
日記を書く目的は一般的に、記録のためや気持ちの整理のためなどだが、心身の健康を取り戻す効果が期待できるという。しかも日記はたった3行書くだけでも、心に大きな変化をもたらすとされる。そこで、今日よかったことを3つ書くだけで幸せになる「3行ポジティブ日記」について解説する。
今日よかったことを3つ書くだけで幸せに
日記は心身にいい効果をもたらすが、長文を書くのが苦手だったり、面倒だったりする人はどうすべきか。
「日記はたった3行書くだけでも、心に大きな変化をもたらします」とは、精神科医の樺沢紫苑さんだ。

「私がおすすめする方法は、今日起きた出来事と感想を3つ書き出すだけでいい。ただし、書く内容はポジティブな気持ちになったこと限定。私はこれを『3行ポジティブ日記』と呼んでいます。アメリカの心理学者マーティン・セリグマン博士の“幸福度を高めるトレーニング法”をもとに、アレンジしました」(樺沢さん・以下同)
日記を書くタイミングは就寝15分前。寝る前に考えたことは記憶に残りやすいので、うれしかったことや楽しかったことを思い出して書くと、不安なことやつらいことが記憶から追い出され、質の高い睡眠がとれて寝覚めもいい。
「ポジティブな日記を書き続ければ、笑顔でいる時間が増え、“幸福物質”とも呼ばれるセロトニンやオキシトシンといった脳内物質が分泌される可能性が高いと予想されます」
悪口を書くと寿命が5年縮まる!?
「悪口を書くことが楽しいという人もいますが、3行ポジティブ日記は幸せを見つける力を鍛えるものなので、悪口は厳禁です」
人の欠点を探す行為を続けていると、ネガティブな観察眼が鍛えられる。あら探しの目は自分自身にも向けられ、自己肯定感を下げることにもなりかねない。
「悪口やゴシップ好きの人の寿命は、そうでない人より5年短いという研究報告もあるので、悪口は書かないことがポイントです」
「3行ポジティブ日記」の書き方
まずは基本の「3行ポジティブ日記」を毎日書く習慣をつけ、慣れたら、1日3回人に感謝する「3行感謝日記」を。さらに慣れたら、1日3回人に親切にする「3行親切日記」にチャレンジを。ネガティブな感情を拭えないときは、「4行自己受容日記」を。

具体的にどう書けばいいのか――Q&A
具体的にどう書けばいいのか、Q&Aで紹介する。
Q.手書きではなく、パソコンやスマホで書いてもいいですか?
A.ブルーライトがNG!ノートに手書きが◎
「脳によい刺激を与える手書きを推奨します。この日記は就寝前に書くのがおすすめなのですが、パソコンやスマホを使って入力すると、ブルーライトが安眠を妨げてしまいます」
Q.反省点を書いてもいいですか?
A.OKですがポジティブな言葉で締めくくること
「ネガティブな感情とつながりやすいので、基本的に反省は必要ありません。どうしても書いておきたい場合は、『4行自己受容日記』を参考に、締めの言葉をポジティブにしましょう」
Q.日記はいつ書くのが効果的ですか?
A.就寝の15分前がベスト 難しい場合は朝でもOK
「寝る前の15分間は“記憶のゴールデンタイム”。そのとき考えたことが記憶されやすくなるので、ポジティブな気分でいれば、幸福感も高まります」。頭の中で内容をまとめ、起床後に書くのも◎。
Q.何に書いてもいいものですか? おすすめの日記帳やペンなどの文具はありますか?
A.書くことが楽しくなる文具を探してみては?
「ノートにもペンにも決まりはありません。ただ、書きやすいサイズや紙の質感、なめらかな書き味の万年筆やボールペンなど、日記をつけるのが楽しくなる文具を使うのがおすすめです」
Q.ポジティブに思えることがない日は何を書けばいいですか?
A.“プチ幸せ”を探す努力を続けて!
「悪いことだけでなく必ずよいこともあるはず。3行ポジティブ日記はそれに気づく練習です。夕食がおいしかったなどプチ幸せを探してみて。日記に書くために楽しいことをするのもおすすめです」
Q.どれくらい続けたら効果が感じられますか?
A.1週間でうつ病が改善したという研究結果も
「1週間続けることで幸福力が高まり、うつ病が改善。その後やめても、効果は6か月間持続したという研究結果をアメリカの医療チームが報告しています。個人差はありますが、1週間は毎日続けて」
脳科学的に見た効果とは? 日記を手書きすると認知症予防効果が!
脳科学的に見た効果を解説する。
日記は前頭前野を刺激する
日記をつけると、心身が健康になり幸福感を味わえるだけでなく、脳が刺激されて、「認知症予防にも役立つ」と言うのが、脳科学者の篠原菊紀さんだ。

前頭前野、海馬、言語関連野などが刺激を受けると、集中力、思考力、創造力、判断力、コミュニケーション能力などが高まる。特に前頭前野では、入ってきた情報のうち必要なものを判断し、脳にキープしておく記憶機能“ワーキングメモリ”が機能している。
「日記を書くには、記憶を引き出し、それを覚えながら文章を構成する能力が必要。このときワーキングメモリが使われます。ですから日記を書くと前頭前野が鍛えられるというわけです」(篠原さん・以下同)
実際、日記を書き続けた女性たちのこんな事例も。
「日記を書き続けたアメリカの修道女たちの脳を調べたところ、脳では明らかにアルツハイマー病を発症しているのに、症状が見られなかったという研究結果が発表されました。理由は、日記を書くことで認知的予備能力(認知機能の低下を抑える能力)がついたからと考えられています」
脳を活性化したり、認知的予備能力を高めたりするには、パソコンやスマホより、ノートに手書きするのが有効だという。
「ペンを持って、手を動かすだけでも刺激になるので、パソコンやタブレットなどを使いたい場合は、ペン入力にすると、近い効果が期待できます」
長く続けようと思わず、休み休みでもいいので楽しみながらやることがポイント。ぜひ挑戦を!
◆精神科医・作家・樺沢紫苑さん
YouTube「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」などで累計100万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識と情報を伝える。『精神科医が見つけた 3つの幸福』(飛鳥新社)など著書多数。
◆脳科学者・篠原菊紀さん
公立諏訪東京理科大学特任教授。応用健康科学や脳科学の専門家として、メディアでわかりやすく脳についての研究結果を紹介。『何歳からでも間に合う 脳を鍛える方法』(徳間書店)など著書多数。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2025年5月29日号