
かつて、中高年女性の不定愁訴は「気のせい」「老化」「誰もが通る道」などとされ、どんなにつらくてもがまんせざるをえないケースが多かった。しかし、いまは違う。更年期のメカニズムが解明され、薬などで症状をコントロールできる時代になった。更年期の症状を軽くするだけでなく、骨粗しょう症や生活習慣病を防ぎ、健康寿命を延ばす最新の治療法を紹介する。
30代後半からの不調はまず婦人科へ相談を
婦人科医・松村圭子さんのクリニックは開業して16年。当時に比べると更年期の相談に来る40代以上の患者は増えたが、詳しい治療法についてはまだ浸透していない印象があるという。
「肩こりや腰痛、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、多汗)、関節痛など、更年期の不調は多岐にわたるので、1つでも症状があれば、内科や整形外科、精神科に行く前に、婦人科で更年期の相談をしましょう。婦人科で行う更年期治療には、主にホルモン補充療法(HRT)や漢方、プラセンタ注射があります」(松村さん・以下同)
更年期は一般的に45~55才とされるが、卵巣機能は30代後半から低下し始めるので、その頃から体に異変を感じる人も。そのため実際は、40~60才までを更年期と考え、長く相談できる婦人科のかかりつけ医を持っておこう。

プラセンタ注射が始めやすい
更年期治療は、ホルモン補充療法が基本となるが、「不自然なことはしたくない」と、抵抗感を持つ人は多いと松村さんは言う。
「そこで、私のクリニックでは、治療の導入として『プラセンタ注射』をすすめています。この注射はこれまで、主に美容や疲労回復の目的で使用されてきましたが、もともと更年期の症状に効果が認められています。美容への効果を実感すると治療のモチベーションも上がりますから、気軽に始められると思います」
とはいえ閉経期、症状が悪化したら、ホルモン補充療法がいちばん効果的だ。
「ホルモン補充療法の薬の安全性は上がっています。合成ではなく天然ホルモンを使ったものが開発されましたし、皮膚からエストロゲンを吸収させることで、錠剤に比べて肝臓への負担を減らしたパッチやジェル剤など、リスクの低い選択肢も増えました」
かつて懸念された乳がんのリスクも実は高くない。病気のリスクを減らすためにも始めない手はない。
ホルモン補充療法(HRT)
胃がんや大腸がんのリスク低下の可能性も
更年期におけるホルモン補充療法とは、閉経で減少・欠乏した女性ホルモン(エストロゲン・黄体ホルモン)を薬で補い、エストロゲン欠乏による症状の改善や病気の予防をする治療法だ。「女性の健康とメノポーズ協会」理事長の三羽良枝さんは言う。
「特にホットフラッシュなどの身体症状には効果てき面です。乳がんリスクに及ぼす影響は高くなく、エストロゲンと黄体ホルモンを併用すれば子宮体がんのリスクも抑えられることがわかっています。また、胃がんや大腸がん、食道がん(腺がん)、肺がんのリスクも低下させる可能性があるとのエビデンスが発表されています」
閉経前後から何才まででも続けられる
治療を始めるのは閉経前後が一般的。閉経後10年以上経ってからでは心血管疾患などのリスクが上がるため、治療はできない。
「閉経前後に始めれば、何才まででも続けられます。更年期の症状がおさまる5年程度でやめるケースが多いですが、私のクリニックには、70代で続けている人もいます。続けていれば骨粗しょう症や生活習慣病が予防でき、若々しく過ごせます」(松村さん)
とはいえ、あくまで薬なので副作用の可能性も。そのため、医師の指導の下、定期的に血液検査などを行う必要がある。
「治療を受けられないケースもあります。たとえば、現在の乳がんとその既往や、心筋梗塞、脳卒中、血栓症などの既往がある場合です」(三羽さん)
一度やめても、数年後に再開できるので医師に相談してみよう。
《受診の流れ》
【体調不良がある】
40代に入る頃から月経周期が乱れ始め、体調不良を感じる人も。PMS(月経前症候群)などの可能性もあるが、この段階で婦人科へ。月経が1年以上なければ閉経かも。
【受診・問診】
婦人科で血液検査(女性ホルモン値、肝機能、脂質、コレステロール値、血糖値を調べる)、乳がん検診、内診、子宮がん検診、卵巣超音波検査、骨密度検査などを行い、HRTを始めるか医師と相談をする。
【HRTを始める】
錠剤、パッチ(貼付剤)、塗り薬(ジェル剤)から、年齢や症状などに合わせて投与方法を相談。
・月経のような出血があってもいい場合
エストロゲンの連続使用と黄体ホルモンの周期的使用を行う。黄体ホルモンは1か月のうち、10~14日連続使用し、残りの期間は休薬。黄体ホルモンを摂取し終わった後、毎月生理のような出血がある。
・手術により子宮を摘出している場合
子宮や卵巣を摘出した後でも、経過が良好ならエストロゲンのみを連続使用できる。出血は起こらない。子宮がない人は黄体ホルモンを使用する必要がないため、乳がんのリスクも低いとされる。
・月経のような出血を望まない場合
エストロゲンと黄体ホルモンを連続使用する。最初は不定期に出血があるが、6か月を過ぎる頃から少なくなり、やがて出血はほとんどなくなる。
・腟炎、腟の萎縮症状のみの場合
エストリオールのみを連続使用(錠剤、腟剤)。最も弱いエストロゲン製剤で、子宮がある女性でも単独で使えるが、長期間にわたって使用する場合は原則的に黄体ホルモンを併用することになる。

漢方薬
副作用が少なく閉経前から長く使える
閉経前はもちろん、閉経後しばらくたってからも使え、長期間服用しても副作用が少ないのが漢方薬だ。
「特にイライラや不眠といった精神症状の改善に効果的です」(松村さん)
いちばんつらい症状や、体力(体格)などを検討して薬を選ぶ必要があるので、婦人科で処方してもらうのがおすすめ。効果の面はもちろんだが、保険適用もされるからだ。HRTとの併用もできる。
どうしてもすぐに必要なときは、ドラッグストアなどで手に入れられるのもメリットといえる。
プラセンタ注射
週1〜2回程度の注射で美容効果も期待できる
プラセンタとは、哺乳類の「胎盤」のこと。胎児を育てるために必要な栄養素(アミノ酸やビタミン、ミネラルなど)や成長因子などが豊富に含まれ、美容やアンチエイジングだけでなく更年期の症状にも効果がある。
「最近のプラセンタは人や馬、豚のものがほとんどで安全性が上がっています。更年期の治療に使う場合は保険が適用され、1アンプル600円弱。これを週に1~2回、皮下注射します。治療目的なら、2週間以上の期間をあけない方がいいでしょう。私のクリニックに来る患者さんは、更年期治療と美容のため、ホルモン補充療法と併用しているかたも多いです」(松村さん)
点滴の場合、すぐに排出されて効果が薄れるのでおすすめしないという。
サプリメント
治験データがある商品をしっかり見極めよう
サプリメントは薬機法に規定されている医薬品ではなく食品の部類に入り、気軽にケアを始められるというメリットがある。
「大豆イソフラボンが腸内細菌によって変換されて作られる成分『エクオール』は、エストロゲンと似た分子構造をしています。更年期症状の緩和や骨粗しょう症の予防に期待できることが知られるようになり、治験やデータのない商品が多数販売されています。摂取する場合は、材料(素材)、成分、含有量、製法、添加物の量、問い合わせ先などが明記されており、安全性・有効性の検証を長年積み重ねている製品であるかどうかを調べてからにしましょう」(三羽さん)

◆教えてくれたのは…公益社団法人 女性の健康とメノポーズ協会・理事長三羽良枝さん
認定女性ヘルスケア専門相談員、認定メノポーズカウンセラー。日本女性医学学会学術集会、日本産科婦人科学会健康集会などで講演。女性特有の健康課題とよりよい働き方に関する啓発と支援活動を行う。https://www.meno-sg.net
◆教えてくれたのは…婦人科医・松村圭子さん
成城松村クリニック院長。日本専門医機構認定専門医。月経トラブルや更年期障害の治療、漢方処方などを行う。著書に『これってホルモンのしわざだったのね』(池田書店)など多数。
※女性セブン2026年6月11日号