
「いい靴は、あなたを素敵な場所に連れて行ってくれる」という。デザインが美しい靴や、高価な靴のことではない。あなたの足にぴったり寄り添って足元から体を支え、何才になっても、どこまでも歩いていける「最高の靴」のことだ。50代を過ぎたら、靴こそ健康の“土台”になる。100才までずっと歩ける、オーバー50からの靴の選び方を紹介する。
自分に合った靴を履けば、健康に過ごすことができる
平均寿命が年々長くなっているいま、50代を過ぎて意識し始めるのは、いつまで健康でいられるか、とりわけいつまで「自分の足で歩けるか」だろう。
足は“第二の心臓”ともいわれ、かかとから着地してつま先で踏み出して歩くことでふくらはぎの筋肉が動き、重力で下がった血液をポンプのように押し上げ、全身にめぐらせている。歩けば歩くほど、体力向上や心身の健康維持、ひいては健康寿命を延ばすことにもつながり、ウオーキングがもたらす健康効果はいくつもの研究で立証されている。
そのために欠かせないのが、足の健康を守り、機能を維持する「正しい靴選び」だ。足と靴と健康協議会事務局長で上級シューフィッターの木村克敏さんが言う。
「小さな表面積で全体重を支えている足を守る靴は“体の一部”。外反母趾やたこ、魚の目、巻き爪といった足のトラブルは多くが『合わない靴』が原因で、痛くて歩けなくなると筋力と血流が低下して疲れやすくなったり、むくみやすくなったりします。いい靴は健康をもたらしますが、悪い靴は不健康を招くのです」
自分に合った靴を履けば、何才になっても自分の足で歩き続けることができ、健康に過ごすことができる。50代からの「正しい靴の選び方」を知っておこう。

50代以降崩れる「足のアーチ」
若い頃は高いヒールで一日中歩けたという人も、50代以降はそうはいかないと話すのは、足のクリニック表参道院長の桑原靖さんだ。
「若い頃は筋肉やじん帯の柔軟性があるので、多少足に負担がかかっても大きな問題はありません。しかし、更年期以降は女性ホルモンが減少し、骨や関節が弱くなる。50代を過ぎても歩くのに向かない靴やサイズの合わない靴を常用していると、靴擦れなどの皮膚疾患、さらには足の骨格のアーチが崩れやすくなるのです」
足のアーチはかかと、親指のつけ根、小指のつけ根の3つを頂点に、三角形の形で足を支えている。体重を支えるだけでなく、歩いたり走ったりするときの衝撃を吸収したり、バネの力で足をまっすぐ前に進める推進力を生む。50代以降も合わない靴を履き続けているとアーチがゆがんだり、アーチのない「べた足(扁平足)」になるという。
「アーチが機能しなくなると、歩き方や姿勢にも影響し、やがて全身のゆがみにつながります。すると、ひざや腰の痛みがひどくなるほか、肩や首、時には頭痛を引き起こすこともあります」(木村さん)
かかととつま先に高低差が必要
50代以上になったら、足に負担がかかる高いヒールは避けるべきだが、バレエシューズのような「ぺたんこ靴」も避けるべきだ。
「バレエシューズは靴底が薄いものが多く、甲が覆われていないため安定感がなく、かかととつま先の高低差がないため、実はかなり疲れやすい。靴底が薄いと歩くときの衝撃から足を守る力が弱いため、足の負担が大きくなります。また、甲が覆われていないと、脱げないように無意識に足指に力が入ってしまうのです」(桑原さん・以下同)
桑原さんによれば、もっとも足が疲れにくいのは「前と後ろの高低差(ドロップ)が0.5〜1.5cm程度のスニーカー」だ。かかととつま先に体重が分散され、安定して歩くことができる。
シニアになると、歩きやすさからスニーカーを愛用する人も増えるだろう。
「スニーカーでも、靴底にある程度厚みがあり、かかととつま先に高低差があると、体重が分散され、負担の軽減につながります。
シニアの場合、地面を蹴り出す足の動きに合わせて曲がる柔軟性も必要です」
歩いている最中や、脱ぎ履きのときの転倒対策も必要だ。現在、ひざの負担を軽くするモデルとして注目を集めているスニーカーがアシックスウォーキングの「KNEESUP」。軽量で、つま先が反り上がった形状で転びにくく、足腰の負担も軽減してくれる。
「とにかく脱ぎ履きがラク」とシニアからも人気なのはスケッチャーズの「スリップインズ」シリーズ。かがまなくてもスムーズに脱ぎ履きできるのに、歩いているときは脱げない特殊設計だ。
スニーカーでも、パンプスでも、自分の足の形に合うことが重要。
「つま先の形は大きく3つあり、歩行機能にも影響することがあります。当協議会の調査では、日本人の6割がエジプト型でした。エジプト型の人は、つま先の丸いラウンドトゥや、親指の部分が長めにつくられているオブリークトゥなどがおすすめです」

日本人の約8割が「足のサイズ」を知らない
靴を買うとき、もっとも重要なのは「サイズ」だ。当たり前のように思えるが、サイズ選びを間違っている人は驚くほど多い。
「太ったり年齢を重ねたりして体形が変わると、衣服ならすぐに気づいて買い替えますが、靴には無頓着な人が多い。体重が2kg増えただけでも靴のサイズは変わり、年齢とともに足の骨格も変化するので、若い頃と同じサイズを履き続けるのはおすすめしません」(木村さん・以下同)
木村さんによれば、多くの人が自分のサイズを正確に把握していないという。
「過去にたまたま23cmの靴が合ったからといって、どのメーカーのどの靴も23cmが合うわけではありません。“自称サイズ”が24cmの人の足をシューフィッターが測ったら23cmだった、ということは靴屋“あるある”。実際より大きい靴を履いている人は多く、現場の実感としては、10人測定すると8、9人は“自称サイズ”の靴を履いています」
実際より大きめの靴は履いていてラクなイメージがあるが、歩くと靴の中で足が動くため、1歩歩くたびに指先が前滑りしてつま先がぶつかったり、かかとが擦れたりして、歩けば歩くほど、足のトラブルを招きやすくなる。
桑原さんは、年を重ねたらネットショッピングなどで試着せずに靴を買うのは厳禁とアドバイスする。
「数字の上では同じサイズでも、メーカーごと、ブランドごとに微妙な数値や形状の違いがあります。すでに履いている、自分に合ったシリーズのものでない限り、ネットでの購入は避けた方が無難」(桑原さん)
「私の足は23cm」と思っていても、測るべきサイズはつま先からかかとまでの「足長」だけでは不充分。横幅のもっとも太い部分を測った「足幅」と、甲のもっとも高い部分の外周を測った「足囲」を正確に測定して初めて、足のサイズがわかる。靴を買うときは店舗に赴き、その都度、測定してもらい、フィッティングするべきだ。

もう間違えない試着のポイント
ちなみに、「足がむくみやすい夕方に靴を買うといい」というのは間違い。
「もっともむくんでいる時間帯に買った靴は、むくんでいないときはゆるい。一日のうちでいちばんむくんでいるときを把握し、“むくんでいるときとそうでないときの中間”のタイミングで試着するのがベストです」(木村さん)
測定と試着をして靴を買うなら、できるだけ取り扱うシリーズやサイズが多い方が理想的なので、大手靴専門店チェーンや百貨店がおすすめだ。フィッティングの際は、買いたい靴に合わせる予定の靴下やストッキングを履いて測定、試着するのがポイント。試着したら、実際に店内を歩いて、履き心地とサイズ感を確かめよう。
「靴底にかかとをしっかりつけた状態で、靴ひもなどで足の甲を固定してから歩いてみましょう。全体的な履き心地と同時に、かかとが浮いたり動いたりしないか、つま先に1~1.5cm程度の『捨て寸』というすき間があるか、爪の上側が靴の中で当たっている感覚がないかをよく確認してください。少しでも違和感や気になるところがあれば購入をやめるか、別のサイズを試してみてください」(桑原さん)

そうして、1足だけでなく、複数の「本当に合う靴」を持っておいてほしい。
「1日にかく汗の量は、両足でコップ1杯分だといわれています。毎日同じ靴を履くのではなく、3足くらいをローテーションしてほしい。1足だけを潰れるまで履き続けるよりはるかに長持ちするので、衛生的かつ経済的です。
修理して履き続ける場合は、修理代金が買ったときの値段の半額以上になったら、買い替えの目安と考えて」(木村さん)
健康長寿を支える靴。正しく選べば、何才になっても自分の足で歩き続けられるはずだ。
「アシックスウォーキングKNEESUP」(1万4300円)

「軽くて柔らかく、加齢に伴う足腰の負担を軽減する設計。かかとをしっかりホールドし、反り上がったつま先の形状でつまずきにくくなっています」(アシックス商事の杉本和博さん)
「スケッチャーズ スリップインズ:ゴーウォーク アーチフィット 2.0 – バル」(1万7050円)

「かかとが潰れにくく、スムーズに足を入れられるので、“靴を履く”という動作がラクに。内側は靴べらのような形状でスッと履けて足にしっかりフィットします」(スケッチャーズジャパンの渡部有希さん)
※女性セブン2025年9月18日号