子育て中はなんとかやり過ごせていた夫への不満も、夫婦ふたりきりの生活になると我慢にも限界が…。
子供が巣立ったあとも価値観の合わない夫とうまくやっていくことはできるのでしょうか。ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんに教えてもらいました。
【相談】子供が巣立ったあと価値観の違う夫とケンカしないためには我慢するしかないの?
「私と夫はもともと価値観や考え方が合いません。子育て中は子供の前で言い合いをするのはよくないと思い、イラっとしても私が我慢していました。しかし、子供が結婚して家を出たいま、夫の言動に腹が立つと我慢できずに文句を言ってしまいます。特にコロナ禍で一緒にいる時間が増え、夫との言い争いも増えました。ケンカを避けるには、以前のように私が我慢するしかないのでしょうか?」(58歳・パート)
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夫婦は、価値観や考え方がまったく合わないのが普通
夫の言動に腹が立つことって本当に多いですよね。向こうも実は、同じだけ妻の言動に戸惑っています。
なんと、それこそが「夫婦の本質」なんです。
生物はすべからく、自分にない特性の持ち主と子孫を残そうとします。子孫の「免疫」にバリエーションができるからです。このため、感性が正反対の相手に惚れてしまうわけ。
おしゃべりな人が寡黙な人に惹かれたり、せっかちがおっとりに惹かれたり、丈夫な人が繊細な人に惹かれたり。
そんな真逆の相手に、ほんのわずかな共通点があったとき、人は心震えるわけ。
99%合わなくても1つ合うところに感動するのが恋
恋人時代は、100%のうちほとんどが合わない相手に1つ合うところを見つけるから、それをダイヤモンドのように感じます。この人ってよくわからなくてミステリアスだけど、「チャウチャウ犬が好きなのね! 私と一緒だわ!」なんてことがあると、「運命の人」だと思ってしまうものなんです。
行動も好みも一緒な相手だと、そこまでの感動はなし! 人間は価値観や考え方が違うのに、ほんの少し同じところがあるとわかって感動するから恋をするわけなんですね。
ところが、夫婦になると合わない99%のところが気になり出すものなんです。
自分がイラっとしている数だけ、相手もイラっとしている
夫婦は「とっさの脳神経回路の使い方」がまったく違うので、行動がすれ違います。正解や正義が違います。
このため、お互いに「自分が正しくて、相手が間違ってる」と思うことがほとんどです。
相手が、自分と同じ脳の持ち主で、同じように考えているのに、「怠惰」や「愛情不足」でそれをしない、と思っているから腹が立ちます。
相手は、自分とは違うものを見て、自分とは違うことを心地よいと思っているから、この二者間で、納得のいく結論を出すのは困難。
そう腹に落としてしまえば、イライラはずいぶん減衰されます。
夫婦で「なんとなく」「一緒に」は不可能
とっさに見るもの、ことの優先順位や進め方が違うので、家庭内のタスクは、責任者を決めて、縦割りにしたほうがスムーズにいきます。
物理学者のアインシュタイン博士は、晩年、夫婦円満のコツを聞かれて、こう答えました。
「結婚したとき、妻から提案がありました。夫婦で話し合うと必ず喧嘩になるから、決め事は、どちらかが単独でしましょう。日ごろのつまらないことは私が決めるから、ここぞという大事なことはあなたが決めてね」と。
「でも」と博士は続けています。
「不思議なのは、今まで一度も、私たち夫婦に、ここぞという大事なことがなかったことです」
責任者を決めて、その判断に任せる。これは、我が家でも踏襲しています。夫が定年退職してから、夫が洗濯リーダーです。洗剤や漂白剤も、ピンチングハンガーも、すべて夫の理想のものに変わりました。干し方も、夫のやりやすいように。私は一切口を出しません。
責任者を決めて、責任者の支持に従う
洗濯のタイミングも夫が決めるので、私は自分のワンピースを急ぎ洗いたいときも、「洗濯機使ってもいい?」と聞いたりします。今朝は、出掛ける夫に、「洗濯しといて」と言われて、「は~い」と気持ちよく返事してあげました。リーダーは、命令してもいいのです。
我が家は、あらゆることで、リーダーや係が決まっています。猫砂は、朝は私たち夫婦が、夜は息子たち夫婦が片づける係。
責任者を決めて、責任者の指示に従う。「なんとなく」で押し付け合わないで、係を決める。それが、家族円満の最大のコツです。
我慢できないことはシステム化する
では、どう対処するかですが、まずは我慢できることとできないことを区別しましょう。どうしても我慢できないことは、システムを作ります。
例えば、リビングに何でも置きっぱなしにする夫が許せないとしましょう。キッチンカウンターに車のキー、ソファーに帽子、椅子にベルト…きれいにして暮らしたい主婦にしてみたら、本当に腹立たしいものです。そのうえ、出がけに、「あれがない、これがない」と言い始める始末。
ならいっそ、夫の”ぱなし箱”を作っちゃうんです。置きっぱなしのものを、すべてここに入れてしまうことシステムに。リビングもきれいだし、「あれがない、これがない」も解消できます。
家の動線を考えるのも1つの方法
私は、住宅メーカーで、妻がイライラしない家を開発しています(http://www.diwks.jp/)。その家は、玄関に、リビングに向かう動線のほかに、大容量のウォークスルー(通り抜け)クローゼットを配置しました。クローゼットを通り抜けた先には、洗面所があり、そこからリビングに出られます。
家族は帰宅したら、まずはそのクローゼットに入り、カバンを置いて、コートやスーツを脱ぎ、洗ってほしいものを持って洗面所に行き、脱衣カゴに服を入れ、手を洗ってリビングに入るという動線を作ったんです。
そのおかげで、リビングにコートや靴下を脱ぎっぱなしにしたり、カバンを置きっぱなしにするということが起こらなくなります。ショールームでご覧になったお客様の評判もとても高く、業界でも噂になりました。
建て替えるまでのことをしなくても、家の動線を考えてみるのも1つの方法ですよ。まずはイライラすることはシステムを作って減らしましょう。
夫にどうしてもしてほしいこと、してくれたら嬉しいことはルールにする
その他、夫にどうしてもやってほしいことがあればルールにします。
私の場合、イライラするポイントは、私が買い物から帰ったときに夫が迎えに出てこないことでした。
共働きだと、パソコンが入ったアタッシュケースと買い物袋2つを持ち、さらにはトイレットペーパーを指に引っ掛けて帰ってくるなんてこともざら。
仕事帰りに買い物までしてクタクタなのに、そこから座りもせずに夕飯の準備をしないといけません。それなのに、先に帰っていた夫が「おかえり〜」と言いながらテレビなんか見ていたら私はすごく腹が立つ。
妻が帰ったら夫が出迎えるルールに
たくさんの荷物を持っていても帰ってくる途中には、「こんなことなら家族なんて持たなければよかった」なんてまったく思わないのに、誰も迎えに出てこずに部屋でのうのうとしている家族を見ると、「この人たちのためにどうして私はこんなに大変な思いをしているの!」と思うことがあって、これは危険だなと感じました。こんなことが続いたら、そのうち離婚したいと思うだろうなと。
そこで、「私が帰ったらとにかく荷物を受け取りに来ること」を、夫にお願いしてルールにしました。
私が帰ってきて「ただいま」というと、夫はすぐに玄関まで飛んできてくれます。その姿を見ると、「この家族のために買い物して帰ってきてよかった」と思う。
それが私の家族愛ポイントだったんです。初めはルールにしても、そのうち自然にやってくれるようになって、そうすると愛おしく感じるものですよ。
自分がイラっとするポイントを分析
ぜひ、自分がイラっとするポイントを探してみてください。そのポイントは、自分が思っている1つ前にあることも多いんです。
例えば、玄関に出迎えにきてくれず、部屋に入ったら脱ぎ捨てたものや飲みかけのコップが置いてあって、のうのうとしている夫の姿を見ると「あなたがだらしないから腹が立つ!」と思ったりするけれど、実はイラっとしているポイントは、1つ前の玄関に出迎えてくれず、自分を思いやってくれないことに傷ついているからだったりします。
ですから、自分が何にイラっとしているのかを分析して、そのポイントを見つけて、夫がやってくれないと困るもの、または夫がやってくれると夫のポイントが上がることはルールにしてみて。
ルールにするときは、「それが正しいから」「そうしないと悪いから」という言い方をせずに、「そうしてくれるとうれしいわ」とポジティブな言い方でお願いしてくださいね。そのほうが相手もやりやすいと思いますよ。
イライラすることは、システム化やルール化することで解消し、幸せのポイントを貯めていくこと。感性の真逆な男女=夫婦は、そうでもしないとつらいばかりになってしまいます。
教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
構成/青山貴子
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