物事が思いどおりに進まず感情が高ぶったり、些細なことが気になって集中できなくなってしまうことはないだろうか。世界一の称号を手にした大坂なおみ選手(21才)も、以前はそうであった。相手の猛攻撃にあっても彼女が心を乱さない最強のメンタルを手に入れられた理由とは―─?
インナーピース=心の平穏
今年1月、テニスの全豪オープンで初優勝し、アジア勢初の世界ランキング1位となった大坂選手。彼女は準決勝後の会見でこう語った。
《試合中に時々入り込めるインナーピースがあります。そこにたどり着くのは難しいですが、そこに行けば、心が何にも乱されないですみます》
スポーツライターの山口奈緒美さんが指摘する。
「全豪決勝では、第2セットを奪われ追い込まれても、ほんの数分で落ち着きを取り戻しました。この強靭な精神力を生んだものが大坂選手の言う『インナーピース』なのでしょう」
なんだか聞き慣れない言葉だが「インナーピース」とは何のことだろう。元テニスプレーヤーで全日本選手権に出場経験のあるスポーツ心理学者の児玉光雄さんが解説する。
「インナーピースは“心の平穏”の意味。心に生じる嵐を抑えて、小波すら立たない無風状態です。一度この状態になってしまえば目の前のプレーに集中し、本来の実力を発揮できる。迷いや不安がなく最高の心理状態を示す言葉です」
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一般人にも役立つインナーピース
以前の大坂選手は試合中に点を取られるとふてくされたり、ミスをした悔しさでラケットを放り投げるなどの行為が目立った。相手の苦手なところをついてミスを誘うテニスはサイコロジカル(心理)ゲームで、“メンタルが9割”とされる。不安定な精神状態は最大の弱点となるが、彼女は2017年からコーチに就任したサーシャ・バイン氏(2月12日に契約解消)らの助けでインナーピースを手に入れ大きく成長した。
「実はインナーピースは一般人にも役立ちます」
と話すのは、専修大学教授でスポーツ心理学者の佐藤雅幸さんだ。
「大坂選手が実践しているインナーピースに入る方法は、スポーツ選手でなくても有効です。日常生活でもイライラを減らして心を落ち着かせれば、人間関係などがスムーズになり、さまざまな問題に対処できます。試験やプレゼン、学校生活や家庭でも、心の平穏は重要なのです」
インナーピースを手に入れる具体的な方法を見ていこう。
インナーピースを手に入れる7つの方法
1:つらい時こそ笑顔になる
「笑顔」は心を穏やかにする基本的なテクニック。実際、大坂選手は試合中の苦しい場面でも笑顔をつくっている。
「表情は内面を支配します。多くの人は“楽しいから笑う”と考えますが、実は“笑うと楽しくなる”のです。すなわち、笑顔を絶やさなければ悲しい感情になることはなく、笑顔を維持すれば、落ち込んでいた感情がウキウキに変わる。だから苦しい場面になったら、大坂選手のように口角をあげてニコッと笑うと、沈んだ気持ちを前向きに変えられます」(児玉さん)
2:落ち込んだらスキップ
表情だけでなく、行動によっても人の内面は変わる。児玉さんが勧めるのは「スキップ」と「瞑想」だ。
「つらい時こそ、人に見えないところでスキップすると、心がウキウキして“何で落ち込んでいたんだろう”と思えます。またテレビやスマホから離れて目を閉じて何も考えず、3分ほど自分の呼吸に集中する『プチ瞑想』でも心の平穏を取り戻せます」(児玉さん)
3:イライラしたら「やる気呼吸」
試合中、前のポイントが決してから次のサーブまでの25秒間で、ラケットを見つめながら深呼吸する大坂選手の姿も目立った。
「ただの深呼吸ではなく、鼻から息を吸って、お腹に空気を落とす腹式呼吸が効果的です。特に鼻から息を吸う時、太陽や勇気、やる気などポジティブなものを一緒に体内に取り込み、息を吐く時、恐れや迷い、不安などネガティブなものを体外に出すイメージで行うことが大切。この呼吸によって、副交感神経が働いて心拍数と血圧が下がり、落ち着きます」(佐藤さん)
4:「暗示トイレ」で一息
全豪オープンの決勝、第2セットを奪われて窮地に立たされた大坂選手は、トイレ休憩を挟んだ。緊張した際、「間を置く」ことは大切だが、「暗示」を加えるとより効果的だ。
「一般的に緊張すると、トイレが近くなる『神経性頻尿』が起こります。その時は、尿とともに、恐れや迷い、不安が出て行った…とイメージしながら自己暗示をかける“暗示トイレ”が効果的です」(佐藤さん)
5:「できない自分」を許す
大坂選手は「完璧主義」を捨てることで変わった。
「完璧さを求めるあまり、小さなミスを悔やんだり、できない自分にいらだつ大坂選手に対し、バインコーチは『負けても人生は終わりじゃなく、空は青く空気もキレイだ。人生はこんなに楽しいじゃないか』と説いてきました。『もっと精神的に強くなれ』と叱咤するのではなく、『常に完璧である必要はない』と諭すことで、彼女は“できない自分”を受け入れられるようになり、心の平穏を手に入れました」(山口さん)
完璧を求めないことで完璧に近づけるのだ。
6:不安を打ち消してあげる
家族や同僚など、他人にインナーピースを与える場合はどうするべきか。何かにチャレンジする時は誰しも不安を抱くもの。周囲がやるべきは、その不安を打ち消すことだ。
大坂選手が「対戦相手が睨んできてペースが乱れる」と訴えた時、バインコーチは「相手が睨んでくるのはなおみのペースになっているからだ。相手はそれが嫌なんだよ」とアドバイスした。
「“睨んでくるのは、向こうのペースが乱されているからだ”と思うことで、ものの見方やとらえ方が変わり、不安が解消されます」(佐藤さん)
バインコーチは、大坂選手から言われたことに対して、しっかりと耳を傾け、すぐにポジティブな言葉で対応できるよう、携帯電話に600もの助言を保存しているとか。
7:低い目線から励ます
落ち込んだ人を褒めたり、励ましたりする時は「目線」に気をつけたい。
「バインコーチは座っている大坂選手より低い目線になり、『きみならもっとできる』『きっと挽回できるよ』と励まします。試合中に心が乱れることの多かった彼女も、低い視線からの励ましによって心穏やかになることが増えました。日本のコーチや教師、親はどうしても上から目線になりがちですが、インナーピースを得るためには、目線を低くして選手や生徒、子供の潜在能力を引き出すことが重要です」(児玉さん)
インナーピースをゲットして無敵となった大坂選手。目指せ、4大大会制覇!
※女性セブン2019年2月28日号
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