何があるか把握しておきたいと願う一方、親は見せたくないケースが少なくありません。この場合、『自宅のほかに不動産はないの?』と直接的に聞くよりも、『お父さんが認知症になるかもしれないし、私たちはどんな財産があるか知っておきたい』と話を振れば、親から自然と聞き出すことができます」

親が所有する不動産をすべて洗い出すには、「固定資産税課税明細」を確認する方法もある。

「不動産の所有者に課税される固定資産税の通知書で、毎年4月に市区町村から所有者の住民票がある住所に送付されます。親が自宅だけでなく、遠方の不動産を所有していることなども、明細を見ればわかります」(前田さん・以下同)

ただし不動産の価格が一定金額以下だと固定資産税が免税になり、固定資産税課税明細が届かない。

「その場合、親が所有する不動産の大まかな位置がわかれば、その所在地の市区町村役場で『名寄帳【※】』を確認する方法があります」

【※注/市区町村が不動産の情報を所有者ごとにまとめた一覧表。該当の不動産がある市区町村での手続きが必要となる】

親が思う「平等」と、子供が求める「平等」はイコールではない

財産の洗い出しを終えたら、不動産を誰がどのように相続するかを具体的に話し合いたい。その場ではどんな点に気をつければいいだろうか。前田さんが言う。

「親は“平等”に分けたつもりでも、子供はそう受け取らないケースが多い」  その典型例が、子供(親にとっての孫)がいるきょうだいと、子供がいないきょうだいの確執である。

「親はどうしても孫がかわいいから、生まれたときのお祝いや教育資金などを提供することが多い。それでいて家族会議の場で親が『財産はきょうだいで平等に分けてほしい』と口にすると、子供がいないきょうだいは不公平に感じ、自分の取り分を多くするよう求めるケースが目立ちます。売り言葉に買い言葉で子供がいるきょうだいが、『産まない選択をしたのはあなただ』などと食ってかかり、泥沼のトラブルに発展しやすい」

財産の話し合いはトラブルに発展しやすい(写真/PIXTA)
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兄は大学を卒業したのに弟は大学に行けなかったケースなどでも、家族会議で親が“平等”な遺産分割をめざすと、弟が「兄さんばかり優遇されているじゃないか」と猛抗議して家族の絆が壊れやすい。

「過去の教育費や婚姻費用、生活援助など、親からもらったお金の額がきょうだいで異なると、相続の際に揉めることが多くなります。親からお金をもらっていない人ほど過去のことを覚えていて、不平不満が爆発して感情的なしこりが残りやすいのです」

また、ひとりだけ実家の近くに住んでいたきょうだいに親の介護負担が集中したり、きょうだいの世帯収入に差があったりする場合も、親が金額に差をつけずに相続させようとすると思わぬ反発を招き、骨肉の争いになってしまう。

また、親の平等志向だけでなく現実の遺産の内容によっても「争続」は生じる。特に多いのが、「財産は実家だけ」というパターンだ。

たとえば、親が亡くなると相続人が兄と妹の2人だけで、遺産が「預貯金2000万円のみ」だったら、兄と妹で1000万円ずつ等分すればいい。しかし同じ額でも、遺産が「資産価値2000万円の実家のみ」の場合は事情が異なる。

「このケースで親と同居する兄が自宅を相続すれば、取り分がない妹は当然納得がいかないでしょう。このように“分けられない遺産”がある場合は相続トラブルが起きやすい。自宅に住む人がいなければ相続後に売却して均等に分ければいいが、住む人がいると問題がこじれます」

妹があくまで現金を望めば、法定相続分の1000万円を兄に支払わせる「代償分割」を法的に求めることができる。しかし、そのお金を兄が工面することができないと、最悪の場合、親から相続した自宅を売って妹に渡すお金を捻出することを強制されて、兄が住む場所を失うという地獄絵図が待っている。

資産を均等に分けるという視点だけでなく、それまでの親と子、孫とのかかわり合いや金銭援助、負担を加味したうえで話し合うことが必要だ。

相続では節税も大事だが、「残された者の気持ち」を忘れると本末転倒に

相続税についても学んでおきたい。親のどちらかが亡くなり、その配偶者が主に相続する「一次相続」にはさまざまな優遇策がある。

たとえば夫が亡くなった場合、妻は相続する財産が1億6000万円(ないし法定相続分)まで相続税がかからない。

「さらに夫(父)が自宅として使っていた土地を妻(母)や同居する子が相続する場合、相続財産としての評価額が80%減額される『小規模宅地等の特例』が使えるケースがあります」

ただし、夫や妻が亡くなり、ひとりになった親が亡くなった後の「二次相続」では一次相続にあったさまざまな優遇策がなくなり、相続税がドカンとかかるケースがあるので心したい。

相続では相続税対策を含め、考えるべきことが多い(写真/PIXTA)
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相続では、「生前贈与」の非課税枠を使って節税する方法もあるが、不動産の生前贈与はあまりおすすめできない。

「贈与税は相続税に比べて基礎控除額が低く、かつ税率が高いため、不動産の生前贈与は避けるべきです。

ただし、将来価格が大きく上がりそうな不動産は、まだ価格が安いうちに生前贈与をして贈与税を払っておいた方が節税になる可能性があるので検討してもいいでしょう」(齊田さん)

もちろん節税は大事だが、「残された者の気持ち」を忘れると本末転倒になる。

前田さんが知る、ある3姉妹のケースだ。次女は父が亡くなった際、二次相続の負担を回避するため母に遺産を渡さず、3姉妹が相続するように仕向けた。ところが納得したかに見えた母は、本心では生活のために自分にも遺産を分けてほしかったという。

「これから娘たちに面倒を見てもらわないといけないお母さんは泣く泣く次女の提案をのもうとしましたが、最後の場面でついに本音を口にしました。すると自分の正しさを疑わない次女と、母の側に立つ長女、三女が激しく対立して、最終的に絶縁状態になった。

要は、節税も大事だけど気持ちも大事ということです。お母さんと次女が前もって充分な話し合いをしておけば、悲劇を避けられたかもしれません」(前田さん・以下同)

家族であるがゆえに一度こじれたら、なかなか元には戻れない。

「事前に夫婦で相続の方向性を話し合い、それがまとまってから子を含めた家族会議に臨むとスムーズです。そのうえで、たとえば長男に自宅を相続させる場合は、どういう理由によるのかをきちんと考えたうえで子供たちに伝える。丁寧な説明が何よりも求められます」

家族会議は一度きりではなく何度行ってもいい。心がけたいのは、時間をかけてじっくり話し合うことだ。

「現実に家族会議の場で揉めることもありますが、まずはお互いの意見を傾聴すること。腹を割って話し合い、揉める要素が見つかったら、次回以降の話し合いで妥協案を出すなどして、少しずつ前に進めばいい。

家族会議の際はメモ書きや箇条書きでいいので内容を記録し、2回目、3回目の会議で『この件は前回、こんな話になったよね』などと確認しながら進めていくと、よいゴールを迎えられるはずです」(太田さん)  

「家族会議」では土地の概算価格も算出しておこう
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(後編に続く)

※女性セブン2025年3月27日・4月3日号