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「マナー押しつけ」に反発の声も? 専門家は「“TPPPO”に合わせることが重要」

「謎マナー」という言葉を近年、ネットでよく見かけるようになりました。企業研修やメディアで紹介されたマナーに対して、SNSなどで否定的な意見を述べるときの決まり文句のようになっています。マナーは「形式的で無意味」「堅苦しい」、そう感じる人も少なくないようです。

名刺を交換する女性
そもそもマナーとは?(Ph/photoAC)
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マナーとは本来どのようなもので、マナーを守ることにどんな意義や利点があるのでしょうか。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんに聞きました。

マナーとは、思いやりを持って相手のために表現するもの

「日本では2006年頃、雑誌やテレビでマナーが取り上げられ、ちょっとしたブームのようになっていました。しかし、ここ数年はマナーがメディアで取り上げられると、反発の声が多く上がるようになっています。これは『まず“型”を覚えてください』と特定の作法を押しつけるようにしてきたマナー教育の伝え方に問題があったのではないかと思います」

こう語る西出さんは、300社以上の名だたる企業の従業員研修や研修メニューのコンサルティング、ドラマや映画でのマナー監修・指導などを手掛けてきました。

「マナーを日本語にすると『礼儀』です。『礼』は人を思いやる心、『儀』は法則や作法のことです。心の伴わない『作法』を指す言葉ではないですし、『儀礼』とも成り立ちが逆です。思いやりの気持ちが先にあって、それを形に表す。決して、型ありきではありません。

思いやりを持ち合えば意思疎通が円滑になり、一緒に取り組むいろいろなことがうまく運びます。マナーは、あらゆる活動を支える土台のようなものなんです」

マナーは思いやりを表現するもの(Ph/AFLO)
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西出さんは、その場の状況に適した振る舞いを自分で考え、表現することがマナーだと説きます。いわゆるTPOを発展させて「TPPPO」を意識することを提唱してきました。

「time(時)、place(場所)、position(立場)、person(人)、occasion(場合)。TPOに加えて、自分の置かれている立場、相手の心情や性格も考え合わせるといいですよ、という提案です。

英国王室の女王のフィンガーボウルの逸話からも分かるように、マナーはルールや決まりごとではありません。状況に応じて変えていって構わない。むしろ柔軟に変えていくべきものです」

女王のエピソードが愛されてきた理由

この逸話は、諸説ありますが、英国の女王が賓客を招いた会食中、指を洗浄するためのフィンガーボウルの水を客が誤って飲んでしまったので、その客に恥をかかせないために自分もすかさずボウルの水を飲んだというものです。

「真偽のほどはともかく、とても有名な話で、多くの人が好んで語り継いできたのだと思われます。マナーの教科書にあることと正反対の行動が、その場では適切であったりする――そのことを、本当は誰もが既に理解しているのです」

西出さんがテレビドラマの撮影現場で、マナーを踏まえて登場人物のセリフやしぐさに見解を述べるときも「こうしてください」「こうするのがマナーです」という言い方はしないのだとか。

状況を踏まえて「この差し迫った場面で、いつも通りの作法を完璧に守るのも不自然ですよね。この人物の立場なら、これぐらいまで崩しておかしくないと思います」といった“境界線”や“幅”を監督に伝えているといいます。マナーは変えられるということを覚えておきたいですね。

オンラインコミュニケーションのマナーはどうあるべき?

マナーの本質を捉え直した上で、コロナ禍になって機会が増えたオンラインコミュニケーションにまつわるマナーを考えてみると、どういうことになるでしょうか。

リモート会議中の女性
オンラインのマナーとはどうあるべき?(Ph/photoAC)
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例えば、オンライン会議では10分前から入室しておくべき、ビデオ機能をオンにして顔出ししなければいけない、退室は目上の人から順に、といったことがマナーだと考える人もいるようです。

西出さんは、これらの細かな作法にとらわれる必要はないとの見解を示します。

「入室は、時間に遅れなければ1分前でもオンタイムでも構いません。早くに入室許可のリクエストがいってホストの方のプレッシャーになっても悪いですから。一方、自身がホストの場合は10分前ぐらいに入っておくと、早くにつないだ参加者も安心できていいですね。でも、『どちらかといえば』『もし可能なら』という程度のことで、マストだとは思いません」

ビデオ機能の「オン/オフ」はこだわらなくてもいい

ビデオ機能の「オン/オフ」や、退室の順番などについても、特にこだわらなくて構わないといいます。

「自宅からつなぐ人も多いので、背景が確保しにくかったり、人によっては子供やお年寄りがいて大変なことがあったり、いろんな事情がありますよね。カメラをオフにしている人がいても、今日はそうなんだというだけのこと。周囲の人たちで勝手に、気にするのをやめましょう。

カメラオフのほうが都合のいいときは、遠慮しないでそうするのが一番。他人に対して、自分の感覚にしっくりくる行動を求めることのほうがマナーに反していると考えます。

退室の順番も同様です。もじもじと様子見をする必要はありません。終わったらすぐに出たければ挨拶をして出ればいい。そうするほうが理に適っています。参加者より職場で上の立場にいる人はそれこそ早めに退室して若手の方々を楽にしてあげましょう」

新時代のマナーは「常識を重く捉えすぎない」がカギ

ニューノーマルな暮らしが始まり、上記のような新しい作法が提唱され、それについて賛否両論かまびすしい今の状況について、西出さんは「ああしてはいけない、こうでなくてはいけない、という“常識”を重く捉えすぎているのかもしれません」と指摘します。

「私ぐらいの年頃になると、よくも悪くもたくさんの常識が身に付いてくるものです。でも、時代は変わりました。2019年5月に元号が改まり、2020年初頭からコロナ禍で生活スタイルが一変しました。

世の中が変われば、常識も変わります。このような転換期に、古い常識を基準に他人のことをとやかく思うのは損です。『あの人ってこんなことして失礼だ!』と腹を立てて時間が過ぎるともったいないですよね。『自分の常識は世間の非常識』ぐらいに思っておいて、些末なことは受け流し、もっと大事なことに時間を使っていきましょう」

自分や相手を窮屈な型にはめていくような似非(えせ)マナーは無用ですが、相手を思いやってコミュニケーションをよくするマナーの存在は、今こそ重要度を増しているといえそうです。

◆教えてくれたのは:マナーコンサルタント・西出ひろ子さん

西出ひろ子
マナーコンサルタント・西出ひろ子さん
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ビジネススタイリスト・マナーコンサルタント・美道家。HIROKO MANNER Group代表、ウイズ株式会社代表取締役会長。一般社団法人 マナー教育推進協会 代表理事ほか。大妻女子大学文学部国文学科(現・日本文学科)卒業後 国会議員などの秘書を務めたのち独立。あらゆるマナーに精通するマナーコンサルタントとして、名だたる企業300社以上のマナーコンサルティングやマナー研修を行う。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、映画『るろうに剣心 伝説の最後編』などのマナー指導やマナー監修も務める。テレビ番組におけるマナー指導などメディア出演は700本を超える。著書は、2003年12月以来、海外を含め95冊以上を出版している。https://www.withltd.com/

※「TPPPO」は、西出博子の登録商標です。

取材・文/赤坂麻実

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