
ソファや椅子に体を沈ませてスマホやテレビの画面、そしていまこの雑誌をぼーっと見ていたら、あっという間に時間が経っていたそこのあなた。間違った座り方を続けていると、知らないうちに体や脳が蝕まれ、寿命が短くなってしまうことをご存じだろうか。
座りっぱなしの生活はとても危険
不規則な生活、過度なストレス、栄養バランスの偏り、運動不足――健康を損う要因は多々あるが、慣れすぎた生活習慣に意外な落とし穴が潜んでいることがある。東京都在住のAさん(64才)はこう話す。
「夏の間はとにかく暑くて家でずっと座ったままテレビを見たり、スマホをいじったりする生活が当たり前になってしまいました。残暑バテなのかなんとなく体に力が入らず、ダラダラしてしまうんです。座ったままの生活が習慣化してきてしまい、散歩に出かけるのも面倒くさく感じるようになりました」
だが、そんな座りっぱなしの生活はとても危険だ。今年5月、アメリカの高齢者を対象にした研究で「座位時間が長いとアルツハイマー型初老期認知症のリスクが上がる」という驚きの結果が発表された。
さらに座位時間の長さによっては2型糖尿病や心血管疾患、がんなど慢性疾患のリスクが高まり、寿命を縮めてしまうという。「座る」という当たり前の行動に死を招く恐ろしいリスクがあるとすれば、それをどう回避すればいいのか。
1日7時間座ると寿命が28日縮む
そもそも日本は世界のなかでも「1日の総座位時間」が7時間と最も長く、高齢者の1日の座位時間は平均8・8時間に達するとの報告がある。その理由についておくむらメモリークニリック理事長の奥村歩さんはこう分析する。
「日本人はきちんと座っていることがマナーとされてきたこともあり、座って過ごすことが当たり前になっています。例えば飛行機の中でも、欧米人は席を離れて友達と立ち話をしたり通路で立ったままドリンクを飲んだりしますが、日本人はトイレに行くとき以外はずっと座りっぱなしのことが多いです」(奥村さん・以下同)
座ることが当たり前になっている日本人からすると、座っているだけで健康に悪影響があるとはなかなか考えにくいかもしれない。しかし、同じ姿勢で座り続けることは脳の機能低下に直結するという。

「足腰には全身の筋肉の約7割があり、体中に血流を循環させるポンプ機能を担っています。
ところが長時間座っているとポンプ機能が停滞し、下半身に血液がうっ滞してしまう。脳への血流が不充分になり、脳の活動性が低下してしまうのです」
座りすぎが認知症につながると指摘するのは、加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳さんだ。
「体を動かすこと、とりわけ足を使うことは自発的な行動なので、脳の前頭葉にある運動系だけではなく思考系の働きも刺激します。一方、同じ姿勢で座っていると自発性が失われ、脳を使っていない状態になる。例えば座ってスマホをただ眺めているだけでは、本来あるべき脳の活動性がどんどん低下してしまうのです」(加藤さん・以下同)
さらに室内で座って過ごす時間が増えることで太陽の光を浴びる機会が減少し、認知症のリスク因子ともいわれるうつ病を発症しやすくなるという。
「太陽の光を20~30分浴びると幸福感を生み出すセロトニンやドーパミンの分泌が増え、やる気が高まります。座位時間が長い人は当然、室内で過ごす時間が長いことになる。日光に当たる機会が足りなくなると、知らず知らずのうちにうつ病になりやすくなってしまいます」
認知症やうつ病のリスクだけではない。WHO(世界保健機関)は座り続けることで2型糖尿病、心血管疾患、がんの発症が増加し、総死亡率も上昇すると指摘している。
1日平均7時間座る人は余命が1日2時間34分、1年間では約28日も縮む(第一製薬工業ホームページより)との試算もあるほどだ。
「座っているときは立っているときに比べて代謝が20%も低下するので、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病を招きやすくなる。また足に血栓ができやすくなるため、それが肺動脈に流れて肺の血管をふさいでしまうエコノミークラス症候群のリスクも高まります」(奥村さん・以下同)
深呼吸だけでも筋トレと同じ効果
座る時間が長いからこそ姿勢には注意すべき。座り方のなかにも、特に健康被害を生みやすい「危険な座り方」がある。
「悪影響が大きいのは、腰に負担がかかる座り方です。ななめ座りや椅子に浅く腰かけるような座り方、背もたれやひじ置きに体を預ける姿勢も避けましょう。いずれにしろ20〜30分以上、同じ姿勢でいるのはよくありません」
20~30分座ったら立ち上がって足腰を動かすのが理想的だが、移動中や体の状態によってはできないこともある。そんなときに意識したいのは、座る姿勢を変えることだという。
「足を組み換えたり正座にしたりと、少しでも座り方を変えることが大切です。どんな体勢にしようかなと自分で考えて選ぶことが脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐことにもつながります」(加藤さん)
奥村さんも同様に、座りながら足を動かすことを推奨する。少しの動きでも効果があるという。
「足元に足つぼマッサージのマットを置いておいて、かかとをトントンしたり、貧乏ゆすりをしたりするだけでも効果があります。足をこまめに動かすことで足の筋肉のポンプ機能が働き、血液循環が改善されるのです」(奥村さん・以下同)
座ったままで実践できる呼吸法も効果的だという。ポイントは「背もたれやひじ置きを使わずに、背筋をピンと伸ばして座ることです」と奥村さんは続ける。
「あごを引いて目線を45度くらい下に落とし、おへその少し下にある臍下丹田を意識しながら、鼻からゆっくり息を吸ってゆっくりと吐く。この深呼吸を行うだけで体幹が鍛えられ、座っていても筋トレと同じ効果が得られます。
さらに呼吸によって脳への血流が改善されセロトニンの分泌も促されるので、認知症やうつ病の予防にもつながります」
長い夏が終わると短い秋が来て、あっという間に季節は冬になる。寒い時期の到来でますます外に出る機会が減ってしまいそうな人は、自宅での座り方を工夫して健康な脳と心と体をキープしよう。
寿命が縮む危険な座り方
・背もたれやひじ置きに体重をのせる
・ななめに座る
・浅く腰かける

血液を循環させる座り方
・首を伸ばし、あごは軽く引く
・目線はななめ45度下に
・ゆっくり鼻呼吸
・背筋はピンと伸ばす
・おへその下の『丹田』に意識を集中

※女性セブン2025年10月30日号