
「災害は忘れた頃にやってくる」というが、忘れる暇もないほどに全国各地で地震や豪雨などの自然災害が絶えない。規模の大小はあれど日本に住んでいる限り、自然災害から逃れることはできない。不安を軽減してくれるのは平時の備えだ。現場を知るプロが選定する「本当に必要な防災グッズ」を紹介する。【前後編の前編】
8月21日、九州南の海上で発生した台風が鹿児島県に上陸。短時間に急激な雨が降る線状降水帯の発生で、土砂崩れや浸水に見舞われる地域が相次いだ。
地震が頻発する震災大国・日本ではいま、地震や噴火といった大災害のリスクはもちろん、地球温暖化などによる異常気象で、ゲリラ豪雨、落雷、浸水などによる被害も珍しくなくなった。いまや、「防災」はいつか訪れる大災害のためではなく“明日、発生するかもしれない自然災害”への備えとして求められているだろう。
防災アドバイザーの岡部梨恵子さんは、2024年1月の地震や今年8月の豪雨被害のあった能登半島を繰り返し訪れてきた経験から、「災害時には必ずトイレの問題が起こった」と語る。

「能登半島地震では断水と停電が長引き、仮設トイレもすぐには届かず、地域全体で“トイレパニック”が起きました。水が流れない便器を前にして、どうしたらよいかわからず困惑した人が多かったのです。飲食はがまんできても、排泄はがまんできませんから」
備え・防災アドバイザーとして活動する、ソナエルワークスの高荷智也さんもこう指摘する。
「災害時で心配されるのは、道路の崩落や陥没でライフラインが寸断され、物流が止まってしまうことです。生活必需品が手に入らなくなりますから、日頃から食料などを備蓄することは防災の基本といえます」
備蓄品は最低3日分、できれば7日分
災害が発生した直後でも、生活や命にかかわる大きな被害がなければ自宅で過ごしたいと考える人は多い。特に高齢者や持病のある家族がいる場合、避難所生活はストレスがたまり、災害関連死に直結するリスクも高まる。
半面、水害に見舞われるか、またはその危険が高まっていたり、地震の揺れで家屋に被害を受けた場合は、避難所で過ごすのが賢明だ。すなわち、自宅の備蓄だけでなく、避難所へ向かう際に必要なものを詰めた防災リュックを用意することも重要といえる。
自宅に備蓄する生活必需品の目安は、最低でも3日分。できれば7日分を用意しておくのが望ましいと、高荷さんが説く。
「首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きた場合、被災者は1000万人以上と想定され、3〜4日では支援物資が届かない可能性もあります。7日間、自力で過ごせるように備えれば安心感が違います」
防災用品はライフラインが止まったことを想定して選ぶのがいいと、高荷さんが続ける。
「電気が止まると夏場は熱中症のリスクが高まるため、充電式の小型扇風機など、体温を調節できる道具は備えておきたいですね。ガスが止まっても調理ができるカセットコンロもおすすめ。スマートフォンは災害時の情報収集や安否確認に役立つので、充電用のモバイルバッテリーは必須です」

岡部さんは、マンションの住人は水の備蓄を最優先すべきと説く。
「災害で配水管が破損して断水することが多く、エレベーターが止まってしまうと給水車から汲んだ水を持って階段を往復するのはかなり疲れる。しかも、大規模なマンションであればあるほど水道の復旧が遅い傾向があります。ペットボトルの水で構わないので、7日分を備えておくべきです」(岡部さん・以下同)
非常用トイレは、自宅や避難所にある便器やバケツに袋をかぶせて使用し、排泄物を凝固剤で処理するタイプが一般的となった。
「非常用トイレをいざ使う段階で、凝固剤を入れるタイミングに戸惑うかたもいました。災害が長引けば、備えていた分を使い切ってしまうこともあります。充分な量をそろえるだけでなく、日頃から実際に使ってみることが大切です」
防災講師・防災コンサルタントの高橋洋さんは、防災備蓄に冷蔵庫を活用してほしいとアドバイスする。
「日頃から食料を買い込んでいる人にとっては最高の備蓄庫になります。倒れないようにポールなどで固定しておきましょう。電気が止まったときには、冷蔵庫にある食料品を食べる順番が重要になります。
停電したらまず、傷みやすい冷蔵食品を最初に食べ、時間が経つと冷凍食品が溶けてしまうので、2日目にそれらを食べる。乾物や常温でも日持ちがするものを後回しにすれば、貴重な食料を無駄なく、長く活用できます」


(後編に続く)
※女性セブン2025年9月11日号