普段“意識してまばたきをしている”という人はどれだけいるだろうか。スマホやパソコンに向き合う時間が増えた現代人は、まぶたが上から下に完全におりない “まばたき下手”の人が多いという。いまの私たちの健康への最短ルートは、“まばたき上手”になることだ──。
目の疲れの原因は「まばたき」の減少
《ゆっくり「まばたき」すると、猫と仲よくなりやすい》
英サセックス大学とポーツマス大学の研究チームがこの10月、そんなユニークな研究結果を発表した。猫にとってゆっくりまばたきをする動きは、親愛の気持ちを示すものだという。研究によれば、猫は無表情な人間よりも、ゆっくりまばたきをした人間に近寄る傾向にあったという。
普段、何気なくしている「まばたき」だが、実はいまだ解明されていないことは多い。そのメカニズムをひもとくと、“目の乾きを防ぐ”だけでない革命的な「健康効果」が見えてきた──。
◆まばたきの減少でドライアイ、目の疲れ、不眠に
在宅勤務でスマホやパソコンの使用が増え、目の疲れや頭痛に悩まされる人は多い。その原因はズバリ「まばたき」の減少だ。おおたけ眼科つきみ野医院院長で医学博士の綾木雅彦さんが言う。
「まばたきの減少はドライアイはもちろん、目の疲れ、頭痛、不眠といった症状を引き起こします。“たかがまばたき”と侮っていると、どんどん不健康な状態に陥ります」
ドライアイ研究会と参天製薬の共同研究によれば、ドライアイの人はそうでない人に比べて、労働生産性が著しく悪化するそうだ。さらに、「幸福度」は、ドライアイの症状が重くなるほど低くなると明らかになった。ドライアイによって引き起こされる数々の症状が、人の幸せまで奪ってしまう──。
PCやスマホ使用でまばたきが減る理由
そもそも、どうしてスマホやパソコンによって、まばたきが減るのか。大阪大学生命機能研究科准教授の中野珠実さんが解説する。
「スマホやパソコンの使用中は、ほかの感覚に比べて視覚情報への依存度が高く、画面に対して『過集中』の状態になります。まばたきは一種の“視覚情報の遮断”なので、過集中の状態では情報をできる限り得るために、まばたきの回数が減るんです。いわば“まばたきする間も惜しい”ということです」
最近は、スマホやパソコンの画面を見続ける時間が増え、“まばたき下手”になっている人が多いという。
「スマホやパソコンの画面を見続けると、集中状態が続き、目を開く状態が続く。そうした状態がクセになり、本人はちゃんとまぶたを閉じているつもりでもまぶたが上から下に完全におりず、7割ほどしか閉じない“不充分なまばたき”の人も多いんです」(綾木さん・以下同)
◆まばたきにはブルーライトを防ぐ役割も
中途半端なまばたきは、目に物理的なダメージを与える。
「まばたきには涙を均一に塗って目を保湿・保護し、目の表面をきれいにする役割があります。しかし、不充分なまばたきではそうした機能は低下し、目が汚れて傷つくばかり。目の表面の下部が3分の1ほど傷だらけという人すらいます。しかも、目の傷は慢性化すると痛みを感じづらいので、傷ができている自覚のない人がほとんどです」
まばたきには、スマホやパソコンから出る有害なブルーライトを遮断して目を守り、疲れ目を防ぐ役割もある。
「スマホやパソコンの画面を見続けることで起きる目の痛みは、ブルーライトが原因の1つです。光は基本的に目にとって“毒”なので、頻繁にまばたきをすることで、有害な紫外線やブルーライトから目が守られます」
まばたき不足で引き起こされる不調
まばたきの時間は1回あたり約0.3秒。1分間に平均20回、3秒に1回のペースでまばたきをするので1分間に計6秒間。つまり、睡眠時間以外で人生の10分の1はまばたきで目を閉じていることになる。本来はそうして頻繁に行われ、体を守る役割を持つまばたき。それが不充分になることで起きる、体への悪影響は大きい。
「まばたき不足でまず起きるのが『ドライアイ』。本人が無自覚のうちにドライアイになっている人は非常に多く、40~60代の女性の約半分はドライアイだといわれています。ドライアイは重症化すると慢性的な目の痛みや乾き、かすみ、肩こりといった症状が引き起こされます。さらに悪化すると、『視力の低下』『不眠』『うつ』といった病気や症状にもつながる。なかには、目薬でうつや不眠が治ったケースもあるほどです」
◆糖尿病や高血圧、心筋梗塞などのリスク
ドライアイによる睡眠の乱れは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを悪化させ、糖尿病のリスクを高めるという。さらに、高血圧や心筋梗塞などを引き起こすメタボリックシンドロームにつながることも明らかになっている。
龍村ヨガ研究所所長の龍村修さんは、まばたきは美容にも影響すると話す。
「まばたきが減ると表情が硬くなり、目がかすんで眉間にしわが寄りやすくなります。一方、まばたきをしっかりすることで目の周りの筋肉が使われるので血行が改善され、目の周りのしわやたるみ、目の下のくまができにくくなります」
まばたきはいわば、“天然の目薬”。手間もお金もかけずに、さまざまな不調とオサラバできるのなら、見直さない手はないだろう。しっかりとまばたきをすることが美容にもつながる
まばたきの持つ”脳を休める”役割
まばたきの持つもう1つの役割は“脳を守る”ことだと、前出の中野さんは語る。
「無意識で行われるまばたきのうち、涙で目の表面を潤す働きをするものは、実は2割程度に過ぎません。それ以外のまばたきは脳の情報処理に関連していると考えられます。具体的には、まばたきをすることで脳の中の情報を区切り、整理する役割があると思われます」
中野さんの研究では、イギリスのコメディードラマ『Mr.ビーン』を見ている人は、ほぼ同じタイミングにまばたきをしていたという。まばたきが揃って生じるのは、主人公の動作の切れ目や繰り返しのシーンなどだった。
◆脳疲労は食欲不振、便秘、うつ病などの原因に
「つまり、同じ映像を見ている人たちは、まばたきのタイミングも同じになると考えられます。まばたきの役割が目の乾きを防ぐだけであれば、そうしたことは起こり得ないでしょう。人は無意識のうちに目に見える出来事のまとまりを見つけ、その切れ目でまばたきを発生させていると思われます」(中野さん)
前出の綾木さんが続ける。
「まばたきで目を閉じている0.3秒ほどの間に、脳は情報をとりまとめ、目を開いた後には次の情報処理に取り掛かると考えられます。まばたきができないと、そうした“情報の区切り”がつけられない。充分にまばたきをすることは、こまめに目や脳を休めて集中力を回復させることにもつながるのです」
脳は臓器の働きや血液循環、体温調整、消化吸収など、体全体の機能を調節する自律神経の中枢だ。まばたきが減ることで脳が疲労し、「脳疲労」の状態に陥れば、その影響は全身に及ぶことは間違いない。
「脳疲労」は、食欲不振や味覚障害、便秘、めまいなどの身体症状だけでなく、不眠や、認知機能や判断力の低下、うつ病の原因にもなるという。
まばたきを上手にする方法とは?
目だけでなく、心身の健康を守るために重要な役割を持つまばたき。では、スマホやパソコンによる“まばたき下手”を防ぐには、どうしたらよいのか。
「深くまぶたを閉じきる“正しいまばたき”をするには、不充分なまばたきのクセをなくすことが重要です。まずは、“下までまぶたが落ちている感覚”を覚えることからはじめましょう。歯磨き中やトイレの中などいつでもいいので、意識してまぶたを深く閉じる時間をつくること。しっかり目が閉じられていれば、視界は真っ黒になるはずです。1時間に1回でもいいので、ゆっくり長めに目を閉じる練習をしてください」(前出・綾木さん)
まばたきを増やすには、自律神経を整えることも大切。スマホやパソコンで過集中状態になった神経を和らげるには、温めたタオルで目を覆うことが有効だ。気分を落ち着かせ、目の筋肉を緩めてリラックスさせることができる。
◆目のリラックス法「照気法」がおすすめ
ヨガの観点から龍村さんがすすめるのは、「照気法」という目のリラックス法だ。両手のひらをこすり合わせて温め、片手ずつおわん形にして両手で両目を覆う。手のひらの中央が眼球の上にくるように置くのがポイントだという。
「そのままの姿勢で、手のひらから目へ“気”を送るようにイメージしながら、ゆっくりと息を吸いましょう。たっぷりと息を吸ったら、目の疲れを口から出すようなつもりで、ゆっくりと息を吐き切る。10回ほど繰り返せば、視界がパッとひらけます」(龍村さん・以下同)
ほかにもおすすめのストレッチ法が2つ。まずは、目を閉じながら、目の周辺の顔の筋肉をギュッと締めたり緩めたりを繰り返す「弛緩と緊張ストレッチ」(下図参照)だ。
まばたきの改善につながるストレッチ
■弛緩と緊張ストレッチ
【1】両目を閉じながら、目の周辺の筋肉にギュッと力を加える。
【2】目を閉じたまま、力を入れていた目の周りの筋肉を緩める。
【3】【1】と【2】を数回繰り返す。
「目の周りの筋肉を緩めるときには、顔や全身の力も緩めるのがコツ。締める、緩めるといった動きに、目を思い切り見開く動きを加えてもいいでしょう。しわやたるみに効果的です」
もう1つは眉間と鼻先を交互に見つめる「ピント調節ストレッチ」(下図参照)。スマホやパソコンなどを使い続け、近くを見ることに偏った目の筋肉のバランスを整えるのに有効だという。
■ピント調節ストレッチ
【1】深呼吸しながら視線を眉間に集中させる。
【2】まばたきをせずに見つめ、涙がにじみ出てきたら目を閉じて、1~2分ほど休ませる。
【3】2、3回繰り返したら、鼻先に視線を集中させて同様に行う。
「背筋を伸ばして深呼吸しながら視線を眉間に集中させます。まばたきをせずにじっと見つめ、涙がにじみ出てきたら目を閉じ、1~2分ほど目を閉じて休ませる。2、3回ほど繰り返したら、同じ要領で鼻先に視線を集中させて行いましょう」
それらを行えば涙腺が刺激され、眼球が潤うと同時に目への血流が活性化される。目の筋肉がほぐれることで、まばたきの改善にもつながるだろう。
ぜひこの機会に、まばたきに目を向けてほしい。
イラスト/藤井昌子
※女性セブン2020年11月26日号
https://josei7.com/
●【顔ヨガ1分動画】「天使のまばたき」でアイラインのいらない瞳に!
●パナソニックの『目もとエステ』は使い方簡単!疲れ目以外にも効果アリ?【美容家電レビュー】
●ピリッと刺激が癒しに!EMS機能つきホットアイマスクなら疲れ目対策や快眠に【美容家電レビュー】