バツイチ独身のライター・オバ記者(63歳)が、趣味から仕事、食べ物、健康、美容のことまで”アラ還”で感じたリアルな日常を綴る人気連載。241回目となる今回は、お花見について。
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「桜見物だ」と思いついて原チャにまたがった
「春だ、春だ、春だってば、春、はるぅ~!!」と、怒鳴り歩きたい。なんて言ったら「大丈夫か?」と真顔で心配されるに決まっている。
実は毎年、桜が咲く頃が絶不調なんだわ。朝、目が覚めたときから体がマットに沈み込みそう。こんなときはロクなことを考えない。昨日もそう。ベッドの中でぐずぐずしながらYouTubeを見たり、寝たり、一昨年の夏に19年生きて亡くなった飼い猫の名前を呼んで、涙ぐんだり。気がつくと日が陰り始めていたの。
このまま1日が終わるかと、覚悟を決めたそのときよ。急に体に気が満ちてきた。原因? 春の低気圧が動いて、いい感じの配置になったのよ。科学的根拠はないけれど、自分の体と長年つきあっていると、その変わり目が手に取るようにわかるようになるの。
「よし、都内の桜見物だ」と突然、思いついて、30分後には原チャにまたがった。で、向かった先は15分で着く千鳥ヶ淵&靖国神社。
「千鳥ヶ淵のすぐ前」に住んでいたSくん
卒業シーズンなのね。鮮やかな着物に袴、ショートブーツの“ハイカラさん”のグループが7、8分咲きの桜の木の下で写真を撮っている。曇り空なのに、晴れ着を着た若い女の子がいっぱいいると、それだけで花が咲いたようだ。
千鳥ヶ淵は有名な桜の名所で、満開になるとお堀にボートが浮かび、水面はピンク色。カップルの頭に花びらが舞い落ちて、なんともいい感じになる。そんな光景も見られるかもね。
千鳥ヶ淵といえばもうひとつ、強烈な思い出がある。80年代はじめ、語学学校で知り合った6才年下のSくんの家が「千鳥ヶ淵のすぐ前」と言うの。木造モルタルのアパートから銭湯に通うのが当たり前と思っていた私には、そんなところに家があるのか。どうもピンと来ない。「じゃあ、うちで花見をしましょうよ」ということになったわけ。
靖国神社の大鳥居の横、4階建てのビルに入ると、真鍮の蛇腹を開けて乗るエレべーター。自宅は2階で、他の階は「外国人一家に貸している」とSくんはこともなげに言うんだわ。聞けば、Sくんの父親は日系二世のアメリカ育ちで、戦後、ここにビルを建てたんだって。
靖国通りに面した大きな窓いっぱいに、入道雲みたいな桜が煙っていた。それを見下ろしながら、東京の広さをいきなり見せられたような、なんともいえない気持ちになった。
そのSくんと、別の年の花見の季節に靖国神社を歩いたことがあるの。一時期、彼の恋バナの聞き役をしていたのよ。どんな話だったかは、すっかり忘れたけど、桜の木の下には無数のブルーシートが敷いてあったことだけは、よく覚えている。「毎年、遅くまで酒盛りしていてうるさいんですよ」とSくんは迷惑げだった。
それが今年は、ブルーシートなんか1枚もない。静かに手を合わせ、桜の花にスマホを向けて写真を撮っている人ばかり。
私が知るとっておきの桜の名所
と、ここまでは桜の観光地だけど、えへへ。実は私、とっておきの桜の名所を知っているんざますよ。関東の桜のほとんどは、ソメイヨシノという、淡いピンク色の花を咲かせる品種だけど、その原産地が山手線の駒込と巣鴨の間の染井というところだって知ってる? ここは江戸時代、園芸の町で、そこが明治になって「染井霊園」になったんだそうな。
家ですか?ってくらい広くて立派なお墓は、明治の初めから中頃に亡くなった人が多くて、無教養な私でも、どっかで聞いたことがあるようなお名前。「陸軍大尉勲一等」がどれほどエライ人かよくわからないけれど、立派な石の門構えの先に墓石がドーン。その後ろに「何人の生き血を吸ってきたんですか?」と聞きたくなるような、妖艶な桜の木がドーン。
とてもじゃないけどブルーシートなんか敷いてお酒を飲む気にならないし、ひとり歩いて厳かな気持ちになるにはいいところよ。
オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。『女性セブン』での体当たり取材が人気のライター。同誌で、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。一昨年、7か月で11kgの減量を達成。
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