
加齢とともに出てこなくなる人の名前や固有名詞、昔の記憶。「アレ、何ていう名前だったっけ?」が増えると不安な気持ちに―そんな不安を解消してくれるのが「指トレ」。特別な道具は一切不要!いつでも、どこでも手指を動かすだけで、脳がみるみる活性化する。
なぜ手指の「動き」が認知機能の維持に重要なのか?
認知機能向上、脳の活性化のため、高齢者施設などでは指を使ったトレーニングが取り入れられる。なぜ指を動かすといいのか、そして具体的にどんな効果が得られるのか。介護福祉士の大野孝徳さんが説明する。
「手や指の神経は脳と密接につながっており、『第2の脳』と呼ばれています。すなわち手指を動かすと脳が刺激を受け、血流量が増えて活性化するのです。ただ、認知機能が落ちてくると物を掴むことや、目標物が見えているのに的確に触ることが難しくなります。そうした機能低下を防ぐためにも指トレーニングが必要になるのです」(大野さん・以下同)
大脳にあり、記憶や学習の働きを担う「前頭前野」や運動の指令を出す「運動野」、空間認識や知覚にかかわる「頭頂葉」などの働きが、指を動かすことで活発になる。
「手指の動きは体全体の動きの半分を占めているといってもいいほど活動量が多い上、掴む、つまむ、伸ばすなど、ほかのどの部位よりも複雑です。これらができるのも脳を動かしているから。すき間時間があれば、常にたくさん動かすといいでしょう」
趣味にいそしんで認知機能をアップ
指トレーニングでなくとも、日常生活や趣味で、指を動かす活動もある。
「ピアノやギター、打楽器など楽器演奏全般は、指を絶え間なく動かすため、間違いなく脳の活性化につながります。リズムに合わせて楽しみながらできるのもいいですね」
指先の細かな動きを必要とする折り紙などのものづくりも効果的だ。
「認知症になると空間認識が難しくなることが多い。たとえば『時計の絵に10時20分の針を書き込んでください』という課題に対し、認知症のかたは書き込むことが困難になります。これは、指と脳とのつながりが途絶え、空間認識能力が落ちているから。それを防ぐには、指先を使ったものづくりがいい。特にちぎり絵や編み物、パッチワークなどは、指を使うだけでなく、完成までの手順や色の組み合わせを考えるという行為が、空間認識能力の維持に役立ちます」
高齢者の脳活として人気の麻雀は「ルールに従い」「戦略を立てながら」「指を動かす」という複数の行為が、情報処理能力やコミュニケーション能力を高めるという。
「料理も大変重要な脳活のひとつです。認知症になると、調理の手順がわからなくなる『実行機能障害』が起きることがあります。食材を切って下ごしらえをし、調理するまでの段取りが必要な料理は、それを防ぐには最適。昨今、高齢男性にも推奨しています」
できない「いま」が脳の活性化チャンス
何かしら指を動かすのは脳の活性化につながるが、ただ動かせばOKというわけではないらしい。
「習慣化されて当たり前にできること、得意なことに対して、脳は『省エネモード』になるため、あまり活発には働かないのです。そこで、いつも無意識に動かしている指を『意識する』ことが重要。おすすめは『素手で触れる』ことです」
たとえば、飲み物や食べ物を手に取り、「熱い」「ぬるい」「冷たい」を手から感じたり、身の回りの物に触れながら「つるつる」「ざらざら」「すべすべ」など、さまざまな触感を心の中で表現すると、脳全体に刺激の信号が送られるのだという。
「また、ふだん使わない手指で日常動作を行うのも効果がある。実は、得意なことよりも苦手なことをやる方が、脳が活性化されるのです」
高齢者の指トレーニングが脳に与える影響についての調査に大野さんが参加したところ、上手にできる人の脳よりも、なかなかできずに四苦八苦している人の脳の方が、血流量が増えていたという。
「指トレーニングがうまくできないかたには、むしろ『おめでとうございます!』と言っています。それは、できないことに挑戦しているその瞬間、脳はものすごく働いているからです」
「できない自分が恥ずかしい」より、「できないいまが脳の活性化のチャンス」と考え、指トレに励もう。
楽器演奏
楽器演奏は脳のさまざまな領域を刺激する超おすすめの脳活手段。両手や足を使うので全身運動にもなる。

手芸(編み物、裁縫、刺繍など)
指先を細かく動かす手芸は、集中力や心を安定させる効果もある。図案や色の組み合わせを考えることで脳活動もアップ。

折り紙やちぎり絵
指先で正確に紙を折り、いろいろな形を生み出す折り紙は、前頭前野をはじめとした脳の広い部分が活性化される。
麻雀やボードゲーム
麻雀のほか、将棋、トランプ、オセロといったボードゲームは、ものを考え、記憶力の向上にも役立つという。

料理
料理は食材の形をそろえて切り、完成までの手順を考える絶好の脳活。おっくうがらずに続けたいものだ。

手触りを感じる
素手で物を触り、冷たい、熱い、硬いなどを意識的に感じると、触覚だけでなく情動(感情)も刺激されるという。

日常指トレ
字を書く、食事をする、改札を通る、握手をするなどあらゆる動作で使うのが利き手。それを“変える”だけで、脳が劇的に活性化されるという。
利き手じゃない手を使ってみよう
「たとえば、電話を取る、掃除機をかける、コーヒーカップの取っ手を持つなどのとき、皆さん、利き手を使うことがほとんどだと思います。これを、あえて逆の手でやってみると、『あれ、なんだかいつもより体が動かしづらいぞ』と戸惑うはず。この『戸惑い』が大事。脳にいい刺激が入っている証しです」(大野さん・以下同)
利き手と逆の手で箸を使うのは上級者向けだが、そこまでいかずとも、ドアを開ける、蛇口をひねる、荷物を持つ、ポストに投函する、テーブルを拭く、ふたを開ける、ボタンの留め外しなど、何気なく利き手で行っている動作は多い。気がついたらトライして!
ふだん使わない指を使う
上記の応用編として、あまり使われていない指をあえて動かすことで、その指の神経が目覚め、脳が動くという。
「たとえば生地や紙の手触りを確かめるとき、人差し指を使うことが多いというかたは、薬指や小指で確かめてみると、触感がちょっと違ったりします。上記でいうところの『違和感』ですね。
ほかにも、軟こうをつける指や、物をつまむ指をいつもと違う指に変えてみるのもいいでしょう。ゲーム感覚で楽しみながら行ってみてください」
何か違う指でできることはないかな?と探すことも、脳を活性化するのにいいかもしれない。
◆教えてくれたのは:介護福祉士・介護予防指導士・大野孝徳さん
介護や福祉にかかわる多くの資格を取得し、年齢を問わず、健康に長生きするための健康指導を行う。A-assist代表。https://llc-a-assist.co.jp/
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2026年1月29日号