ライフ

【日本は世界有数の“在宅医療大国”】「自宅で最期を迎えたい」というニーズが高まる中、厚労省も在宅医療の普及を推進 寝たきりの高齢者が在宅で活力を取り戻すケースも

自宅で最期を迎えたい人が増えている(写真/PIXTA)
写真2枚

「人生の最期は病院のベッドではなく、住み慣れた家で過ごし、そのまま迎えたい」──多くの人が抱く願いを叶えるには、自宅で寄り添ってくれる「在宅医療」「訪問リハビリ」が不可欠。できる限り幸せに、後悔のない最期を迎えるためには、あなたの意思を尊重してくれる伴走者を見つける必要がある。そのためのノウハウを専門家に取材した。【全3回の第1回】

超高齢化が進む中、平均寿命が延びるとともに、元気に自立した生活を送れる年齢である「健康寿命」を延ばすことが重視されている。人生そのものが長くなれば、“人生の後半の時間”もおのずと長くなり、その期間になるべく病気をせず、元気に生きたいと願うのは自然なことだろう。

それでも、老化とともに“病気の壁”には抗えなくなる。高齢者人口に比例してなんらかの疾患に罹患する人が増えていく現代では、「在宅医療」や「訪問リハビリテーション」を選択する人も増えている。

「病院死」が当たり前になった現代で「在宅医療」「在宅死」のニーズが高まる

自宅や介護施設などに医師や看護師などが出向いて行う在宅医療は、「外来」「入院」に次ぐ“第三の医療”ととらえられる。日本は世界有数の“在宅医療大国”だと話すのは、医療法人社団悠翔会理事長の佐々木淳さんだ。

「医師が患者さんの家を定期的に訪問して継続的な健康管理をしたり、具合が悪くなったら休日や夜間でも往診に駆けつけたりするだけでなく、歯科治療や栄養士による指導など、日本では患者さんにとって必要な在宅医療のニーズがひと通り、医療保険と介護保険でカバーされています。世界的に見ても、これだけ在宅医療が手厚い国はあまりないでしょう」

日本の在宅医療がこれほど充実している理由について、医療法人社団焔理事長の安井佑さんが話す。

「かつて日本では多くの人が自宅で最期を迎えていました。それが高度経済成長期前後に病院などの医療設備が充実したことで、病院死が一般的になっていったのです」

実際、厚労省の統計を見ると、1950年代は在宅死が8割を超えていたものの、1976年に病院死が上回った。一方で、近年では「自宅で最期を迎えたい」という人が増えている。そうしたニーズとともに在宅医療の制度や診療報酬の見直しが行われているのだ。

「高齢化で医療財政が切迫する中、最期を迎えるのは病院ではなく自宅で、という施策を進めるため、厚労省は10年以上前から保険点数の中での在宅医療の普及を推進しています。

これを背景に在宅医療を提供する医療者が増加し、地域包括支援センターは相談・支援活動を拡充し、在宅医療や訪問リハビリは、患者にとってより身近な選択肢になっています」(安井さん)

在宅医療を受ける人は年々増加している
写真2枚

事実、厚労省によると、自宅などで医師の診療を受ける在宅医療の患者は2年間で10万人以上のペースで増加しており、2023年には100万人を突破している。世界的に見ても、日本だけでなくアジア地域では、在宅医療を希望する人が増えているという。その理由について、たかせクリニック理事長の高瀬義昌さんが説明する。

「在宅医療のニーズが増えている背景の1つが認知症です。特に国内では、アルツハイマー型認知症の患者数は約280万人といわれ、そのうち半数の約140万人が在宅医療が望ましいと推定されています。外科手術などは必要ではなく、なるべく慣れ親しんだ場所で暮らしたいと願う認知症患者の増加が、在宅医療希望者の増加を後押ししていると考えられます。

認知症だけでなく、やむをえず入院が必要な治療を受けているケース以外は、できるだけ自宅で生活したいと思うのは当然のことかもしれません」

高齢者医療に35年以上従事する精神科医の和田秀樹さんも、いずれは在宅医療を受けたいと語る。

「病院や施設では制限が多く、好きな食べ物も、お酒もがまんしなければならないことが多い。人はどうせ死ぬのだから、ぼくは在宅医療を受けながら、自宅で好きなことをして好きなものを口にして、自分らしい最期を迎えたいと思っています」

在宅医療は、人生の終盤のQOL(生活の質)を上げるだけでなく、健康寿命を延ばすことにも、大いに役立つという向きもある。高瀬さんの知る90才の女性は認知症を患い、ほぼ寝たきり状態だった。そこで高瀬さんが在宅医として、適切な医療とリハビリテーションを提供したところ、劇的な回復を見せたという。

「14種類ものんでいた薬を2種類に減らし、モチベーションが上がるようなイケメンの理学療法士をつけて、在宅でのリハビリを開始しました。本人、家族、リハビリのスタッフが三位一体となって励まし合って頑張ったら、自力でしっかりと歩けるようになったのです。

元気になった分、家族とのけんかも増えたようですが(笑い)、それまでは寝たきりだったことを思うと、ご家族はけんかも楽しそうでした。このように、寝たきりの高齢者が在宅医療やリハビリで活力を取り戻すケースは少なくありません」(高瀬さん)

歩けるようになって半年後、この女性は肺炎で亡くなった。だが、リハビリで元気になり、最期まで自宅で一緒に過ごした家族は、笑顔で見送ることができたという。

(第2回に続く)

※女性セブン2025年10月16・23日号

関連キーワード