
すべて想像の逆を行く男、高須克弥の破天荒な人生を描く連載『YES!逆張り人生~高須克弥物語~』! 読めば悩みが全て吹き飛ぶ、そんなパワフルすぎる人生を、どうぞご堪能あれ。
第2話:命を救った母と祖母の話【後編】

高須家は代々、女系一家だった。イマは四姉妹であったため、医者の婿をもらって家業を継いだが、男児には恵まれなかった。そして娘の登代子もまた、隣町の貧乏開業医の五男で内科医の男を婿養子に迎えた。一家全員医者でありながら、なぜかここ数世代にわたって男子が生まれていない。イマが叫んだ「特別な子」というのは、この産声をあげずに死にかけている赤子が、100年ぶりの男の子だったからだ。
イマが赤子に耳を当てる。
「いかん、キューキュー言っとる!」
「低体温症!」
登代子はすぐに反応した。産婦人科医である登代子は戦時下に低体温症で亡くなる赤子が少なくないことを知っている。まして着の身着のままで逃げ込んだ真冬の防空壕には体を温めるものは何もない。それでも登代子はすがるような想いで辺りを見回した。一緒に避難していた親戚たちが申し訳なさそうに目を背ける。
「ああ」
ロウソクの炎が滲んだ。
──せめて抱いてあげたい。
半身を起こし母に手を伸ばすと、赤子を渡してくれた。まだ息はあるが、キューキューという音も次第に弱くなっていく。
「ごめんね。ごめんね」
登代子は同じ言葉を繰り返した。代々医業を生業としてきた家に生まれ、戦地に行っている自身の夫も医者で、自分も医者である登代子の「もう手の施しようがない」という診断に狂いはない。登代子は何度も自分の判断が間違いであって欲しいと願ったが、誤った診断をするには残酷にも優秀すぎた。親戚たちのすすり泣く音がこだまする。すると母が乱暴に立ち上がり、登代子の胸をはだけた。
「赤ん坊を胸に抱いて温めりん」
言うや否や自分の上着を脱ぐと、それで赤子と登代子を包んだ。
──お母さん、いかんて。こんなことじゃ体温は戻らん…。
登代子はそれでも赤子を抱きしめた。その頭上で母が大声を出す。
「皆も上着を貸しとくれん!」
皆から集めた上着を赤子と登代子に重ねていき、「ちいとでも温まるよう、皆で登代子の周りに集まって抱いてやっとくれんかん」と指示した。
──もういい…お母さん…もういいよ。
諦めない母の気丈な振る舞いが逆に登代子を絶望に追いやった。親戚たちも登代子と同じ想いだったのであろう。動く者は誰もいない。それを見かねた母が怒鳴る。
「はよ動かんか!」
防空壕に大声が響く。その剣幕に押され、赤子を抱く登代子の周りを人の輪が包んだ。その輪の中心で生まれたばかりの赤子がゆっくりと息を引き取ろうとしている。登代子は我が子が生きている時を1秒でも長く脳裏に刻もうと見つめ続けた。呼吸音はさらに弱くなっていく。涙が溢れる。その涙が赤子の頭に落ち、額を伝わり目に入った。すると赤子は顔をしかめた。それが怒っている様にも笑っている様にも見えた。
──この子は生きとる。生きようとしとる。
登代子は急に腹が立った。自分を許せないと思った。
──患者が諦めとらんのに医者が諦めるなんて、あっちゃならんことじゃんか。このままじゃこの子を殺すのは私だで。
怒りで身体が熱くなった。顔を上げると人影が揺れた。
「イマさん、どうするんかのん?」
その影に気が付いた親戚の一人が声をかける。歩き出していたのは母だった。
「まだ足りん! わしゃ、家に戻って毛布をとってくるで」

その瞬間ドーンという一際大きな爆撃音が響き、防空壕が揺れた。
「無茶だわ。いかんて」
「あんたまで死んだら高須の家はどうなるだあ」
口々に止める親戚たちを抑えるような大声で、登代子が叫んだ。
「お母さん行って! ほいで必ず持って帰ってきて」
防空壕の出口まで達していた母が振り返った。
「あたり前だわ! ここで医者を途切らしたら、家康さんに申し訳がたたんて!」
言うや否や光の中に飛び出した。
* * *
こうした祖母、イマの行動により、この男児は一命を取り留めた。逆境に勝ったこの子供は、イマの一存で「かつや」と名付けられた。高須克弥0歳。高須クリニック開業の31年前の話である。(第3話につづく)
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【プロフィール】
家守鷹主(いえす・たかす)/テレビ局プロデューサーとして高須克弥氏と出会い、十数年来の友人。今回、その人生を小説として描きたいと依頼したところ、高須氏は一言“YES”と快諾し、ペンネームも命名。かくして、希代の人生物語が幕を開けた。
高須克弥(たかす・かつや)/1945年、愛知県生まれ。医師(美容外科、整形外科、形成外科。学位は医学博士)。2018年に自身の全身がんを公表(発病は2014年)。
※女性セブン2026年6月11日号