
結婚から10年、20年という長い時間が経ち、愛が薄れるとともに不満が増え、「離婚」が頭をよぎる人は珍しくない。その思いを抱えたまま、やがて子育てに区切りがつき、夫が定年退職となったタイミングで、“第二の人生”を選ぶ女性が増えている。稼ぎがなくなった夫との決別はまさに「金の切れ目が縁の切れ目」と言えるだろう。
あえての別居で「婚姻費用」をもらい続けることも
夫の収入や年齢によっては「離婚届を出さずに別居を続け、『婚姻費用』をもらい続ける」方が有利な場合もある。マネージャーナリストで税理士の板倉京さんが言う。
「別居していても、戸籍のうえで夫婦関係が保たれている限り、離婚が成立するか、再び夫婦で暮らし始めるまでは、別居期間中において収入の多い方が少ない方に婚姻費用を払い続けなければなりません」

熟年離婚の場合、あえて離婚せずに別居を続けることで、夫の死後に財産を相続できるメリットもある。ベリーベスト法律事務所の弁護士・佐久間一樹さんが解説する。
「婚姻費用は、夫が年収500万円、妻が年収100万円の場合、月7万円くらいです。夫が年収300万円なら、月4万円くらいが相場で、夫の年収が高いほど、妻がもらえる婚姻費用も高額になります。年収1000万円の夫からもらえる婚姻費用は月14万円ほどです。
夫が定年退職してからも、その後に受け取る公的年金を“収入”とみなし、そこから婚姻費用を払うことになります。ただし、夫が定年退職して年金暮らしになり、妻が現役で働いていて収入が逆転すると、今度は妻が夫に婚姻費用を払わなければならなくなるケースもある。その場合は、一日も早く離婚届を出して他人になることが戦略的でしょう」
気持ちの問題も戦略を大きく左右する
婚姻費用をもらい続けるには、自分からは離婚を切り出さず、別居にとどめること。そこから正式に離婚するかどうかは、お金の問題はもちろん、気持ちの問題も伴うだろう。ファイナンシャルプランナーの横川由理さんは「離婚と別居のどちらが得か考えるなら、まだ夫を好きな気持ちが残っているのではないか」と話す。
「同じ空気を吸うのも耐えられないくらいなら、お金のことなど考えず、即離婚すべきです。
まだ気持ちに余裕があるなら、感情にまかせて飛び出さず、うまく夫を転がせないか作戦を立てながら、いずれ離婚することになったときに損しないよう、虎視眈々と準備をしておきましょう」(横川さん)
結婚生活を支え、働いてくれた夫に対して失礼ではないか──熟年離婚で得したいと思う気持ちが揺らぐこともあるだろう。それでも“お金(稼ぎ)がなければ愛せない”ならば仕方がない。共に過ごしてきた時間がいちばん長い相手だからこそ、目をつむることのできない不満もある。お金で得る縁もあれば、お金で解消できる関係があってもいいのだ。

※女性セブン2025年5月29日号