
紀貫之が歌に詠んだことでも知られる桜の名所・茨城県桜川市は、実は平安時代の風流な花見体験ができる貴重なスポット。そこで桜川市の大塚秀喜市長に、ヤマザクラの歴史と魅力を聞きました。
開花と同時に出る若葉が色鮮やか
ピンクや白の花に加え、赤や黄、緑の若葉…春になると山一面が絵巻物のように美しく変わる、茨城県桜川市のヤマザクラ。古くから「西の吉野、東の桜川」と並び称される桜の名所だ。
「桜川市の桜が登場する最も古い記録は、平安時代の歌人・紀貫之が『後撰和歌集』で詠った一首。紀貫之が本市を訪れた記録はないのですが、遠く平安京の都にも評判が届いていたことを示しています。
また室町時代には能楽師・世阿弥の謡曲『桜川』の舞台にもなり、江戸時代には歴代将軍の命で隅田川堤や上野山、玉川上水堤などに本市の桜が約2万本移植されました。このように本市の桜は多くの偉人たちを魅了してきました」

穏やかな笑顔でこう語るのは、大塚秀喜市長。桜川には約55万本ものヤマザクラが“自生”しているのが特徴だ。
「平安時代の花見はヤマザクラを眺めながら和歌を詠んだり蹴鞠を楽しんだりしたそうですが、本市も桜の下で宴会するより少し離れた場所から山肌のヤマザクラを眺める花見が主流です。本市のヤマザクラはすべて自然の力のみで作られているため、紀貫之が存命だった平安時代からその景観は大きく変わっていないと考えています。ぜひ桜川市で、古の花見体験をしていただければと思います」
桜川市のヤマザクラはココがすごい!
桜川市で楽しめるヤマザクラの魅力を紹介!
桜川特有種が11種類も!
ヤマザクラは1本ずつ遺伝子が異なる。花崗岩質の土壌が珍しい交配種を生んだ。

桜川匂

樺匂

初重桜

初見桜

大和桜

源氏桜

白雲桜

薄毛桜

青桜

青毛桜

梅鉢桜
1000年の歴史がある!
評判を聞き「春になると桜川は隙間なく花びらで埋まることでしょう―」と和歌の中でも桜川のヤマザクラへ思いをはせていた紀貫之。

「西の桜の名所、吉野山のヤマザクラは僧侶が植樹した歴史を持ちますが、桜川のヤマザクラはすべて自生のもの。広範囲にわたって桜が楽しめます。だからこそ紀貫之は自然が生んだ美しさに魅了されたのかもしれません」(大塚市長)
希少な花蜜で名産を作った
「ヤマザクラのはちみつを作りたい、と市から話をいただいたのが3年前のこと。しかしヤマザクラの開花期間は最長1か月で、寒かったり雨が降ったりすると採蜜できず課題は山積みでした。そうしてできたはちみつは、ヤマザクラ特有の爽やかな香りが広がる上品な味わい。苦労も吹き飛びました」(養蜂家の松沼孝行さん以下同)



◆季節のはちみつ専門店「mel akabokke」
住所:茨城県猿島郡五霞町小手指723-2
定休日:火曜・水曜、不定休
営業時間:11:00〜18:00
市にヤマザクラ課がある!
桜川市ではヤマザクラ課を2017年に新設。ヤマザクラの保全はもちろん、ヤマザクラを生かしたPR活動、移住定住促進活動など多岐にわたる業務を行う。

「市内の全小学校ではヤマザクラの種まきの授業を行っています。また市内バスには『ヤマザクラGO』と名付けました。一般市民向け講座に『桜守養成講座』も実施しています。
これからも地域全体にヤマザクラ文化が醸成されるよう、さまざまな角度から施策に取り組む予定です」(大塚市長)
撮影/浅野剛 取材・文/辻本幸路
※女性セブン2025年4月10日号