
いつも同じ側の肩にバッグをかける、足を組んで座る、靴のかかとが外側ばかりすり減る──長年のクセによる「体のゆがみ」は気づかぬうちにあなたの体に不調を招いている。すぐできる超簡単メソッドで、ゆがみゼロの美姿勢と、不調ゼロの体になろう。
土台となる足元から正しい位置に戻す
姿勢や健康維持のためには何をすればいいのか。いきなりヨガやピラティスにチャレンジしても、「フォーム(正しい体の使い方)を無視したやり方では、かえって体を悪くする」と、フィジカルトレーナーの坂詰真二さんはアドバイスする。
「体幹ももちろん大事ですが、それ以上に重要なのが、『足のポジション』です。ここが正しくないと、運動効果が半減どころかマイナスにもなるのです」(坂詰さん・以下同)
人体は建築物にたとえられると、坂詰さんは続ける。「体幹(胴体部分)が建物で、足は建物を支える土台や基礎となる部分。建物がどんなに立派でも土台が整っていないと全体が崩れてしまうように、いくら体幹を整えても、足元を正さないと体のゆがみや不調は改善されません。

人間の体はバラバラに動いているのではなく、全身の筋肉や関節が連動しています。そのため、ひとたび足のポジションが崩れると、ひざ、股関節、骨盤に乱れが波及し、崩れた体のバランスを取るため肩や頭が前に出た猫背、巻き肩、ストレートネックと、全身に及んでしまいます。人間が重力に逆らって二本足で生活している以上、土台となる足元から整えるのが理にかなっているのです」
トレーニングやマッサージなどで痛みが一時的によくなっても、ぶり返してしまう人は、足を見直す必要があるという。
「まずやるべきは『正しく立つ』こと。これが、簡潔にして最善の健康法・美容法だと、私は考えます」
土台の不安定さは立ち姿に表れる。象徴的なのが、前ページの3種の立ち方だ。
「共通するのが、足の外側に荷重、つまり体重を乗せている点です。筋肉ではない骨や関節を使って体を支えると、楽に立っていられます。しかし、その姿勢を続けるとひざが外に開いたO脚が定着し、やがてひざの関節や股関節の変形を招くことになってしまいます。
筋肉は何才からでも鍛えられますが、関節はすり減ってしまうと元に戻らない。100才まで元気に歩くには、関節の摩耗をいかに防ぐかがカギですが、外荷重の立ち方は関節の摩耗を早めてしまう危険がある。前ページの『体がゆがむ立ち方』に当てはまる人は、いますぐ正しい立ち方のトレーニングを始めましょう」
《要注意》体がゆがむ立ち方
【1】足を大きく開いて立つ
【2】つま先が外を向いている
【3】足の小指側に荷重がかかる
【4】体重のかけ方に左右差がある
正しい立ち方に脳の記憶を書き換える
正しい立ち方のポイントは、以下の3つだと坂詰さんは言う。
【1】足と足の幅をなるべく狭く(10cmほど)する
【2】足の人差し指をまっすぐ進行方向に向ける
【3】足の内側(親指側)に荷重の意識を置くこと
「足の親指は外反(小指側に曲がること)している人が多いため、比較的まっすぐな人差し指を前に向けるようにすると正確です」
はだしになり、畳の縁やフローリングの板目を利用して人差し指の方向を合わせてみよう。ちなみに、つま先が外向き気味の記者は、正しい足のポジションを「すごく内股」と感じた。それほど、自分が「まっすぐ立っている」感覚と実際とでは乖離があるのだ。
「足のポジションが定まると、おのずとひざ、股関節、腰、背すじ、頭の位置が整います。股関節が正しい位置になると内臓の位置も整い、ぽっこりお腹も締まってきますよ」
姿勢を正そうとすると肩に力が入ったり、反り腰になるが、「正しい足元」ができるとバランスよく体重が分散され、力まず楽に立つことができる。
「家事などで前かがみになるときは、正しい立ち方のままひざを軽く曲げ、股関節を軸に動くとゆがみを防ぐことができます」
正しい立ち方は、頑張って長時間練習しなくてもいい。むしろ、歩き始める前や、信号・電車待ちの間などにこまめに確認し、正しい位置に戻すことが重要だ。
「このトレーニングは、脳に『正しい足の位置』を記憶させるのが目的です。脳にある『小脳』は運動学習を司る機能があり、ここに刻まれたデータは無意識のうちに体に表れます。長年にわたる間違った体のクセを修正するには、正しい姿勢を上書きしていけばいい。そのためには、こまめに正しい足元を意識してつくることが重要です」
正しい立ち方
両足の幅を10cmほど開く。足の親指ではなく、人差し指を前に向けて立つ。足裏の3か所に体重が均等にかかり、足の間に重心がくる立ち方。つま先よりかかとの方が2〜3cmほど開いているはず。

足の位置を正すだけでO脚が修正され、骨盤が立って背すじが伸びる。胸が開いて巻き肩も改善。ストレートネックも改善されるので、頭が正しい位置に戻る。


正しく立てないと関節がどんどん変形する!
足元の位置が崩れると、変形性膝関節症になる恐れも。

「正しい歩き方」トレーニング
次の「正しい歩き方」のトレーニングは、体の左右バランスのゆがみを修正する効果もある。
「毎回、歩き始めの10歩くらいを行えばOK。足は、前に出すより、後ろに蹴る方を意識することで、自然と体が前に出てひざが上がる“いい歩き方”ができます。
体の左右差は、腕の振りにも出ます。たとえば、片側の腕だけが内側に入る、片側だけ振りが大きいときは、足運びが乱れている表れです。振る腕の高さや向きを均一にすると、正しく歩く精度が高まります。また、ショルダーバッグは行きと帰りでかける肩を変えるなど、左右差を広げない工夫も必要です」
最後の「正しい座り方」の肝は骨盤を立てること。
「キャスターのない椅子の前方に座骨で座るようにすると自然と骨盤が立ちます。お尻の筋肉が硬いと長く座れないので、座るたびに意識して行いましょう」
つらい運動は不要。脳に動きを覚えさせ、意識づけができれば、早くて1週間ほどで全身が整い始め、姿勢も変わってくるという。 「いま外荷重になっている」と自覚するだけでも、一歩前進だ。
正しい歩き方
《POINT》つま先で地面を後ろに蹴るように進む
正しい立ち方から、足を前に出す。かかとは地面にドンと突くのではなく、触れるようなイメージで、踏み出した足指を後ろに蹴る。

腕を振る高さと向きを均等にし、上体が左右に揺れないように歩く。
正しい座り方
《POINT》骨盤を立てる
キャスターのない安定した椅子を使用すること。足は腰幅に開き、つま先を前に向けて浅く腰かける。足を手前に引き、親指を床につける。かかとは自然と浮く。


背もたれに体を預けるように座ると骨盤が後傾し、頭も前に出て崩れた姿勢に! 足を組むのもNGだ。
ゆがみリセット術
日中はいい姿勢を保てても、疲れが重なる夕方には姿勢が崩れがち。そこで、一日の終わりや空き時間に体のゆがみをリセットできるセルフケアを行おう。
「階段を上がるとき、多くの人は毎回、同じ足から上り始めます。なぜかというと、階段を上るためには体重を支えながら体を持ち上げる必要があるため無意識に筋力が強い、動かしやすい足を使っているわけです。この左右差を埋めるよう、「階段トレーニング」で弱い方の足を重点的に使って、筋力のバランスを整えましょう」
座り時間が長い人は、背中が丸く伸びて、お腹が縮みがち。「うつぶせストレッチ」は、ゴロゴロしながら縮んで硬くなったお腹を伸ばし、ほぐしてくれる。
「立っているときは姿勢が安定するのに座ると崩れてしまう人は、お尻が硬く、骨盤が後傾しやすい。『お尻ほぐし』を行いましょう。片方の足を伸ばしたまま骨盤が丸まらない範囲で、できるだけ足を胸に近づけると効果的です。
骨盤は、筋肉が硬い方に引っ張られて傾くため、硬い方を重点的にほぐすこと。
普通のストレッチやエクササイズは左右等しく行いますが、それではいつまでも左右差が埋まりません。自分の筋力が弱い方、あるいはこりが強い方にフォーカスするとゆがみが緩和されます」
重要なのは、体のバランスの悪さや痛みを蓄積させないこと。毎日、正しい位置に戻すケアを続ければ、体幹のゆがみはリセットできるのだ。
《ふだん踏み出さない方の足から上る》階段トレーニング

マンションや職場の階段1階分は、いつも1歩目を踏み出す足とは逆の足で、一歩ずつ上る。踏み出す足が決まっていない人は、上げづらい方の足を使ってやってみよう。
《縮んだお腹を伸ばす》うつぶせストレッチ
日常では腹筋を伸ばすことがあまりないため、床にうつぶせ状態で上体を反らす時間を作ろう。

時間は何分でもOK。足首から下にクッションなどを敷き、両足を平行にすること。
《寝る前にやわらかくする》お尻ほぐし
ベッドや布団の上に仰向けになって体をまっすぐに伸ばし、片方のひざを曲げ、左右の手で持つ。

できる範囲でひざを胸の方まで近づけ、曲げた方のお尻が伸びていることを感じながら10秒キープ。左右とも行い、やわらかい方は1セット、硬い方は2〜3セット行う。
◆教えてくれたのは:フィジカルトレーナー・坂詰真二さん
スポーツ&サイエンス代表。トレーナー歴36年の知見を生かし、メディアで活躍中。『眠れなくなるほど面白い 図解 筋肉の話』(日本文芸社)ほか著書多数。YouTubeは『坂詰真二の「真・トレーニングちゃんねる」』。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2025年12月18日号