
「説明言葉やナレーションが少ない」「目線やしぐさの演技が多い」など、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は従来の朝ドラとは逆の演出で人気を博し、朝から視聴者をテレビに釘付けにしている。小泉八雲の妻・セツをモデルに描いたストーリーは、さまざまな悩みを抱えた現代人の胸を打つ。『Oggi.jp』で連載を持つ朝ドラウォッチャー・朝ドラ子さんが、これまでの名場面を解説する。
明治初期、松江を舞台にした夫婦の物語
本作は、明治初期、松江を舞台にした夫婦の物語。主人公の松野トキ(高石あかり)ら松野家は多額の借金を作ってしまい、貧乏ながらも懸命に生きていく。松江に赴任してきた英語教師レフカダ・ヘブン((ミー・バストウ)に、主人公・トキは女中として雇われ、次第に2人は惹かれ合う。
名場面プレーバック
夫との別れの言葉「ええの」

元夫・松野銀二郎(寛一郎)は、お見合いをして松野家に婿入りした、トキの最初の結婚相手。祖父の勘右衛門の厳しいしごきや借金返済の過酷さに耐えられず、東京へ出奔してしまう。
銀二郎から「一緒に東京で暮らそう」と提案されたものの、家族への思いを捨てられず別れを選んだトキ。
「『一緒に松江に帰れなくてごめん』と謝る銀二郎にトキが涙を堪え微笑みながら言ったこの一言が、破壊力抜群! 多くを語らせすぎない演出は、まるで映画です!」(朝ドラ子さん・以下同)。
「東京はやり直せる場所だ」

英語教師・錦織友一(吉沢亮)が、東京に残るか悩むトキに向けたせりふ。
「錦織さん自身も東京で人生をやり直そうとしているからこその説得力。でも、世の中にはいろんな事情でやり直しを選べない人もいる。その対比に唸るセリフです」
「ヘブン先生も人間です」

「周囲の人たちはヘブン先生を外国人だと無意識に差別しているけれど、トキは握手を通じてヘブン先生の孤独や不安を感じ取り、同じ人間だと気づく。世界の見え方がガラッと変わる名シーンです」
どん底の中の美しさ

トキの親戚で、かつては松江随一の名家として知られていた雨清水家のタエ(北川景子)が、なんと物乞いに。
「どん底の中でも凜とした美しさが残るたたずまいに、余計に絶望感が募ります…」。
娘のために「落ち武者」に

トキのお見合いを成功させるため、トキの父・松野司之介(岡部たかし)がまげを落とし落ち武者姿に。
「武士の誇りを捨てる重要シーンがコメディーに描かれ、笑ってしまいました」
1話まるごと「スキップ」

第38回はヘブンから教わった西洋の歩き方をみんなで練習。
「まさかスキップだけで1話使うなんて、朝ドラ史に伝説を残したと思います。各キャラの下手なスキップが愛おしく、ずっと見ていたい」。
ウサギを食べてしまって…

貧しい松野家は飼いウサギを泣く泣く”しめこ汁”に。慰めを求めてトキ(少女・福地美晴)は母のフミ(池脇千鶴)に怪談話を頼む。
「従来の朝ドラヒロインのように感情を露わにせず、悲しみを押し殺す姿に新しさを感じました」。
連続テレビ小説『ばけばけ』
毎週月曜~土曜 NHK総合午前8:00~8:15ほか
※土曜は一週間の振り返り
取材・文/井上明日香
※女性セブン2025年12月11日号