脚の痛みは放っておかれる
久道さんは、「脚に痛みが出るのは体の不調のサイン」だと続ける。にもかかわらず、その痛みをスルーしてしまう人は少なくない。痛みが出ている時点で“手遅れ”になっているにもかかわらず、「脚や関節の痛みは老化現象だから受け入れるしかない」と対処しないままにしてしまうのだ。
「例えば、3日間お腹が痛ければ、のんきな人でも病院に行かなきゃダメだと受診しますが、脚の場合だと、1か月や2か月は痛くても放っておかれることがあります」
都内在住の派遣社員、Mさん(45才)もそのひとりだ。
「コロナ禍でジムを退会してからずっと運動不足だったので、階段での昇降運動とランニングを始めたら、ひざが痛くなったんです。
病院に行くと、炎症が起きていて、軟骨がすり減っていると診断されました。一度すり減った軟骨は自然に戻ることはないと医師に言われ、痛みが出る前に、できたことがあったんじゃないかとショックを受けるやら、後悔するやら。ひざの痛みをかばっていたら股関節まで痛み出して歩くのも億劫になってしまいました」
こうした事態を防ぐためにいま推奨されるのか、竹下も受けた「脚と足の健康診断」だ。久道さんのクリニックでは「足の見えるか検診」を行っている。
「いわば人間ドックの足バージョンです。足をひとつの臓器と捉え、皮膚や脂肪、腱、筋肉、血管、神経、骨を、整形外科や皮膚科、形成外科、血管外科など専門的観点から全面的にチェックします。水虫や巻き爪など皮膚や爪のトラブルから、動脈硬化や静脈瘤など血管の異常、足底圧や歩行バランス、足の変形、関節の可動域、骨密度、筋力まで幅広く検査します。
前述の通り、脚のトラブルは1か所だけで起こるのではなく、骨と皮膚のトラブルが一緒になるなど複数の場所で同時に発生していることが多いんです。それを全部診ないと、本当の評価はできません」(久道さん・以下同)
骨や関節、痛みのある部分だけ診ていては、重篤な疾患を招いてしまうこともあるという。
「男女問わず、動脈に不具合があって脚に栄養を送る血管に問題があると、脚の痛みどころか足の壊死から切断につながる可能性もあります。女性でいえば、静脈系の鬱滞(静脈の流れが滞り、血液がたまっている状態)が起こっているかたが多い。下肢静脈瘤が原因で脚に鬱滞性皮膚炎が起きたり、それがさらにひどくなると脚の潰瘍まで重症化することもあります。非常に治りにくい傷なので、未然に防ぐことが大切なのです」
足と脚の健康診断で細部までまんべんなく調べることは、脚の老化を知るきっかけにもなる。実際、加齢とともに脚の状態はどう変化していくのか。高林さんが言う。

「体の7割の筋肉は下半身についています。日本人は座っている時間が長いので、お尻のつけ根から太ももの後ろ側にかけての筋肉『ハムストリング』が弱りやすい。ハムストリングが弱ると、柔軟性がなくなり硬くなって短くなるので、骨盤が後ろに傾き、体が後ろに倒れやすくなります」
骨盤が傾いて骨格のバランスが崩れると、体全体に悪影響が生じる。
「歩いているときも無意識に重心を前に持ってこようとするので、姿勢が前かがみになるし、ひざが曲がります。歩くたびに骨や関節に変な圧力がかかって、股関節や腰を痛めやすい。猫背になると肺が圧迫され、すぐに息切れするようにもなります」(高林さん・以下同)
ひざや関節の痛みがなく、「まだまだ大丈夫」と思っていても、すでに変化が起きていることもある。高林さんは「しゃがめない人」「立位前屈できない人」は要注意だと指摘する。
「骨盤が後傾して体の重心が後ろにきている人は、しゃがむと後ろに倒れます。しゃがめても、かかとを浮かしたり、両手を前に出したりしないと姿勢を保てない人も、すでに骨格がゆがみ、骨や関節に負担がかかっているといえる。立った姿勢から前屈したときに手のひらが床につかない人は、ハムストリングが短くなっている可能性が高い。
ひざからも筋肉の衰えがわかります。ひざを鏡で見たときに、お皿の上の内側に横じわが数本ある人は、ひざ周辺の筋力が衰えている。片足立ちが5分できない人も、脚の筋力が弱っています」
こうした“脚のサイン”を見逃すことで痛みが出て悪化したり、足に負担がかかって巻き爪やアーチの変形にも影響してしまう。
※女性セブン2025年4月10日号