ライフ

《「大人の発達障害」最新事情》認知が広がったことで受診数が増加 症状は“軽度”から“重度”まで連続して変化、定量的な診断はできず“グレーゾーン”となるケースも

大人の発達障害、受診数が増加している(写真/PIXTA)
写真3枚

 落ち着きがない、忘れ物が多い、マルチタスクがこなせない、周囲となじめない──そんな生きづらさや対人トラブルの背景には、発達障害という特性が隠れているのかもしれない。かつては子供の疾患として捉えられてきたが、近年ようやく認められてきた「大人の発達障害」。急速に進む研究で明らかになってきたその“正体”とは。最新事情を追った。【全3回の第1回】

 厚労省が2024年5月に公表した「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」によれば、18才以上で発達障害と診断された人は51万人にものぼり、2016年の約2倍に達した。

 そもそも「発達障害(Developmental Disabilities)」という言葉は、1963年にアメリカの法案で誕生した。日本では2005年に発達障害がある人への支援を推進するための「発達障害者支援法」が施行されたことで、広く一般に知られるようになった。その後も認知度は高まり、発達障害の受診数や診断数はいまや増加の一途をたどる。

子供の頃からそそっかしく集中力がない

 これまでは子供の疾患で、成長とともに症状は軽減していくと考えられていた発達障害だが、近年は成人してから診断される「大人の発達障害」が増えている。

 都内在住のAさん(47才・女性)は、昨年、発達障害と診断された。

「子供の頃からそそっかしくて、集中力がないタイプ。中高生の頃は、“空気が読めない”と言われて友人関係がうまくいかなかったこともありました。自分の性格には少し難があるんだなという自覚はありましたが、本気で悩むようになったのは就職して以降です。

 報・連・相がうまくできない、上司の指示が理解できない、重要な書類をなくしたり、会議を忘れたりする。最初こそ怒られていましたが、だんだんと腫れ物に触るような態度をとられるようになり、職場に行くのが怖くなってしまって。

 休職ののち退職して以降、フリーターとして職を転々としてきました。結婚して子供が生まれてからは家事と育児がうまくこなせず、うつ病のようになってしまった。夫から、一度病院で診てもらったらと言われて受診したところ、発達障害だとわかりました」

 昭和医科大学烏山病院発達障害医療研究所所長の太田晴久さんが指摘する。

「私たちが成人期の発達障害の外来を開始した2008年当時、発達障害に対する医療的支援の多くは、幼児期から学童期を対象としていました。これは日本だけが特別に遅れていたのではなく、アメリカなど各国でも同様でした。

 この20年ほどでようやく、成人期の発達障害の診療が本格化して、いわゆる大人の発達障害の存在が広く認知されるようになりました。この間、発達障害と診断される成人は増え続け、最近ではシニアの受診も増えています」

主な発達障害の症状
写真3枚

 大人の受診が増えた背景はさまざまだ。岡田クリニック院長で精神科医の岡田尊司さんが語る。

「ひとつの要因は発達障害が世に広まり、それまで“性格”や“努力不足”とみなされていた生活上のトラブルや困難が、『もしかして発達障害の特性が原因だったのかも』と受診する人が増えたこと。

 加えて、社会の競争が激化するなかで、高い生産性や費用対効果が求められる時代になったことも大きな要因だと思います。その結果、これまで個性として受け止められていた特性が、社会生活上の困難として表れるようになったのでしょう。有病率も増えていると考えられますが、それ以上に受診が増え、これまで見過ごされていた軽度の状態まで障害として診断されるようになったことが大きいでしょう」

 発達障害は大きく分けて、特定の物事へのこだわりの強さと対人コミュニケーションの障害が特徴の「ASD(自閉スペクトラム症)」、不注意や多動が主な特徴の「ADHD(注意欠如・多動症)」、特定分野の学習能力が顕著に低いことが特徴の「LD(学習障害)」に分類される。

 これらは独立しているのではなく、重なり合って併発することも多い。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが語る。

「2021年に中国やイギリスの研究グループが発表した報告では、ADHDの症状がみられる成人は6.76%。ASDについては世界全体でおおむね1%前後の有病率、LDは約1割の子供にみられるといわれています。 

 併発しているケースも多く、ASDとADHDあるいはADHDとLDは、それぞれ4割ほどが併発するというデータもあります」

 診断を受けて動揺する人も少なくないが、大人の発達障害の場合「ホッとした」という声も多く聞こえる。前出のAさんが言う。

「子供の頃から自分はおっちょこちょいで出来が悪いと思っていました。周囲となじめずにコミュニケーションをとるのが怖くなって専門書を読みあさったこともあります。このまま一生こんな気持ちで生きていかなければいけないのかと絶望していましたが、診断を受けてこれは病気なんだとわかったら肩の力がふっと抜けたんです。

 耳が遠い、目が見えにくいということと同じで、私には生まれつき特性があったんだと初めて自分ときちんと向き合うことができました」