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《観光資源をつくることだけが道ではない》市政70周年を迎える北茨城市長が語る「地方創生ビジョン」

超高齢社会、少子化、人口減少などの課題を抱え、私たちの生き方はいま転換点を迎えている。都市型社会における地方の過疎化も問題視される中、地方創生で「地方を元気にする」取り組みが全国の自治体で活性化。ブームを繰り返す地方移住や二拠点生活、地方活性化の呼び水として始まったふるさと納税などが定着していく中で、“本当の地方活性化”について、茨城県北茨城市の豊田稔市長が語った。

東京からは車で約2時間半の好立地。高速バスや特急ひたちなど公共交通も利用できる。猛暑が続く近年は「関東一涼しい街」としても注目される。写真は市内を流れる花園川にかかる石尊の滝。(写真/アフロ)
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市政70周年に向け、北茨城市のビジョンを語る豊田稔市長。(撮影/小倉雄一郎)
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「関東一涼しい街」「絶品のあんこう鍋」

「北茨城市は昭和の町村合併を経て、‘56年3月に茨城県で15番目の市として誕生し、来春に市政70周年を迎えます。茨城県の最北、福島県との県境に位置し、海も、山も、田んぼも畑もある豊かな土地です」(豊田市長・以下同)

新鮮な魚介類の中でも、冬にシーズンを迎えるあんこうを使った「どぶ汁」は絶品! 近年は「関東一涼しい街」としても注目される。今年は群馬県で41.8℃という観測史上最高記録が出るなど、記録的な猛暑が続く中、北茨城市で35℃以上となったのは1978年以降で、たったの5日のみ!
「太平洋に面しているため、海から冷たい風が入ってきます。平坦な地形ですから、その風が遮られることなく市内に流れていき、気温上昇を抑えてくれているのでしょう」
まさに海風が“天然のクーラー”の役割に。市内には花園渓谷など森の空気が豊かなスポットのほか、昨年にはアートと自然が融合した「チームラボ 幽谷隠田跡」に併設したグランピング施設「五浦幽谷隠田跡温泉」がオープンするなど、避暑地としての過ごし方も充実している。

 

アートと自然が一体となった「チームラボ 幽⾕隠⽥跡」。夜は隠田跡にランプが浮かび、幻想的な雰囲気に。(写真・時事通信社)
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あんこうの旨みを堪能できる絶品の「どぶ汁」「あんこう鍋」はふるさと納税でも楽しめる。
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全国に先駆けた「給食費無償化」「18才まで医療費無料」

北茨城市では給食費の無償化や、18才までの医療費無料など、全国に先駆けて子育て支援を始めた。
「豊かな自然があり、米も野菜も魚も、畜産も揃っている市で、安心して暮らせる、住めるためには何が必要か。それは子供が元気で成長できるということが大きな柱になるでしょう。子供の成長は未来への財産ですから」
昨年、フランス・バルビゾンと国際親善都市協定を締結したのも、アートや文化に触れる機会を深めるため。北茨城市は詩人・野口雨情が生まれ、画家・岡倉天心が研鑽を積んだ芸術の街でもある。
「市民や小中学生などを、バルビゾンに連れていき、交流を持ってもらうなど交流の場を設けていきます」

北茨城市歴史民俗資料館(野口雨情記念館)。市内には野口雨情の生家もある。(写真/時事通信社)
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花園渓谷は紅葉スポットとしても有名で、秋には絶景が広がる。
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100年後、200年後を見据えた「ゼロカーボン」の実現

子供だけではなく、働き盛りの世代や、高齢者も、暮らしやすい街であることを目指す。
「かつて北茨城にはいくつもの炭鉱があり、日本の経済を支えてきました。その精神は変わらず、現在、市内には6つの工業団地があり80以上の企業が操業しています。これは雇用の創出にもつながっている。ヤシノミ洗剤やラカントで有名なサラヤさんの工場もあり、ふるさと納税の返礼品としても人気です」
山や海といった、自然を次世代につないでいくために力をいれているのが「ゼロカーボン」の取り組みだ。
「100年後、200年後の環境を守るため”ゼロカーボン”の実現は必要不可欠。自然を守るためには、森林の伐採はある程度必要。木にも寿命があるため、樹齢が限界を超えれば、二酸化炭素の吸収や酸素生成もパワーダウンしてしまう。樹木の手入れをして、土壌の養分を増やすことで、海もまたさらに豊かになります。そのためにも林道をしっかりと整えていく必要がある。
同時に遊休地を活用してソーラーパネルを設置したり、農地におけるソーラーシェアに取り組むことで、病院や住宅へ送電できるようにすれば光熱費の節約につながって、住民の生活に還元できます」
未来を見据える豊田市長は、観光資源を生み出すことだけが地方創生ではないと続ける。
「観光名所も、ふるさと納税も、やはり一過性のものであり、地方を長く成長させてくれるかというと難しいところがあるでしょう。もちろん、地方のよさを全国により知ってもらうという意味では大切です。
でもそれ以上に、地方が活性化するというのは、いまそこに住んでいる人たちが安心してずっと住み続けられるということ。そのための環境保護、農畜産物や米作りの継承、安心出来る医療、文化・芸術の育成、など多方面で暮らしを豊かにしていくことが、北茨城と日本をもっと元気にすると信じています」

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100%植物由来でカロリーゼロの「ラカントS」や、手肌と地球環境にやさしい「ヤシノミ洗剤」などを製造・販売するサラヤ株式会社も北茨城市に工場拠点を置く。商品は北茨城市のふるさと納税の返礼品としても大好評。
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(プロフィール)

豊田稔/1944年生まれ。1981年に北茨城市議会議員に。1990~1995年、2007~2019年、北茨城市長。2019年より北茨城市長7期目。

 

協力/茨城県北茨城市

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