
厚労省によると、65才以上の女性において“自覚症状のある不調”の1位は腰痛、2位は手足の関節の痛み、3位に肩こりがあがった(2022年)。年を重ねるほどに、「痛み」とのつきあいが増え、悪化すれば寝たきりや認知症の発症・悪化など心身への大きな影響があるので、整形外科のかかりつけ医はどうしても必要だ。しかし、絶対に選んではいけない医師がいる。
持病を知らないのに薬を出すのは危険
階段の上り下りでひざが痛くなる、長時間歩くことができない、肩が痛くて腕があがらない―「歩くこと」が健康にいいとわかっていても、それが叶わず、整形外科の門を叩くことは、シニアにとって避けられないことだ。戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝さんが言う。

「加齢によって軟骨がすり減ることで、ひざ、腰、肩の痛みを訴えて受診されるかたが大多数です。ゴルフやテニスで痛めた、転んだなど原因が除去しやすければ数回の治療ですみますが、デスクワークなど長年の環境によるものや加齢変化が原因で起こる痛みの治療は継続を要するため、かかりつけの整形外科選びは老後の生活を送るうえで極めて重要といえます」(戸田さん)
整形外科を受診する場合、まずチェックすべきは「専門医がいるかどうか」だと言うのは、日本整形外科学会専門医の歌島大輔さんだ。

「整形外科に限らず、医師免許を持っていれば、麻酔科と歯科以外は診療科の標榜が自由にできます。したがって、整形外科の専門でなくとも看板を掲げられる。近年では専門医制度が整備されてきたため、整形外科学会に所属している専門医であるかどうかを確認しましょう」(歌島さん)
痛みは人によって感じ方が異なる。だからこそ医師は、どこがどのように痛むのか患者から丁寧に聞きとらなければ原因がわからず、治療もできない。
「なぜ痛くなったのか、きっかけをきちんと聞くのはもちろん、既往歴の有無や、別の病気で治療中かどうかなど詳細な問診が必要です。“自分は内科医じゃないから”と、既往歴を聞かない医師もまれにいますが、薬を処方することもあるので持病を知らないのは危険。痛み以外の体の状態を知ろうとしない医師は避けた方がいい」(歌島さん)
戸田さんも続ける。
「発症の時期や、どんな動きで痛むのかを詳しく聞かないのは論外です。関節の痛みは外傷がない場合にも多いので、しっかり問診をしなければいけません」(戸田さん)
診察中は医師の動きにも注目したい。

「患者さんから聞いたことをきちんとカルテに記入しているか確認してください。もし、診察中に既往歴について聞かれなくても、問診票に記入した内容を見ながらカルテに書いていればまだいいですが、聞きもしない、書きもしないというのは絶対にNG。患者さんの目を見て話さない医師も避けましょう。
また、レントゲンを撮ったら痛みを伝えた箇所以外もしっかり診てくれる医師がいいですね。骨の腫瘍やがんの転移など、レントゲンにはいくつもの情報が映し出されます。よく診察もせずに“異常ないね”と言う医師は信用できません」(歌島さん)
注射のための通院は疑問
加齢による痛みは根本的な治療が難しいものの、あまりにも長引く場合には、疑問を持った方がいい。

「シニアのかたで多いのが変形性ひざ関節症や、変形性股関節症です。いずれも、女性ホルモン減少による骨密度低下が一因となるため、40~50代の女性が発症しやすい。出産の影響による骨盤の広がりが変形性股関節症を発症させやすいともいわれています。
治療としてはヒアルロン酸ナトリウムという関節内注射が一般的で、2週間おきに5回打つと厚労省が指針を出しています。にもかかわらず、リハビリという名目でいつまでも通院させたり、慢性的に薬で治療したりする医師もいる。治療をしている中で、効果があったかどうかをきちんと確認しない医師は選ばない方がいい」(戸田さん)

歌島さんも、治療の見通しを説明せずに続ける医師はよくないと指摘する。
「“もう何か月も注射のために通院しています”“痛みを伝えるとすぐに注射を打たれます”という患者さんの声を聞くことがありますが、それは好ましくない。効果や持続性について検証したうえで、今後どのくらい続けなければいけないかを患者と共有せずに、“とりあえず”治療が続いている状態ならば、医師に疑問を伝えましょう」(歌島さん・以下同)
筋肉に電気刺激を与える、血流を促進するといった目的で電気治療が行われることもあるが、これも慢性的な通院の温床になっているケースがある。
「簡単な診察だけで電気治療を行い、“痛み改善のためできるだけたくさん治療を受けてくださいね”と電気治療を繰り返すパターンです。電気治療とひとくちに言っても機器はさまざまで、いずれもエビデンスがあるかというと難しい。さまざまな診療ガイドラインにおいても、電気治療が推奨されているケースはほとんどありません。
ただしリスクが少ない治療であり、効果を感じる人もいます。大事なのは、効果を実感しないと申し出た場合に、別の治療法をしっかり提案してくれる医師かどうかが見極めるポイントになるでしょう」
注射や薬でも症状が改善されない場合、別の病気の可能性を考えるべきだと、戸田さんは続ける。
「診察時のレントゲンや血液検査の結果を見比べるなどして、別の専門医や総合病院に紹介状を書いてくれる医師は信頼できます。このように毎回の些細な変化に気づけるかかりつけ医がいると、病気の早期発見にもつながります」(戸田さん)
痛みを伴う治療は丁寧な説明を求めて
治療には薬、注射、手術、リハビリなどさまざまあるが、どれを選ぶかはケースバイケースだ。

「すぐに注射や手術を選んだからといって、善しあしがわかるわけではありません。少なくとも整形外科は内科と違って薬で治す科ではなく入院施設がないところも多いので、急性期の痛みを取り除くという目的で注射は急いでもいい。痛みが慢性化すると脳にも波及し、うつ病を招きかねず、うつ病が痛みを増幅させる悪循環に陥ることもあります」(戸田さん)
ただし、それは必ず患者が納得して受けなければならない。
「注射や手術といった痛みを伴う治療は特に、それがなぜ必要か医師は説明すべきです。全身に薬剤が回る点滴や薬は副作用が出ることもあり、どうしても濃度を薄くしないといけないこともある。その点、ピンポイントの注射であれば患部にのみ比較的強い薬を投与できます。そういったことを説明したうえで治療法を選択してもらうべきですし、患者さんも積極的に質問していい。そこでコミュニケーションが図れない医師は努力不足です」(歌島さん)
特に手術を提案された際には、より詳しく理由を聞こう。
「そもそも、上手に治療をしていれば手術は避けられることが多い。変形性ひざ関節症などでは、関節を人工にする人工関節置換術をしようとする医師もいますが、相当な痛みを伴う最終手段です。ひざの場合は、まずはサポーターをつける、ヒアルロン酸ナトリウム注射をするなどの処置を段階的にやっていくことで、杖をつかずに歩けるようになるかたが9割です」(戸田さん)

このように、医療技術は日進月歩で発展を続けている。最新の知見に触れ、実践しているかどうかは予後を大きく左右するため、かかりつけ医を選ぶうえで必ず確認しよう。
「ぎっくり腰に対してベッド上で安静にするのはかえって逆効果という論文(※1)があります。昔は痛みが引くまで安静にしていましょうという指導もありましたが、いまは動ける範囲で動くべきとなっています」(歌島さん・以下同)
薬についての正しい知見を要しているかもチェックしたい。
「2021年には痛み止めの慢性的な使用者に潰瘍発生リスクが高まるという論文(※2)が出されました。非ステロイド系消炎鎮痛剤という、いわゆるNSAIDsと称される痛み止めをのみ続けることで、胃潰瘍や腎臓疾患になるリスクが上がると指摘されています。医師によっては“とりあえず3か月分の痛み止めを出しておきます”という人もいますが、避けた方がいい」
整形外科と美容外科はまったくの別物
医師が専門医かどうか以外にも、どのような資格を持ったスタッフがクリニックにいるかは大切だ。

「リハビリを受ける場合は、理学療法士や作業療法士がいるかを確認しましょう」
治療と並行してリハビリを受けることは必要だが、その際に整形外科以外での治療を受けるのは慎重になった方がいい。
「カイロプラクティックや整骨院、鍼灸など痛みをやわらげるためにいろいろ試されるかたもいますが、たとえばカイロプラクティックはアメリカの国家資格で日本においてはなんの資格がなくても名乗れてしまう整体師と同じです。整骨院には柔道整復師という国家資格を持つ人がいますが、本来は外傷の治療がメインで、慢性的な痛みに対して治療するところではありません。
その意味で、鍼や指圧は国家資格を持ち、慢性的な症状の治癒をうたっているので理にかなってはいる。ただし残念ながら間違った知識による治療を行うところも少なくありません。いずれの場合も、整形外科医に相談のうえ連携できるところにした方がいい」
戸田さんは「後期高齢者以外は掛け持ちしない方がいい」と指南する。
「治療の効果を診断する際に、整形外科以外で施術を受けていると正しく診断できなくなってしまいます。整骨院やカイロプラクティック治療院の中には、長く通院させて収入を得ようとするところも少なくない。時間にゆとりがあり痛みもそこまでひどくない高齢者以外は、より短い治療期間で痛みを軽減すべきです」
美容医療が一般化してきた昨今、治療を混同している人も多い。関節の痛みを覚え、再生医療を受けるために美容クリニックを訪れるケースも見受けられるが、「整形外科と美容外科はまったく別物」と断言するのは歌島さんだ。
「美容整形は『整形』という名前がつくので勘違いしやすいですが、専門科としては形成外科です。骨や筋肉、関節を治療する整形外科とはまったく別物です」(歌島さん)
戸田さんも言い添える。
「腰痛やひざの治療で美容外科を訪れるかたもいるようですが、治療は絶対に整形外科ですべきです。たとえば昨今注目される再生医療も、美容外科では治療後の経過観察や、症状が悪化した場合の治療などを受けることができません」(戸田さん)
インターネットやSNSを通じて無数の情報が手に入れられる時代だからこそ、正しい知識を身につけることが必要だ。そして疑問を感じたら素直にそれを医師に確認することが、かかりつけ医の医師としての技量だけなく人間力を推し量る術でもある。健康寿命を延ばしてくれるかかりつけ医を見つけられるかどうかは自分次第だ。
※1 Wilkes MS. West J Med 172:121 (2000)
※2 McEvoy L et al. Front Pharmacol 12:684162 (2021)
※女性セブン2025年5月1日号