健康・医療

超高齢社会で需要が高まる“かかりつけ医” 「治療を目的としなくてもいい」症状に関係なくどんな話も聞いてくれる存在がもたらす安心 

かかりつけ医は超高齢社会で需要が高まっている(写真/PIXTA)
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「この医者、何者?」──放送中のドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)で、松本潤(41才)演じる総合診療医・徳重晃にこんな印象が寄せられている。なぜなら、徳重は骨折の痛みものどの違和感も、あらゆる患者の声に耳を傾けるから。病気を診るのではなく、人を診る。そんな「かかりつけ医」がいまこそ求められている。【前後編の前編】

発熱や頭痛、はたまた血管病やがんなど医師にかかる病状はさまざまある。年を重ねると、はっきりとした病状がなくとも、なんとなく不調を感じることが多くなるだろう。都内在住のAさん(53才・女性)は、こう嘆息しながら話す。

「1か月前、母がいつもより血圧が高くて心配だと言い出しました。めまいや頭痛もあるというので私も不安になって、少し遠くの専門医に予約をいれたんです。いざ問診になったら普段の生活習慣から食べ物の好き嫌いなど細かく聞かれ、母はそれだけでぐったり疲れてしまって。しかも、結局、“正常値よりも高い”ということで薬を処方されて終わりでした」

症状が改善するならそれでいい、と薬をのみはじめたが、血圧の数値自体は下がっても不調は改善されなかった。Aさんが続ける。

「風邪のときなどに診てもらう近所の内科医に相談に行ったんです。そうしたら、『お母さん、最近暑いけど、どのくらい水分摂ってますか?』と聞いてくれて。そこから腎不全の兆候があることがわかりました。

母はスーパーのパートなど接客業で働いていてトイレをがまんするクセがあって。それなのに、その日は問診までの間に頻繁にトイレに行っていたのが気になったそう。母のことをよく知ってくれているお医者さんの存在が、これほどありがたいと思ったことはありませんでした」

年とともに現れる不調、病院を分けるのは負担

超高齢社会が進む中で、かかりつけ医の需要が高まり、必要性が見直されていると話すのは、『「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。』の著者で、きくち総合診療クリニック理事長の菊池大和さんだ。

「医療技術の発達により、いま日本ではクリニックの専門が細分化される傾向にあります。すると、自分で不調に合った病院を探さないといけません。これは特に高齢者にとっては、結構な負担になります。そもそも、めまい、吐き気があるときに、どこを受診すればいいでしょうか。脳神経外科ですか? 耳鼻科ですか? 消化器内科ですか? 答えは総合診療かかりつけ医です。年を重ねると、頭から足の先までいろいろなことが起こりますが、そのときにまず症状を聞いてくれる先生がいれば、そこから専門医や大きな病院につないでくれます。

そのままこのクリニックで治療するよということもあれば、これは大学病院の方がいいよということもあるでしょう。どこで治療するかを判断するのも、かかりつけ医の役割です」

ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子さんもこう話す。

「高齢になるにつれ、生活習慣病を含めた病気や持病はどうしても増えてきて、人によっては複数の慢性疾患があるようなかたもいます。もちろん、専門的な治療においては専門医が必要ですが、病気とつきあう中でちょっとした不調のときになんでも相談できる医師がいると安心です。

紹介状が必要な急性期の病院や救命救急センター、回復期を担う病院、長期療養を必要とする患者を受け入れる病院など、医療機関は昔に比べて明確に役割分担がなされるようになっています。そのうえで国としても、まずはかかりつけ医に診察してもらい、必要なら専門的な治療や積極的な治療を受けるなど振り分けを推奨しているのです」

女性の場合、不調の原因がホルモンの変動にあることも多く、婦人科のかかりつけ医は頼りになる存在だ(写真/PIXTA)
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そもそも、かかりつけ医は「治療を目的としなくてもいい」と、菊池さんは続ける。

「症状に関係なく、どんなことでも話を聞いてくれる医師がかかりつけ医です。私のクリニックにも、先ほど、“なんとなく調子が悪い”“だるい”といって来院された70才くらいのかたがいました。おくすり手帳を見たら、3つくらい病院にかかっていて、それなのにかかりつけ医はいないとおっしゃる。なので、まずはかかりつけの先生を持った方がいいですねとお話ししました。患者さんの不調そのものを治すより前にできることが医師にはたくさんあるのです」

女性にとっては特にかかりつけ医の存在は、健康寿命を延ばすうえで重要な存在となる。「小中学生から通えるレディースクリニック」を掲げるInaba Clinic院長の稲葉可奈子さんが話す。

「女性の場合、20~30代はほとんどのかたが基本的に元気なので、いわゆる内科のかかりつけ医の必要性を感じないかたが多い。一方で、生理やPMS(月経前症候群)など女性特有の悩みは思春期から顕在化してきます。やがて妊活や更年期などの時期を迎えます。

高血圧や頭痛、不眠などの不調が実は生理周期や更年期など、女性ホルモンの変動に由来しているケースも少なくありません。婦人科のかかりつけ医がいると、長期間にわたって自分の体を知ってもらえるうえ、何か症状があったときに相談しやすく、女性特有のがんなどの早期発見にもつながります」

死ぬまで頼りになる、かかりつけ医の選び方
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(後編につづく)

※女性セブン2025年8月21・28日号

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