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《犬や猫の“へそ”はどこに?》普段は見えにくいが“でべそ”になると腸閉塞などのリスクも

犬
かなり見つけにくい犬や猫のへそ…どこにある?(写真/イメージマート)
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うちの犬の“へそ”って、そういえばどこにあるんだろう、見た覚えがない――。そんな飼い主さんも実は少なくないはず。犬や猫のへそは、人間のそれと違って、かなり見つけにくい。そもそも腹部が毛で覆われているし、人間のように窪んだ形状でもないからだ。飼い主さんがペットのへそを意識することがあるとすれば、それはへそに異常が生じたときかもしれない。犬猫のへその形状や代表的な病気について、獣医師の鳥海早紀さんに話を聞いた。

犬や猫のへそは平らで視認しづらい

犬や猫も、へその役割は人間と同じ。胎児が母親のお腹の中にいる間、胎児と胎盤は管でつながっていて、胎児はこの管を通じて母親から酸素や栄養を受け取り、老廃物を母親に受け渡す。この管がいわゆる「へその緒」「臍帯(さいたい)」で、出生後にへその緒が取れた跡がへそになる。

「犬や猫のおへそは飼い主さんでもなかなか見つけづらいと思います」と鳥海さんは話す。

というのも、へそは普段は地面側に向いている腹部にあるし、犬や猫の腹部は毛で覆われているからだ。その上、へそ自体の形状も人間のものより目立たない。

「人間のように凹んでいないんですよ。まるっきり平らで、指でその辺りをなぞってみても分からないと思います。火傷の跡のようだったり、シワのようだったりして、飼い主さんの目に入ったとしても、それがへそだとは認識しづらいかもしれません」(鳥海さん・以下同)

猫と犬
猫や犬のへそは人間のように凹んでいない(写真/イメージマート)
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へそは母親の胎内にいたときの名残りなので、出生後には何か役割を果たすわけではない。人間のへその場合は、凹んだ形状なので、皮脂や古い角層、埃(ほこり)など、へそごまと呼ばれるものがたまりやすい。また、へそごまを取ろうとしたりしてへその奥の腹膜を刺激してしまい、腹痛になることも。

「犬や猫の場合は、へそごまがたまるような形状ではないので、気にしなくていいです。犬自身、猫自身も特に気にして執拗に舐めてしまうようなことはまずありません」

でべそは危険、手術が必要な場合も

ただし、へそに異常があるときは深刻な健康被害につながる恐れもあるので、要注意だ。

「人間でいう“でべそ”のような状態になったら、それは『臍(さい)ヘルニア』という病気です。ヘルニアは、正常な位置から何かが突き出た状態をいいます。椎間板ヘルニアが有名ですが、鼠径(そけい)ヘルニアとか横隔膜ヘルニアというのもありますね。臍ヘルニアの場合は、へその皮下の筋膜に穴が開いていて、腸管や脂肪の一部がそこから突き出た状態です」

通常は、へその緒が脱落した後は穴が自然に閉じていくものだが、先天性の異常で皮膚の下の筋膜に穴が開いたままになってしまい、本来なら腹膜の中に収まっているはずのものが突き出てしまう病気だ。

「腸管や脂肪、ごくまれには膀胱の一部が突き出ることもあります。小さな穴なので、はみ出た部分が締め付けられることがあり、そうなると腸閉塞になったり、はみ出た部分に血液が流れなくなって壊死したりする可能性もあります。腸管が出ている場合は治療が必要です。開腹して腸をお腹の中へ戻し、ヘルニア輪と呼ばれる穴をふさぐ外科手術をすることになります」

外傷や避妊手術が臍ヘルニアのきっかけになることも

臍ヘルニアを発症しても、脂肪の一部が見えている程度であれば、手術などは行わずに経過を観察することもあるという。飼っている犬や猫のへそがポコッとふくらんだときに、それが危険かどうかは、触ってみると分かるという。

猫
へそがポコッとふくらんだときに、それが危険かどうかは、触ってみると分かる(写真/イメージマート)
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「脂肪が突き出ている場合は、触ってみると柔らかくて、指で脂肪を体内へ押し戻すことができると思います。突き出ているのが臓器だと、触ってみて硬いし、押し込むことができないはずです。この場合は緊急の処置が必要かもしれないので、すぐに動物病院へ連れて行ってあげてください」

そもそも、臍ヘルニアは出生後しばらくで閉じるはずの穴が閉じないという先天的な異常だ。8週齢以上の子犬や子猫を迎えるときには明らかになっているはずで、何年も飼っている犬や猫が急に臍ヘルニアを発症することがあるのだろうか。

「そういうこともありますよ。確かに、子犬のおへその異常は、ペットショップやブリーダーで飼育している期間に獣医師が気づくだろうと思います。ただ、穴は閉じきっていないけれど、穴が小さくて中から何も出てきてはいない場合もある。それが見逃されてしまったまま、あるいは説明を受けた上で、子犬を家庭に迎えた後、大人になってお腹をどこかへぶつけてしまったとか何かのきっかけで腸管や脂肪が顔を突き出ることはあります」

避妊手術や何らかの開腹手術をして、最後に閉じるときの縫合が甘かったために、臍ヘルニアになってしまうケースもあるという。

「先天的な臍ヘルニアの発症率が高いのは、猫より犬のほうですね。ペキニーズやチンで比較的多い印象です。愛犬との日常のスキンシップのなかで、お腹も見て触って、異常がないことを確かめてあげてください」

◆教えてくれたのは:獣医師・鳥海早紀さん

鳥海早紀さん
鳥海早紀さん
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獣医師。山口大学卒業(獣医解剖学研究室)。一般診療で経験を積み、院長も経験。現在は獣医麻酔科担当としてアニコムグループの動物病院で手術麻酔を担当している。

取材・文/赤坂麻実

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