日韓を中心に活躍するアーティスト・ジェジュン(35歳)が主演を務めることで、公開前から話題のドキュメンタリー映画『ジェジュン:オン・ザ・ロード』(7月2日公開)。
ジェジュンが、アーティストである前に一人の青年として真摯に自分の人生に向き合う姿を、映画『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督が密着しました。
東京で緊急事態宣言が続く6月のある日、ソウルと東京をつないだオンライン取材会で、映画公開を控えたジェジュン本人のリアルな声を聞くことができました。今だから明かせるデビュー前の秘話、そして活動を続ける中で感じた葛藤と挫折とは? 胸の内を率直に語ってくれました。
コロナ禍の新習慣は、毎日3回、2万歩の散歩
コロナ禍で散歩が日課になり、1日3回、毎日2万歩ぐらい歩いていると言うジェジュン。
「(散歩が日課で)おじさんっぽくなってきました」と笑うが、透けるような美白の顔立ちとシャープなフェイスラインは変わらず、少しやせてさらに若返ったような印象を受けた。
「いやいやいやいや…3kg太りました! どんどん体質が変わっていくんです。前はダイエットすると、シュッと痩せてきたんですけど、いまは全然痩せません(笑い)」
皆さんの前で裸になっているような作品
コロナ禍の生活も2年目を迎え、なぜいまこのタイミングで、このような映画で、自分自身をさらけだそうと思ったのだろうか。
「うーん…なんでいまのタイミングになったのか、ぼくも疑問なんです。ちょうど40歳でもなく、なんでいまなんだろう?(笑い)でも自分の姿を改めて振り返ってみて、いろいろ悩みもできて反省もして、周りに感謝できるような良い作品になったので、ぼくにとってはすごくいいタイミングだったんじゃないかな。
正直言うとこの映画は、皆さんの前で裸になっている感じなんですよ。過去の自分と現在の自分のことを比べると、自分のことがまた見えちゃう…なので2回以上は見れないじゃないかなと思うんですよ。お酒飲まないと見れないんじゃないかな(笑い)」
答えるのが少し怖かったことも
今回メガホンを取ったイ・ジェハン監督とは、以前から友人として付き合いがあったという。友人に改めて私的な部分をさらけ出すのは、なかなか難しい作業だったのではないだろうか。
「監督とは飲み会で一緒になることが多かったんです。人って飲み会で深い話をするじゃないですか。距離が縮まってる関係だと思っていたんですが、まさか監督からこういう質問がくると思わなかったっていうほどいろんな質問をされて、すごくびっくりしました。今までお互い、100のうち20ぐらいしか知らなかったんだって。仕事だと思ってたら答えづらい質問が多かったんじゃないかな。ちょっとなんか、答えるのが少し怖かったです」
思い出の橋の上を、自らの運転で走る
劇中でジェジュンは、子供時代を過ごした公州の街や、自身が大切にしているスポットなどをめぐり、思い出やその時感じたことを語っていく。それは懐かしくもあり、時には胸がしめつけられる作業だということが、微妙な表情から見て取れる。広州へ向かう道を自ら運転し、途中大きな橋を渡るシーンがある。
「実際に見ると、狭くてすごく小っちゃい橋なんです。ぼくの子供の時からの思い出の橋なんですよ。すごく狭い街なのでやることがなくて、川を歩いたり遊んだり。その時は橋と川が大きく感じたけど、大人になって来てみたら、こんな小っちゃかったんだっけ、って思いながら。
小学校に遊びに行ったりすると、そういう瞬間ってありますよね。しかも自分の車を運転してこの橋の上を走るなんて、『いやあ、すごいなあ』って思いました。
小学生の頃、自転車に乗ってあの橋を走ったことがあって、その時、50歳ぐらいのおじさんに、『おまえらは若くて本当にいいな。うらやましいよ』って言われたことがあったんです。ぼくも歩いていた子供たちを見て、まったく同じ気持ちを感じました(笑い)。もうこれ以上大人になりたくないなっていう気持ち、わかりますか?」
自分だけが知っている自慢の場所
映画のポスターにもなっている草原のシーンも、ジェジュンにとっては大切な場所だという。
「あの場所は、あそこにいたら周りの環境や人のことをまったく気にしないで、裸の自分…自分の気持ちを解放できるような自由を感じる場所なんです。だからイ・ジェハン監督にも、その自由な感じを感じてもらいたいという気持ちでした。自分だけが知っている自慢の場所を、仲のいい友達に早く自慢したいっていうような気持ちですかね。
映像を見てすごくきれいだったので、行って良かったなと思いました」
新旧の友人たちとの、かけがえのない食事
軍時代の友人や芸能界の後輩たちとのなにげない日常の集まりでは、参加者それぞれの、少し照れくさそうな様子が描かれている。
「軍人の時の仲間たちとか、最近すごく仲良くしている芸能界の後輩たちとか、映像を通して皆さんに見ていただいたことも今まではあまりなかったので、 食事をするシーンを通して、仲の良い友達として紹介することができたのはうれしかったです。
カメラの前で、みんながどこまで素直な姿を見せてくれるのかっていうのがすごく面白かった。 意外とみんな緊張しないで、逆にぼくと個人的にご飯会をする時より、言っちゃいけないことを言ったりして困った時もありましたし(笑い)」
過去には戻りたくない
ファンでなくても、長くK-POPを愛する人なら、育ててくれた両親と生みの両親の間で葛藤を抱える、複雑な生い立ちのことを知っている人は多い。そして過去に所属していたグループの出来事は、全世界のK-POPファンの、「明日はどうなるかわからないK-POP界だから、今日の“推し”を全力で応援しよう」という思いにつながっている。
つらい別れや過酷な経験を乗り越え、2018年、ようやく日本でのアーティスト活動を再開させることができた。過去の華やかなステージを思い返し、戻りたいと思ったことも一度や二度ではないのではないだろうか。
「『もし過去に戻れるんだったら、どうする?』っていう質問をよく受けるのですが、過去には戻りたくないと思ってるんです。大変だった、つらかった過去を乗り越えてここまで来たので、いまよりもっと幸せな楽しい未来の、将来の自分を完成させるためにも、ポジティブにもっといろんなことを努力で乗り越えていこうと考えています。
大切じゃなかった過去はないですね。すべての瞬間がぼくにとっては大切だと思っていますし、もしかして間違った、失敗した過去のことでも、いまの自分にはすごく大切な思い出になっています」
話した内容の80%はNG!?
所属していたグループを離れることになった本当の理由や経緯、その時ジェジュンが考えていたこと――この2つが本作でどのように語られるのかは、ジェジュンファンならずとも、そのグループに所属していたメンバーをいまも応援しているファンにとっても、長い間気にかかっていたことだ。
「たぶんその話は、ぼくが話した内容の80%くらいは編集されたと思うんです(笑い)。いろんな事情があるんです。ぼくが言おうとしても、聞きたくないという人もいらっしゃるかもしれないし。
メンバーの話は、どこまで話していいか悩んじゃうんですよね。あの時のメンバーが思っていたこと、そしていまそれぞれが思ってること、ぼくの記憶に残っているあの時のこと、それらはたぶん全然違うかもしれない。
もちろん時間が経ってみんなも30代の大人ですし、みんなの価値観とか世界観もぼくと同じく変わってきているので、同じ過去、同じ経験だけど、過去の話をいまの自分がどう覚えてるかって、みんなそれぞれ違うかもしれないじゃないですか。どういう価値観でどういう発言をしたのかとか、どういう感情を込めてあの時そういう話をしたのかって」
ファンやスタッフと壁を乗り越えていくしかない
これまでの人生の中で、ターニングポイントは2つあったという。
「1つは、自分の力ではできないことってこんなたくさんあるんだってことを認めちゃったこと。
ぼくにできることがあるなら何でもやりますよ。どれだけ時間をかけても、時間と努力とお金で解決できるものなら、死ぬ前までずっと努力するべきなんじゃないか思います。でもどうしても解決できないなら、まあ仕方ないですね(笑い)。
それはその中でいろんなことを乗り越えながら、克服しながらも、その間、必ず幸せな楽しい瞬間もたくさんあると思うので、その瞬間をぼくと一緒にそばで応援してくれるファンの皆さんとか、周りのスタッフさんとかと、その壁を楽しくみんなで乗り越えるしかないですね。
もう1つは、家族が仲良くして欲しかったということです。なかなか仲良くなれないなあと思って。こういう話を家族以外の人に言っていいのかなっていうこともつらいですね。 いつかはそうなれる(仲良くなれる)んじゃないかなっていう希望を持っていますが」
華やかな演出があるわけではなく、全編が静かに淡々と流れる静かな作品ながら、ジェジュンが訪ねる場所や丁寧につむぐ話は、想像以上にドラマティックで、ファンならひと言も聞き漏らしたくない話ばかりだろう。
田舎からソウルに出てきた頃の、その先の苦労をまったく知らない栄光と夢を信じていたジェジュン少年に、今いろんな苦労をしていろんなスキルを身に着けた35歳のジェジュン青年は、なんと声をかけるのだろうか。
「15歳の頃の自分は、人生のすべてを懸けても地元から抜け出したくて、その気持ちしかなかったです。正直言うと、狭い町の中の若いぼくジェジュンっていう存在は、大人になるまでここに残されていたら、世の中の何もない蟻のような存在なんじゃないかなっていう気持ちだったんです。でもソウルに上京しようとしても、お金も行く勇気もなかった。
映画の中でも4000ウォン(約400円)の話をしたのですが、その400円は、ぼくの地元からソウルまで行けるバスの料金だったんです。あの時の400円がなかったら、今のジェジュンはなかった。その400円でソウルに上京して、そこで起きたいろんな事件、いろんな壁にぶつかったあの時の経験で、より強い自分になって、もっと夢を大きくしてこられたんじゃないかな。
とはいえ16歳の時には、もう夢は叶わないんじゃないかっていう時があったんです。夢を叶えるために上京したのに、お金がなくて生活することだけで精一杯で。生きること自体もつらいのに、どうやって夢を叶えられるんだろうって。正直、自分自身のつらい生活よりも、家族のことを思い出したらもう、『おれ、つらいよ』っていうことを誰にも言えなかった。
事務所にも言えなかったですし、たった一人で乗り越えていくしかなかったので、あの時がいちばん気持ち的に強くなっていたんじゃないかな。すごく心が熱かった少年だったんじゃないかなと思います。 何百回もあきらめようとしていましたね、あの時は…」
親友、チャン・グンソクが、まさかの友情出演!?
最後に改めて本作の見どころを聞いてみた。
「最終編を見てちょっとびっくりしたのが、グンちゃんですね。チャン・グンソクくんのインタビュー! (グンソクが出演することを)ぼく、本当に知らなかったので、グンちゃんのインタビューを見た瞬間、びっくりしました。
それから、ぼくの中学の担任の先生に会いに行くシーンがあるんですが、会いに行く途中、ぼくの過去の一部一部を話すその会話の中で、いろんな感動があるんじゃないかなと思います。
素敵できれいな映像もぜひ見てほしいポイントですが、会話の中から本当の意味、ぼくが考えている価値観とかを見てほしいと思います」
本作でも話せないことはまだまだたくさんあるようだが、ジェジュンのさまざまな表情や、会話と会話の行間を読んでいくことで、長年ファンが抱えてきた疑問の答え合わせをすることはできるかもしれない。実際本人も次のように振り返っている。
「素直になんでも答えた映画なので、皆さんはすべての話は聞けないとは思うのですが、その時のぼくの顔から出てくる感情とか、そんなものを感じていただければ十分です」
『ジェジュン:オン・ザ・ロード』(原題:『ON THE ROAD an artist’s journey』)
■公開日:2021年7月2日(金)~、ユナイテッド・シネマ豊洲、新宿ピカデリー他ロードショー
■出演:ジェジュン、チャン・グンソク(友情出演)ほか
■鑑賞料金:2500円
■監督:イ・ジェハン(『私の頭の中の消しゴム』『サヨナライツカ』)
■音楽:パク・ソンイル(『梨泰院クラス』)
■ストーリー:日韓で活躍するアーティスト、ジェジュン。これまでの彼の人生をめぐりながら、その真髄に迫るドキュメンタリー映画。ステージで見せるアーティストの姿ではなく、まっさらな一人の青年としての悩みや価値観、夢、そして音楽活動における思いなど飾らずに語る姿をイ・ジェハン監督が密着して映し出した。
■配給:ローソンエンタテインメント
■関連サイト:http://lwp.jp/jor/
取材・文/田名部知子