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《本格デビューは71才、92才まで駆け抜けた》常盤貴子、寺島しのぶらが慕った「国内最高齢・女性映画監督」との忘れられない思い出(前編)

渡辺梓は映画『筆子・その愛』など山田監督作品の常連(提供/現代ぷろだくしょん)
写真5枚

緊張したシーンの後に言われたうれしい一言

撮影現場では忘れられない思い出がたくさんある。

「監督は常に真剣勝負で、歯に衣着せずというか、心の声がボリューム関係なくそのまま出るかたで、毒舌と言えば毒舌(笑い)。“何やってんのよ!”“いつまで泣いてるの!”と喧嘩かな?と思うような声が聞こえたかと思えば、カットをかける前に大笑いするなど本当に真っすぐ。

褒め上手な一面もありました。『筆子・その愛』のときの大先輩の加藤剛さん(享年80)との共演シーンは印象深いです。加藤さんは私が当時所属していた無名塾を主催する仲代達矢さん(92才)と俳優座の先輩後輩の間柄で、仲代さんから“すごい役者だぞ”と加藤さんのお話をよく聞いていました。

なので、無名塾の俳優としてちゃんと演技をしなければという緊張と、山田組に初めて参加した緊張が重なって……。そのシーンを無事終えたときに監督が“よかったわよ、さすが無名塾ね”と言ってくださったのが、すごくうれしかったです」

渡辺はその後、2020年に無名塾から独立してフリーに。当時、「独立したら業界の人から忘れられてもおかしくない」と不安を抱いていた中、山田さんは折に触れて「火砂子です。梓ちゃん、元気にしている?」と必ず声をかけてきたという。

「いつも“あなたのことを信頼しているから”とか“梓ちゃんがいれば大丈夫だから”と声をかけてくださるんです。撮影が終わると“よかったわよ”と褒めてくださる。それまであまり直接褒められたことがなかったので、その言葉はいまでも忘れられません。1人だけでも信じてくれているかたがいることは、すごい支えでした。山田監督には本当に感謝しかありません」