
1988年の初演以来、上演回数は8000回以上、総観客動員数は820万人以上を誇る劇団四季のミュージカル『オペラ座の怪人』。熱狂的なファンも多い同作は、21年ぶりとなる福岡公演も話題を集め、今年7月にオープンする劇団四季の専用劇場・MTG名古屋四季劇場[熱田]のこけら落とし公演の作品にも決まった。『女性セブンプラス』では、メインキャストのオペラ座の怪人役のひとり 飯田達郎さんと、彼に魅入られた歌姫・クリスティーヌ・ダーエ役のひとり 山本紗衣さんに独占でインタビュー。かつて明かされることのなかった秘話まで、とことん詳しくお伝えします。【前・後編の後編。前編を読む】
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『オペラ座の怪人』あらすじ
19世紀末のパリ・オペラ座では、“オペラ座の怪人”の仕業と噂される不可解な事件が続いていた。そんな中、コーラスガールのクリスティーヌ・ダーエがプリマ・ドンナの代役に選ばれ、亡き父が贈った“音楽の天使”に教わったという美しい歌声で舞台を成功させる。公演後、成長した幼なじみのクリスティーヌに会うためラウル・シャニュイ子爵が楽屋を訪れるが、彼女は突然姿を消してしまう。実は、“音楽の天使”を名乗り、彼女を連れ去った人物こそ、人々が恐れる“オペラ座の怪人”だった。

1幕から2幕に変化するクリスティーヌは12年かけて成長した自分そのもの

──山本紗衣さんはクリスティーヌ役を演じて12年ほど。難しさや演じがいを感じる部分はどんな部分でしょう?
山本:彼女は、舞台の最初のうちは誰かに守ってもらわなきゃいけない、亡くなったパパの思い出にすがって生きている少女だったのが、次第に父と決別し、自らの足で人生を歩んでいこうとする女性へと成長していくんです。そして終盤には、どんな脅しにも屈しない、揺るがない、怪人に母親のようなまなざしを向ける女性になる。とても振り幅が大きい役だと感じています。
私に限らず、クリスティーヌを演じ始めた最初の頃は、1幕の方が演じる自分自身に重ね合わせられるため演じやすいし、2幕で苦労することが多いんです。ですが、12年やらせてもらっている中で、次第に2幕の方がしっくりきて、実感としてクリスティーヌのことをわかるようになりました。いまでは、むしろ1幕の純粋無垢な少女の部分の感情を持ち続けることが、課題になってきました。
例えば、私自身は責任感が強い方なので、何事にもわりと頑張っちゃうんですよ。でも頑張れば頑張るほど、少女っぽさが薄まってしまうので、あまり頑張らないようにしています。
クリスティーヌを演じる私は、ただ「音楽の天使」を信じて、パパを信じて、音楽を愛することに集中する。幸い、人を信じるのはクリスティーヌに似て得意な方なので(笑い)、その面をフォーカスして乗り切っています。
こうして苦戦するシーンが変わっていくのも、役との歴史が長いからこそなんだと思います。
──見ている側も、自分自身のライフステージの変化で感動するポイントが変わるので、何度見ても共感できます
山本:ですよね! やればやるほど、この作品の偉大さを感じますし、本当に大事な作品です。特別すぎて自宅にも『オペラ座の怪人』の絵を飾っているぐらい(笑い)。
ただ、それだけ大事だからこそ、ちゃんとやらなきゃと、作品への畏敬の念もあります。
私自身も演じ続けるうちに、どうしても遊びが出てきそうになる瞬間があるので、慣れないように、怖さを持ちながら真剣に向き合っていきたいです。
完璧主義者の性格はオペラ座の怪人と似ている!?
──飯田達郎さんはオペラ座の怪人とご自身で似ている部分はありますか?
飯田:完璧主義なところは似ているかもしれない。自分の中の小さい決まり事があって、“実は神経質だけど、神経質じゃないように普段振る舞う”っていうのをしています(笑い)。
神経質な部分で言うと、自宅に飾る絵もまっすぐじゃないと、なんだか気持ち悪い。つい先日も、直してもすぐにほんの少しだけ傾いてしまう絵があって、見えにくい細~いピンを使って、まっすぐに固定したところです。血液型はA型です(笑い)。
まあそれはともかく、怪人も完璧な譜面を作りますよね。そしてクリスティーヌが自分の思い通りにならないと、彼の中の何かが壊れ始める。ぼく自身は孤独な人間ではないですが、こだわり始めたら止まらない感じは、自分と近いのかなと思います。

──飯田さんは多趣味だとお聞きしましたが、それぞれハマるとどっぷりという感じなんですか?
飯田:そうなんです。「面白そう!」と思ったら、どんどん極めたくなるんですよ。でもそうやって小さいときからいろいろなことやってきて、いちばん自分がこだわっているものだけが、いま身の回りに残っている感覚です。ある程度、人より強くなったり、上手くなったりすると飽きちゃうタイプなんですが、芝居や音楽にはゴールがない。だからこそ、ずっと面白いし、ずっと続けられているんだと思います。

子どもの頃から「絶対、歌手になる」と信じて疑わなかった
──山本さんは幼少期から歌を習われていましたよね。どういう経緯で歌のレッスンを受けるようになったんですか?
山本:父が音楽関係の仕事をしていて趣味でも楽器を弾いていたのと、母も音楽好きだったこともあって、小さい頃の私を見た両親が、「どうやら、この子は歌が好きそうだから、合唱団に入れてみようか」となったらしいんです。
そうして3才から独唱を、6才で合唱を習って、歌ばかりやっていました。それから歌を仕事にしたいと思って、音大を受験していまに至る。
ラッキーだったんだと思います。親からは一度も反対されませんでしたから。それに、私自身も歌を信じて疑わなかったですね。
──人によっては“歌では生きていけないよ”みたいに言われたりしますよね
山本:はい。高校のとき、学校の先生から「音楽で食べられる人なんて、ひと握りなんだよ」と言われたこともがありましたが、「へえ、そうなんだ〜」って、まるで他人事のように受けとめていました(笑い)。“私はそっち側の人間じゃないから、突き進む”という感じで、歌の道に進むという自分の進路について、まったく疑わなかったです。
飯田:わ! ぼくとそっくり。ぼくも小学校2〜3年で、将来は絶対、音楽関係の仕事をするって思ってたんですよ。地元の福井には音楽の高校がなかったし、親からは学費の面で、「大学進学は諦めてくれ」って言われていたけど、大学に行かなくても、いずれは絶対に音楽の仕事をするから、問題ないと、強く信じ切ってました。


飯田:アカペラで歌ったり、オーディションに出たりして、それなりに賞をもらったりしていた時期で、こういうふうにこれからも趣味で歌い続けていくのかなっていうときに、兄から劇団四季の入団オーディションがあるって話を教えてもらったんですけど。
父が「地元じゃ、歌の大会に出ているかもしれんけど、劇団四季なんか受けても、絶対無理だ!」みたいな感じだったので、発奮して頑張りました(笑い)。
それから稽古して、初舞台に立たせてもらえて、役として歌う、役を生きるっていうことの責任も含めて、最高に面白かったんですよね。ポップスをやっているだけでは得られなかったことだなと思います。

──音楽の神様に愛されたおふたりならではのエピソードですね。では『オペラ座の怪人』の稽古中や本番中の裏話があったら教えてください
飯田:ぼくが怪人役でデビューする前の稽古のことなんですが、手探り状態で稽古を進めていた中、初めて山本さんと組んで稽古をした時に一気に芝居が色づいたんですよ。
山本クリスティーヌとは、これまでラウル役でもたくさん共演してきたけれど、怪人として、とても助けてもらいました。さらに言うと、山本さんのことを、みんな“歌の人”って思っていると思いますが、ぼくは“芝居の人”だと思っているんです。
もちろん、歌も抜群にうまいんですが、とにかく、せりふの行間の埋め方が、めちゃくちゃうまい!
歌わない、あるいはセリフを言わない間も、ずっと思いが途切れていないから、ぼくは舞台上でそれを受け取って渡すだけでいい。同じ年なんですが、尊敬しているし、感謝もしていますね。
山本:ふふふ。ありがとうございます(笑)怪人さんって、この作品の登場人物の中でも特に私たちの人生からはかけ離れた人生を生きていますからね。これまでの怪人を演じるかたがみなさんそうだったように、飯田さんの闘っている姿をそばで見ながら、私もビシビシ、思いを受け取ってましたよ。
意外とポーカーフェイスで、「ぼく、平気だよ」みたいに振る舞いつつも、実はすごく挑戦されているな、と感じていました。
飯田:いやもう、内心、「どうしよう!? どうしよう!?」みたいになっています(笑い)。この仕事ではよく言われることなんですが、役に役者が育ててもらっていますよね。怪人を演じて、またひとつ、高い壁に挑戦する権利を得たのかな、という気がしています。

──最後に、オフの過ごし方を教えてください
山本:公演中は体調管理のために岩盤浴に行くことが多いですね。やっぱり冬は冷えてしまうので、体を温めて免疫力を上げたいなと思って。
あと、本番は体も心も緊張しているので、とにかくすべてを解きほぐすよう、意識しています。誰かとおいしいご飯を食べたり、自分をいたわる時間を作ることが多いですね。
出演がしばらくないときは、家族と過ごしたりもしますが、自分の発声や歌を見直したり、芝居の本を読んだり。映画やドラマを見て観客の気持ちを体感することもありますよ。
──なんと、生活のすべてが音楽とお芝居につながっているんですね!
山本:こうして歌えること、自分でも天職なんだなって思います。ありがたい仕事に出合えて、感謝ですね。

飯田:ぼくは結構オン・オフがはっきりしている人間なんです。本番が終わったら、「はい終わり!」みたいに、自由に自分の好きなことをしていますね。
たとえば、ぼくは歴史が結構好きなので、先日は福岡市博物館に1人で出かけて国宝の金印を見てきました。生で見ると想像以上にちっちゃくて、驚いたり(笑い)。何事も、やっぱり生で見ないとダメだなと思います。あとは本を読んだり、仲間と食事に行ったり、心と体を癒したり。本番を軸に行動することが多いですね。
休みが続くときは、心が潤うことをしています。ぼく、アメリカの雑貨がすごく好きなんですが、この間は、ヴィンテージショップでセサミストリートの小さ~い車を7000円で買ってしまいました(笑い)。
あとはギターを弾いてちょっと曲作ってみたり、自分の頭に浮かんだ旋律を歌ってみたり、先輩の歌い方をモノマネしてみたりもします(笑い)。
実はモノマネって侮れなくて、耳で聞いて、相手の口の中や喉の感じをどうなっているかを盗むことって、上達につながるんですよ。実際、これまで他の人がされている声の出し方を研究してきたおかげで、今回の怪人を演じるときも、少し被せるような発声ができて役立ちました。
山本:そんな進化し続ける怪人が見られるかもしれない『オペラ座の怪人』福岡公演、ぜひ観にいらしてください!

飯田:上手にまとめたね(笑い)。みなさん、お待ちしています!

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同じ年ということもあってか、インタビュー中、終始和気あいあいだったふたり。歌を信じて疑わない生き方は、オペラ座の怪人とクリスティーヌの生き写しのように思えた。
劇団四季のミュージカル『オペラ座の怪人』は、現在、キャナルシティ博多のキャナルシティ劇場で上演中(4月5日まで)。
また、同作は7月にオープンするMTG名古屋四季劇場[熱田]のこけら落とし公演にも決定。2026年3月15日(日)から会員先行予約を開始、同月22日(日)から一般発売される。

撮影/五十嵐美弥 取材・文/辻本幸路