健康・医療

《血管炎治療薬「タブネオス」投与で20人が死亡》睡眠薬、降圧剤、糖尿病治療薬、総合感冒薬…注意が必要な処方薬・市販薬&のみ合わせを専門家が解説

薬は体にとって“毒”になることがある(写真/PIXTA)
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 わらをもつかむ思いでその「新薬」に望みをかけたのだろう。しかし、重篤な副作用によって20人が亡くなった。しかも、その副作用は“想定されていなかった”という。薬は体にとって“毒”にもなるということ、をいま、あらためて考えたい。

《胆管消失症候群を含む重篤な肝機能障害にご注意ください》──5月21日、そんな注意文が書かれた青い紙が医療機関に届けられた。

 血管炎の治療薬「タブネオス」を投与された患者20人が、重篤な肝機能障害を発症して亡くなった。そのため、日本国内でタブネオスを販売するキッセイ薬品が「ブルーレター」を発出したのだ。

 ブルーレターとは「安全性速報」のことで、厚労省の指示を受けた製薬会社が医療関係者向けに速やかに情報提供を行う仕組みだ。添付文書改訂よりも迅速かつ強い注意喚起が必要であると判断された際に発出される。

“希望の光”のはずが市販後に見つかった副作用

 死者20人を出したタブネオスとはどういう薬なのか。薬剤師の長澤育弘さんが解説する。

「全身の血管に炎症が起きて、腎臓や肺などの臓器が破壊される自己免疫疾患『ANCA(アンカ)関連血管炎』の治療薬です。免疫機能を構成する重要なたんぱく質である『補体』の活性化をブロックし、免疫の暴走を抑えます。

 アメリカの企業が開発し、2022年6月から日本での販売が始まりました」

 この薬が登場したときのことを、米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが振り返る。

「非常に画期的な薬として期待されました。従来、この難病の治療には大量のステロイド投与や強力な免疫抑制薬が使われていましたが、ステロイドには糖尿病や感染症、骨粗しょう症、精神症状など多くの副作用が懸念されます。

 そのステロイド使用を減らせるとあって、日本国内での使用患者は約8500人いたとされます」

 ステロイド治療の副作用に悩まされていた難病患者にとって、まさに“希望の光”として注目されたのだ。

 だが、重篤な副作用が現れた。冒頭のブルーレターには注意喚起とともに死亡例を含む実際の患者が陥った症例が掲載されている。また、肝臓の検査をして基準値上限の3倍以上の数値になったら投与をやめて様子を見るようにするといった注意事項の記載もある。

注意が必要な処方箋・市販薬
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 新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんが指摘する。

「世界中でタブネオスの研究論文が発表されており、なぜか日本からの報告に限って肝臓を悪くする人が多かった。調べてみると、肝臓で薬の成分を分解する酵素チトクロームというもののうち、日本人にはCYP3A4という成分の働きが遺伝的に弱いことがわかりました。そのため副作用が強く出て、死に至るようなことが起きた可能性が考えられます」

 この重い副作用は「治験段階では見つかっていなかった」と大西さんが話す。

「副作用として肝障害リスクがあることは以前から知られていました。しかし、今回ブルーレターに記載された胆管消失症候群という極めて重篤なタイプの肝障害については、市販後になって死亡例などの報告が集まり、大きな問題として浮上したのです」

 4月27日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は有効性を示すデータに虚偽の記載があったとし、アメリカ国内での承認撤回を提案している。

「医薬品を評価する際に唯一にしてもっとも信頼できる『ランダム化比較試験』という方法で調査されたのですが、これにかかわった職員がランダム化する前のデータに何らかの不正な操作をしたとみられています」(岡田さん)

 捏造データによって承認された薬をのまされる患者はたまったものではない。

「薬の有効性が製薬会社によって“盛られて”いた可能性があります。つまり、患者はそこまで効かない薬のリスクだけを取らされていたということです。薬の承認審査は製薬会社が提出するデータに依存していますから、もしデータに不正があったら審査のフィルターをすり抜けてしまう。これはタブネオスに限らず、医薬品承認審査の構造的な脆弱性です」(長澤さん・以下同)

 使用中止の要請まで出されていないが、不安はある。患者はどうすればいいのか。

「ANCA関連血管炎の治療選択肢は少なく、患者にとっては不完全でも唯一の選択肢である可能性がある。ただし薬剤師の立場から言えば、有効性データの信頼性が揺らいだ薬を選ぶ合理性はないというべきでしょう。薬には必ずリスクがあり、“使う根拠”が確認できて初めて使用する価値があるのです」 

 FDAが承認撤回を提案している点について、岡田さんはこう述べる。

「正直なところ“またか”という気持ちです。タブネオスと同じ分子標的薬と呼ばれるタイプの薬は、表面の分子構造をコンピューターで解析して薬を合成します。そうした薬は世界中の製薬企業の稼ぎ頭となっており、各社ともに血道を上げて開発しています。

 しかし、それらの薬は審査の過程で落とされて、商品化されるのは3%に満たないほど承認が厳しい。承認されたとしても本当に安全性は確かなのか不安視される分野です」

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