
2023年にNetflixで配信されたドキュメンタリーをきっかけに注目されているのが、世界各地に点在する健康長寿地域「ブルーゾーン」だ。イタリアのサルデーニャ島、日本の沖縄、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコヤ半島、そしてギリシャのイカリア島という5つのエリアが広く知られている。この地域の特徴は単に長寿であるだけではなく、認知症やがんの発症率も低いという。昨年5月、サルデーニャ島へ調査に行った京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤裕二さんが説明する。
「ブルーゾーンという言葉が生まれたのは、イタリアで長寿者の疫学研究をしているジャンニ・ぺス教授が、世界地図を広げ、健康な長寿者が集まる地域に青い丸印をつけたのが始まりです。長寿地域の人々は、決して特別な健康法を実践しているわけではありません。しかし彼らの暮らしを調べると、いくつもの共通点があることがわかっています」
では、実際にブルーゾーンで暮らす人たちは、どのような生活を送っているのだろうか。その秘密を探ってみた。【前後編の後編。前編から読む】
生活そのものが運動になっている
内藤さんは「食事の次に大事になる共通点は運動だ」と言う。食事同様、共通するのは特別なトレーニングではなく、日常生活に組み込まれた適度な運動習慣だ。
「サルデーニャ島で長寿者が多いのは、坂道が多い山岳地域で、生活の中で自然と体を動かす環境が整っているから。車がないため、人々は平均して1日1万2000歩も歩いています。
日本の都市部では自宅から駅への往復などで意外と歩いていますが、地方に行くほど車に頼る生活になるため運動不足に陥りやすいのです」(内藤さん)
運動といっても、ジムで汗を流す必要はないと国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎さんは言う。
「ブルーゾーンでは毎日の歩行や畑仕事、階段の昇降など生活そのものが運動になっています。こうした適度で継続的な運動は、関節や心臓に負担をかけにくい。筋力・血流・代謝の維持に直結し、慢性炎症を抑えて老化を遅らせてくれます。現代人は、日中は座りっぱなしで動かない一方で時々激しい運動をしがちですが、急激にやりすぎると体が疲弊してかえって免疫力が下がることもあります」

仕事帰りにジムで運動をするよりも、オフィスで積極的に階段を使う、一駅分歩いて帰る、買い物中はかごを持つなど、こまめに体を動かす生活を意識したい。
「少し早歩きのウオーキングなど、軽く汗ばんで息が切れる程度の『低〜中強度』の運動を、日常的に積み重ねるのがベストです。
特におすすめなのは、昼間に日光を浴びて、家族や友人と会話を楽しみながら歩くこと。幸せホルモンと呼ばれるセロトニンやオキシトシンの分泌が促され、夜の快眠につながるだけでなく、会話そのものが脳を活性化してくれます」(一石さん)
座ったり寝転んだりして行う「座位行動」は長寿を遠ざけると話すのは、石井さんだ。
「座っている時間が長いほど、認知症のリスクは高まります。ただし、読書をしている場合は座っていても認知症リスクはあまり上がりません。本を読むときは文字から脳内で場面を想像するため、画像や映像を見ているときよりも脳が活性化されるからです」
何気ないおしゃべりも立派な健康習慣
食事と運動に並ぶ、もうひとつの大きな柱が「人とのつながり」だ。
「健康長寿に欠かせないのは、人との『絆』です。サルデーニャ島では夕方になると、人々が自然と家から出てきて、おしゃべりを楽しみます。健康のために意識して集まるのではなく、人を孤立させない仕組みが自然と社会に根付いているのです」(内藤さん)
石井さんも、長寿の背景にコミュニケーションが深く関係していると指摘する。
「ブルーゾーンに共通するのは、人とのつながりが密で、会話の量が多い点です。社会的な交流が豊かな人ほど認知症の発症が少なく、結果として要介護状態にもなりにくい。井戸端会議のような何気ないおしゃべりも、立派な健康習慣です」
さらに長寿には「生きがい」も欠かせない。
「何でもいいので、人生の目標を持ってほしい。目標がなければ人は健康への関心を失い、生活習慣をおろそかにしてしまいます。実際、生きがいがない人は、ある人に比べて心疾患のリスクが1.6倍、全死亡率が1.5倍高いというデータがあります」(内藤さん)
大きな夢である必要はない。日々の生活の中で「これが楽しみ」「この趣味を続けたい」と思えるものがあることが、健康行動を後押しし、結果として長寿へ導くのだ。
ほかにも、自然と共生して、何らかの信仰を大切にすることも、ブルーゾーンの共通点だ。
「信仰や祈りはコミュニティーでの絆を深め、ストレスを軽減します。マインドフルネスや瞑想が、後天的に遺伝子の働きをコントロールして、老化を食い止めるという研究結果もある。
現代の忙しさに追われることなく、自然の中で心を整える時間を持つ。そんな穏やかな日常が心身の負担を減らし、健康長寿を支えているのでしょう」(一石さん)
食事や運動、人とのつながり、生きがい——こうした日々の暮らしの積み重ねが心と体を健やかに保ち、豊かな長寿を形作っている。
※女性セブン2026年1月29日号