新型コロナウイルスの感染者の増加を防ぐため、多くの人は不要不急の外出を控える生活が続いているが、自宅にいる時間が増えたことで、“贅肉”まで増えてしまったという人も多いはず。
工藤内科副院長でダイエット専門医・工藤孝文さんは、こう言う。
「普段の通勤通学なども立派な運動の1つでしたから、多くの人が外出が減り、運動量も減っているので、脂肪が燃焼されずに蓄積されやすい状態になっていると思います。さらに、外出を制限されることでストレスが溜まり、ドカ食いをしてしまう人も少なくないはずです。単純に運動量を上げるため、エクササイズなどをしたいですが、ジムで行うような本格的なエクササイズは自信がないという人のために、自宅で気軽にできる簡単な方法をいくつか紹介します。ほんの数分のエクササイズを取り入れたり、生活習慣を見直してみたりするだけなので、在宅ワークしているかたも実践しやすいはずです」(工藤さん・以下同)
【7秒間かけて座るだけダイエット】ゆっくり座って太りにくい体に!
日常生活に取り入れることができ、時短でできるダイエットがあったなら…。そんな人の願いを叶えたのが、工藤さんが編み出した「7秒かけて座るだけダイエット」。
◆「7秒かけて座るだけ」がなぜダイエットに?
「これは、実際にダイエット外来の患者さんにおすすめしているエクササイズです。1日の中で椅子に座る動作というのは、意外に多い。座るたびに7秒かけて座るだけで、下半身の大きな筋肉が刺激され、全身の筋肉も効率よく使われます。全身の筋肉が使われれば、基礎代謝が上がり、動いてないときや寝ている間も、脂肪がどんどん燃えて太りにくい体になるのです」
◆「7秒かけて座るだけダイエット」のやり方
【1】両足を肩幅よりやや広めにし、椅子の前に立つ。
【2】つま先を外側に15度くらいに開く。
【3】背筋を伸ばし、目線は正面、両腕を肩の高さまで上げてまっすぐ伸ばす。
「姿勢を正し(横から見ると、耳、肩、腰、くるぶしが一直線)、両腕を前に出します。内臓、腹筋や背筋も引き上がるので、この状態をキープして行えば、腹や背中の引き締めにも有効です」
【4】そのまま、“いーち、にー、さーん、よーん、ごぉー、ろーく、なーな” と7秒数えながらゆっくり椅子に座る。
「呼吸は自分のリズムで自然呼吸を。数えるときに声に出すと、呼吸が止まらないのでベター。ややかかと重心にし、座面の前3分の1あたりへの着地をイメージして、ゆっくり腰を真下に下ろす。上体はまっすぐのままが正解」
【5】 “ いーち” と1秒かけて立つ。
「座って、すぐ立つ。ふとももの筋肉がしっかり使われるので、ココもポイントです」
◆こんな姿勢でやるのはNG
「両腕が前に倒れ、でっ尻で椅子に深く座るのはNG。楽にできますが、ふとももや体幹が正しく使われないので、下半身、腹筋や背筋への効果はありません」
◆回数は1日おきに10回でOK!
「目安は1日に10回ですが、10回以上座っている人は、座る回数だけ行ってください。また、筋肉量を増やすためには、1日おきがベスト。筋肉量は、エクササイズによって生じる筋肉痛を修復することで増えます。エクササイズ後24~48時間程度筋肉を休ませれば、エクササイズ前より筋肉量がアップします。ただし、1回やってみてつらい人は、無理をせず、回数を増やせるようになってから、徐々に増やしていきましょう。7秒かけて座るのがやりづらければ、まずはゆっくり座ることから始めましょう。座るたびにゆっくり座る。慣れたらフォームを正して7秒かけて座る。これだけでも続ければ充分効果が出ます」
【NEAT】毎日のマメな動きで肥満解消!
『内臓脂肪を減らす食べ方』(日本実業出版社)の著書がある工藤さんは、「内臓脂肪は落ちやすい脂肪です」と断言。運動で落とす方法について解説してくれた。
◆運動だけでは痩せない?
工藤さんは「『ジム通いやジョギングをすればいい』というのは間違いです。運動だけでは痩せません」と言い切る。
「体重を1kg落とすのに必要な運動量はフルマラソンなら2回分、合計84km超です。また、おにぎり1個分のエネルギーをウォーキングで消費しようとしたら、1時間歩き続ける必要があります。しかもこれらは継続しなければ実を結びません。かなり非効率だと思いませんか?」
◆特別な運動より、毎日の“マメな動き”「NEAT」とは?
「NEATは、非運動活動によるカロリー消費を意味します。つまり、ランニングや筋トレなどのいわゆる運動によるエネルギー消費ではなく、家事や通勤、椅子の立ち座り、階段の上り下りなど日常動作によるエネルギー消費です。
身体活動には、運動と運動以外の活動がありますが約8割を占めているのは後者。肥満に大きくかかわるのはこの非運動活動によるカロリー消費なのです」
3日に一度ランニングをするより、毎日階段の上り下りなどこまめに動く方が大切なのだ。
階段の上り下りがきつければ、歯磨きや食事のときに背筋をピンと伸ばす、来客時は座りっぱなしなのではなくマメにお茶を取り換える、部屋が汚れたらこまめに掃除機や拭き掃除を行う、お風呂掃除やトイレ掃除もサボらず毎日行う――といった、特別なことではなくてもいいので、日常的に動くことがポイントだ。
【睡眠】痩せる睡眠“7時間”で太らない体に!
睡眠もダイエットには欠かせないという。それでは、どんな睡眠をとればいいのか?
◆5時間以下の睡眠はデブにつながる!
「睡眠中には、脂肪の代謝が行われて体重が落ちますし、成長ホルモンが盛んに分泌されて細胞の新陳代謝を行ってくれます。一方、睡眠時間が5時間を切るなど短い場合、食欲が沸くグレリンというホルモンの分泌量が増える反面、食欲を抑えるレプチンというホルモンの量が少なくなると言われています」
それがわかっていてもなかなか夜寝られない人は、電車での移動中など隙間時間を使って仮眠をする、あるいは20~30分程度の昼寝で睡眠時間を補いたい。
◆1日トータル7時間睡眠がベスト!
「朝の通勤時間や仮眠などを含めて、1日の総合睡眠時間が7時間以上になればOKです。ただし、ストレスが溜まった状態で寝ても細胞の新陳代謝に影響が出ます。夜寝る前にお気に入りのテレビ視聴や読書に没頭してストレス解消を心がけて。その面白さや感動によってセロトニンが分泌されます」
【GLP-1ダイエット】“痩せホルモン”でドカ食い卒業!
数々のダイエット法を提唱してきた工藤さんが治療で行うものに「GLP-1ダイエット」というものがある。どのようなダイエット法なのか?
◆“痩せホルモン”、GLP-1とは?
「GLP-1ダイエットとは、GLP-1受容体作動薬という注射製剤を使ったダイエット法。“痩せホルモン”と呼ばれるGLP-1を毎日補うことで、自然と食欲が抑えられ、無理なく食事量が減っていくのが最大の特徴です。
”薬で痩せるの?””怪しい薬では?”と思われたかた、ご安心を。GLP-1受容体作動薬は、糖尿病の治療薬として厚生労働省から承認されています。糖尿病の最新治療薬だけでなく、ダイエット療法としても今医療機関で注目を集めている最新薬なのです」
◆GLP-1によって痩せられるのはなぜ?
「GLP-1は、脳の食欲中枢に働きかけ、食欲を抑えてくれます。さらに、胃のぜん動運動もセーブするため、口に入れた食べ物がゆっくり消化され、少量でも満腹感を得られやすくなります。ですから、早食い、ドカ食い癖がある人には特におすすめです」
他にも、次のような働きがある。
「余分な脂肪を燃焼し、脂肪肝の減少を促進する働きもあります。また、血糖値をコントロールする作用も。血糖値を一定に保とうするインスリンというホルモンを分泌しながら、血糖値を上げるグルカゴンというホルモンの分泌をセーブしてくれるんです」
◆GLP-1ダイエットの方法は?
「まず、GLP-1受容体作動薬を取り扱う医療機関を探します。ダイエットのために使うなら、ダイエット外来などのクリニック・病院で診療を受け、処方してもらうとよいでしょう。私が勤める工藤内科でも受けられます。注射製剤ですので、自分で腹部などに注射を打ちます。
痛みはほとんどありません。週に1回の注射と、1日1回の注射か2種類の注射があります。現在のところ、効果と安全性の2点から、週1回の注射を選択する医師が約7割を占めています。当てて押すだけなので使用は簡単で、週1回であれば患者の負担は少なくてすみます。医師と相談しながら半年から1年ほど続けていくことが推奨されています」
なお、妊娠中の人、1型糖尿病患者、70才以上の高齢者、未成年者には推奨されていない。副作用としては、胃腸のぜん動運動を抑えることによって生じる吐き気やむかつき、下痢などが報告されている。