健康・医療

《「認知機能」「血液循環」「フレイル」がキーワード》最新研究が解き明かす“百寿者”が本当にやっている長生き術

長寿を祝う様子
元気な100才をめざすための方法を長寿の専門家が指南(写真/PIXTA)
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今年9月1日時点で、日本における「100才以上の高齢者=百寿者」は9万9763人に達した。超高齢社会が進む日本でもはや百寿者は珍しくないが、100才まで“生きながらえる”のではなく、どこまでも元気な100才をめざしたい。その夢を実現するには元気な百寿者の特徴を知ることが欠かせない。最新研究から明らかになった健康長寿の秘訣とは。

人生120年時代の到来が唱えられるなか、ただ寿命を延ばすだけではなく、最期まで元気に過ごすことが理想の生き方になる。100才まで生きる人は病気とは無縁で丈夫な体を持つと思われがちだが、そんなことはない。慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター長の新井康通教授が言う。

「百寿者はまったく病気にならないというわけではありません。ですが、高血圧や骨折、白内障などの疾患を抱えることが多い半面、糖尿病や動脈硬化、がんなどの死亡につながる重篤な病気にはなりにくい。

命にかかわるような病気になっても発症や進行が遅いという特徴もあります」

東京都健康長寿医療センター研究所の福祉と生活ケア研究チーム研究員の増井幸恵さんもこう語る。

「ひとつも病気をしたことがない人もいますが、それより何かひとつの病気とうまくつきあって100才になるかたが多い。ただし認知症を引き起こすリスクとなる糖尿病を抱えるかたは百寿者には極めて少ない。すなわち糖尿病を予防し、疑いがある場合は是正することが百寿者へつながっているともいえます」

​​百寿者に肥満は少ない

​​長寿が珍しくなくなっても、「元気な100才」はそう多くはない。百寿総合研究センターは、100才を超えて自立して生活する人などの生活習慣や性格傾向、生い立ち等を聞き取り調査して分析している。

その結果、有病率だけでなく「体形」にも共通の特徴があることがわかった。

「百寿者はみんなやせていて肥満が少ない。年をとると自然とやせていきますが、若い頃から太っている人が少ないことも百寿者の特徴です」(新井さん)

生活習慣の面では喫煙している人は少ないが、飲酒率はそこまで低くはない。以前はお酒を飲んでいたという人も少なくなく、「適量」のアルコールは大きな影響はないということも研究から明らかになっている。

これまでの研究結果から新井さんは、100才を超えても元気で長生きするケースは、「認知機能」「血液循環」「フレイル」の3つがキーワードになると話す。

「100才以降も健康な人は、記憶力や判断力、思考力などの認知機能が高く、総合的な脳の働きが良好です。また、心臓や腎臓の血液循環がしっかりしていて、動脈硬化や心不全になりにくい。さらに体の骨格筋の働きが衰えて歩く機能などが落ちる『フレイル(虚弱)』にならないかたが健康で長生きできます」

健康長寿に適した体の状態は血液検査の項目からもうかがえる。具体的には、心臓の機能が低下している人ほど数値が高くなる「NT-proBNP」の数値が低く、たんぱく質の一種で栄養状態を示す目安となる「アルブミン」の数値が高い人ほど、心臓や血管の機能が高く良好な栄養状態を維持できるという。

こうした健康な体をつくるには「食事」と「運動」が何よりも大切だ。

百寿者の研究において、85才以上の健康なグループを対象に調べたところ、健康長寿に最も効果がある栄養素は「たんぱく質」だったことが裏付けられた。

「良質なたんぱく質をバランスよく食べるのが正解という結果でした。たんぱく質は筋肉量の低下を防ぎ、フレイルを予防する効果があります。近年ではたんぱく質というと肉を食べることに重きを置かれがちですが、肉だけがいいという結果にはなりませんでした。肉や魚などの偏りはなく、バランスよく食べるといいでしょう。ただし、たんぱく質は腎臓に負担をかけるので過度な摂取は控えた方がいい。腎臓が悪い人は必ず主治医と相談したうえで、食事をとるようにしてください」(新井さん・以下同)

肉や卵などたんぱく質豊富な食材
たんぱく質をしっかり摂り、血流をよくすることが元気な百寿者への道(写真/PIXTA)
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ただし現実問題として加齢に伴い入れ歯になるケースも多く、噛む力も衰える。

「何でもいいから食べられるものをしっかり食べることです。軟らかい食べ物でいいので、好き嫌いなく食べることが理想です」

もう1つのポイントである運動は「中高強度の有酸素運動」がカギになる。

「のんびりしたウオーキングではなく、ある程度息が弾むくらいの早足の運動を指します。中高強度の有酸素運動を1日10分でも行うとフレイルを防げます」

百寿者は実際にどんな運動をしているのか。元気な高齢者の身体活動の種類を調べたところ、男女とも「体操」がトップだった。

「女性は2人に1人、男性は4人に1人が体操をしていました。女性は集まって活動するのが好きなので、グループ体操や公園に集まって行う体操に参加しているのでしょう。ほかには筋トレやヨガ、ストレッチ、ダンスなども取り組んでいるシニアが多い傾向にありました」

ひざや腰が痛くて運動ができない人もいるだろうが、一日中座りっぱなしでいるのは厳禁だ。ずっと座っているとフレイルのリスクが確実に増して健康長寿に黄色信号が点滅する。

「家にずっといてテレビばかり見ている人は、座っている時間が長くなるので要注意です。途中で立ち上がって体操をするなど、体を動かすことが大切。家事や、園芸などの趣味の時間を持つことも、座りっぱなしの時間を少なくします」

趣味でいえば、頭を使う趣味活動をすると総合的な認知機能が高くなる。

「たとえば読書や映画・音楽鑑賞、書道や茶道、裁縫といった頭を使う趣味は、認知機能を維持するために非常に効果的です。ひざや腰が痛くて運動が難しい人は、頭を使った趣味活動を行って認知機能の維持をめざしましょう」

※女性セブン2025年11月27日号