
身近な悩み事や更年期による自律神経の乱れ、老後の生活不安など、年齢を重ねてもストレスや心配事はなくなることがない。必要以上にクヨクヨしてしまうあなたに、心が軽くなる10のレッスンをご紹介。まずはこの中の1つから実践してみよう。
悩みは逃れようとすると大きくなるモンスター
「クヨクヨしやすい人ほど、嫌なことから逃れようとして、かえって何度も思い返してしまう傾向が強い」と言うのは、心理の専門家を育てる講師の宮川純さんだ。
「悪いことに、悩みを消そうとすればするほど、そのことばかりに感情が支配され、どんどん悩みが深くなってしまうのです」(宮川さん・以下同)
悩み事そのものより、「ネガティブという性格」に対する負の感情もあると宮川さんは推察する。
「世の中には『ポジティブ思考こそが最善』という風潮が長いことあり、啓発本もたくさん出ていましたから、『ネガティブ思考だから自分はダメなんだ』と、世間の風潮とのギャップに悩んでしまう人も多いと思います」

メンタルコーチの一条佳代さんは、「落ち込みやすい人と、そうでない人にはある違いがある」と言う。
「悩んでいないように見える人は、基本的に感情の波が小さいと感じます。それは、問題が起きたら落ち込む前に考えを切り替え、次の行動に移すからです。一方で、落ち込みやすい人は感情の切り替えがなかなかうまくできず、浮き沈み(特に沈み)が大きくなります。実は、落ち込んでいるときほどネガティブなことが目につき、ますます落ち込むという悪循環に陥りがちなのです」
だが、「ポジティブであるべし」という考えは、昨今変化しているという。
「近年の臨床心理学では、『ネガティブな自分を否定せず、そのうえで、ネガティブもポジティブも両面持つようにしよう』という考え方が主流です。悩みを解決する前に、ネガティブな自分を受け入れる姿勢が重要です」(宮川さん)
以下に示した「クヨクヨしない10の練習」について、まずは臨床心理学の観点から宮川さんが【1】〜【3】を解説する。
【1】悩みを「コントロールできないこと」「できること」に分ける
「まずやっていただきたいのが悩みの選別。悩みのすべてを自分で何とかしようと思うかたが多いのですが、物事には『コントロールできないことと、できること』があります。あなたの悩みがどちらなのか見分けることが先決です」(宮川さん・以下同)
コントロールできないことの主な例は、天気・過去・他人だと宮川さんは言う。
「天気も過去の出来事も、私たちにはどうすることもできません。しかし、過去の失敗などコントロールできない悩みほど『消したい、解決したい』ともがいてしまいます」
「話せばわかる」「わかってもらえない」と平行線をたどる人間関係の悩みもまた、「コントロールできない物事」という原理を知らないがゆえに生まれる。
「他人を変えるのは難しい。それは、わが子も同様です。子供の未来を『こうあってほしい』と願うことはできても、完全にコントロールするのは不可能です。それを知らずに親御さんが悩むケースもあるようです」
手に負えない悩みは“棚上げする”に限る
コントロールできない悩みは、あえてほかのことを考えて「いったん保留」するのがおすすめだ。
「たとえば、おいしかったご飯や週末の予定、帰宅後の家事の段取りや家族のことなど、多方向に視点を向けてみましょう。すると、頭の中を100%占めていた悩み事の割合が薄められていきます」
それに対し、コントロールができるのは「自分の心や未来」。つまり、悩みを軽くするのは自分次第ということだ。
「悩みで悶々としそうになったら、いったん保留にしたり、予定を入れて忙しくするなど自分の心や行動を変えましょう。コントロールできない悩みは『考え方』を、コントロールできる悩みは『行動』を変えるのです」
そして、乱れた心を整えるセルフケアをひとつ持っておくことも有用だ。
【2】「食べる瞑想」などのセルフケアを行う
「不安定な体や心を整える『マインドフルネス』にはたくさんの種類があります。呼吸に意識を向ける瞑想法は代表例ですが、『食べる瞑想』というユニークな方法も。中でも、レーズン1粒をじっくりと観察し、触れ、香りを感じ、口に入れて噛みしめ、飲み込むまでを“全集中”で行う『レーズン・エクササイズ』は、意識をレーズンだけに向けることで気持ちの高ぶりを抑える効果がある。食事のときに心の中で『ひとり食レポ』をしてみるのもいいですね」

そのほか、体の重さや熱を感じる「自律訓練法」などの方法も効果的だという。
YouTubeで「マインドフルネス」「自律訓練法」などと検索すると、レッスン動画がたくさんヒットする。まずは動画を見ながら試してみるのも手だ。
「できれば臨床心理士や公認心理師、心療内科医など、心理の専門家が提案する動画がいいと思います」
【3】親しい人に「私の長所」を5つ挙げてもらう
「親しい人に『私の長所』を挙げてもらう」という練習は、自己肯定感が低い傾向のある人におすすめだ。
「パートナーや家族、友人など気の置けない人とゲーム感覚で、お互いに言い合ってみましょう。『字がきれい』『気配りができる』『○○が得意』など、細かいことでいいんです。それを聞くと『私にもこんないいところがあるんだ』と気づいて心が軽くなります」
また、スマホの待ち受け画面を自分が元気になれたり、肯定的になれたりする画像にして、いつでも見られるようにするのも有効だ。
「昨今、『ChatGPT』のような生成AIに、人に言えない悩みや愚痴を聞いてもらう人が増えているそうです。AIは人間のように否定せず、寄り添ってくれ、いざとなったらいろいろな提案をしてくれる『ドラえもん』みたいな存在なのかもしれませんね。依存しない程度に利用するのも手だと思います」
悩みの9割は思い込み
次からの練習4〜については、メンタルコーチの一条さんが、コーチングを行うメソッドに基づいて解説する。
「悩みを放っておくとどんどん膨張し、不安をあおります。『うまくいかないな』と感じたら、まず現状を把握すること。『事実と、心で感じる不安』を分けるのです。私は、悩みの9割は思い込みだと思っています。
たとえば、『老後の生活が心配』と思い始めて眠れなくなったとしましょう。とはいえ、“現実”ではちゃんと生活していて、悩みの大部分は“起こっていないことへの不安”で占められている。悩みって概ねこういう構図です。現状を把握すると、原因や課題が見つかり、悩みが解消されることが多いんです」(一条さん・以下同)
「ここは絶対に譲れない」と自分の強みだと思っている部分が、実は課題だったということも。
【4】悩みの内容と感情を書き出す
「現状把握に最適なのは、『何に悩んでいて、どんな感情になったのかを書き出す』こと。文字にすると、頭の中のモヤモヤが客観視でき、心が落ち着きます。その際、自分の行動や感情をジャッジせず、淡々と思いを綴るだけにしましょう。悩みだけでなく、うれしかったこと、楽しかったことなどプラスの感情も書き出してみましょう」
【5】信頼できる人に悩みを打ち明ける
「信頼できる人に悩みを打ち明ける」には、書き出すのと同様、口に出すことで悩みを軽減する効果があるという。
「信頼できる人に『私はいま○○に悩んでいる』と言えた時点で、すでに心の重荷を半分下ろせています。
ただ、アドバイス癖のある人に話すのは逆効果。あなたの言葉にただ共感してくれる人が望ましいです」
【6】体を動かす
そして、考えすぎて閉じこもってしまいそうなときは、料理や掃除、散歩など、体を動かして思考から離れよう。
「ひたすら集中できる手芸や読書などもおすすめ」
【7】SNSから一定期間離れる
「情報が多すぎると悩みが増幅します。心が乱れているときはSNSから距離を置き、テレビも消して、心の静けさを取り戻しましょう」

【8】他人と比較する「クセ」に気づく
「他人と比較するクセに気づく」ことも、心を乱されない練習になる。
「ほとんどの悩みは人間関係だともいわれます。他人と比べて落ち込んだり怒ったりするとき、妄想が増幅している可能性を考えましょう。比較すべきは『過去の自分』。悩みがちな人は自分に厳しいので、自分の進化に気づかないことが多いのですが、『あの頃の私は○○ができなかったけれど、いまの私はできるようになっている』と進化に気づき、認めてあげること」
【9】悩みを「成長の証」と考える
どんな人にも悩みはある。それを無理に消そうとするから“負のループ”にハマってしまう。
「悩みは、裏を返せば『現状を改善したいから生まれるもの』ともいえますよね? そう考えると、悩みは成長のチャンスかもしれません。
悩み事に蓋をするのではなく、『どうしたらよくなれるだろう』と考えるようにすると、挑戦する勇気が育ちます」
【10】感謝のタネを探す
最後は「感謝のタネを探す」ことだ。
「つまり、『ありがとう』と言うクセをつけるのです。悩みが多い人はネガティブな言動が増えるので、とにかく『ありがとうと言うぞ』と決めるのです。そう考えた瞬間に、脳が『ありがとう』を言う理由を探しに行くため、思考のアンテナが感謝の方向に転換します」

「ありがとう」と言うとき、言う側も、言われる側にも幸せな感情が生まれるため、出し惜しみするのはもったいないという。
「そして、悩んでいるときこそ、人の悪口を言わないようにして。また、噂話をうのみにせず、他人の評価をしないようにしましょう」
まずは「悩んでいる自分は変化の途上だ」と受け入れてみると、心が軽くなるかもしれない。
◆河合塾KALS講師・宮川純さん
心理系大学院受験対策講座・公認心理師資格試験対策講座を担当。日本心理学会所属。近著(共著)に『こころの道具箱 臨床心理学エッセンス203』(KADOKAWA)がある。
◆教えてくれたのは:メンタルコーチ・一条佳代さん
株式会社「Vision Navigation」代表、ネクストコーチングスクール主宰。「一歩を踏み出す勇気が出る」コーチングセッションで人気。近著に『行動力神メソッド55』(三笠書房)。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2025年9月4日号