『めざましテレビ』の「きょうのわんこ」ナレーションや、『めざましどようび』を担当するフジテレビアナウンサー・西山喜久恵さん(52歳)。アナウンス室のチーフアナウンサーという管理職として、家庭では妻として、一女の母として忙しい毎日を送っている。
年齢を重ねて、自分自身や家族、後輩との向き合い方、コロナ禍での働き方、人生後半の夢などがどのように変わってきたのかを語ってもらいました。
「やはり年の功ということなのでしょうね」
年齢を重ねて仕事で変わったことは?と尋ねると、ひと呼吸置いて返ってきたのはそんな言葉だった。
「今夏、東京オリンピック・パラリンピックが行われましたが、私はアテネオリンピック(2004年)を取材させていただいたので、今回金メダルをとった女子ソフトボール日本代表についても、宇津木妙子監督の頃から知っています。
今の宇津木麗華監督がどんな人なのかとか、上野由岐子投手が若い頃はどんな投手だったかとか、そんな話を番組の中でほんの少し披露することで話に奥行きが出ると思うのです。スポーツに限らず、そんな積み重ねが番組の役に立てていると実感しています。番組を見ている方の中には、私より上の世代の視聴者の方もいらっしゃるので、そういった方にも共感していただけるのかなと思っています」(西山アナ・以下同)
そんな西山さんがアナウンサーとして日々心がけていることは、新人の頃から変わらないという。
「それは『ありのままで』ということ。いろいろなことを取材して報告する時には、背伸びをして自分以上のものを見せるのではなく、今のありのままの自分で表現できるものをお伝えすることを心がけています。常に自分らしくありたいですね」
コロナ禍だからこそコミュニケーションが必要
コロナ禍の終わりが見えない昨今、テレビ業界もリモートを活用した放送など「新しい放送様式」の試行錯誤が続いている。西山さん自身は、仕事で変わったことはどんなことだろうか。
「テレビに出ること自体は何も変わらないのですが、そこにたどるまでの打ち合わせなどがリモートになっていますね。なにより以前は仕事が終わってアナウンス室に戻り、他のメンバーたちとああでもないこうでもないとみんなで楽しい話をしながらくつろぐ時間があって、後輩たちからいろんな悩みを聞いたり、逆に私たちが若い時は先輩に相談することによって何かヒントをもらえたりしていたんです。
でも今はそれができないので、後輩たちに関して気づいたことやよかったと思うことがあればちょっとメモしておいたり、心の中に溜めておいて、会った時に『あれよかったね』とか、『あの時どうしたの? ちょっと大変そうだったね』なんて話を意識してするようにしています。
今、コミュニケーションをとることがすごく難しくなっていると思うんです。でもそこはオンラインでも、努力すればなんとかなるはず。その努力をしてないからコミュニケーション不足になるのではと最近痛感しています。何か気がついたことがあれば何らかの方法で相手に伝える、そういったことは惜しまず、やっていけたらなと思っています」
若手の後輩たちからも「きくさん」
実は今回取材の調整をしてくれた広報担当の春日由実さんも以前はアナウンサーとして活躍し、西山さんとはもう20年以上の間柄。西山さんは春日さんから「きくさん」と呼ばれていて、2人の長い付き合いと信頼関係を感じ取ることができる。聞けば春日さんだけでなく、アナウンス室の若手の後輩からも同様に「きくさん」と呼ばれているそう。そう呼びたくなる西山さんの気さくな雰囲気が伝わるエピソードだ。
そして西山さん、春日さんも“ワーママ”で、他にもフジテレビのアナウンス室には、ママアナウンサーがたくさんいるとのこと。実際、子供の体調が急に悪くなった時などは、ママアナ同士で仕事をフォローし合うこともあるという。
「アナウンス室には女の子のママも多いので、代々おさがりの文化があるんです(笑い)。私も先輩からいただきましたし、後輩にも(おさがりを)もらってもらっています。みんな本当に丁寧に着てくれるんですよね」
チーフアナウンサーという管理職という立場上、入社したばかりの新人アナと向き合うことも少なくない。そんなときの対応にも“きくさん”らしさが出ている。
「今、入ってくる新人アナには、『私もこのぐらいの年代の子供がいてもおかしくないわね』と思いながら向き合っているのですが、そんな彼らに対しても上から物を言うのではなく、新人なら新人の目線に立ってあげることを意識しています。私からアドバイスを言うことも簡単なのですが、まずは一緒に、ある意味横に並んで、同じ目線になって話をするように心がけています。これは私に子育ての経験があったからこそだと思っています」
おっちょこちょいの頼りないママでごめん!
夫と一人娘という3人家族の西山さんだが、コロナ禍での仕事、家庭、自宅でのテレワークという新しい形は、気持ちの切り替えが難しいと語る。
「テレワークだと、なかなか仕事モードに切り替えるのが難しいなと思っています。私の場合、スタジオに行くこと=仕事へ切り替わるタイミングなので、そこでスイッチを入れ替えていますね。だから会社に行ったら家のことはすべてを忘れるくらい仕事モードになります。
反対に仕事場から家庭は、家に戻っていく途中で、『お米、買っとかなきゃ』なんて考えながら、帰るまでにだんだん家庭モードに変わっていく感じです。
最近は娘が成長とともにしっかりしてきて、友達のような親子関係になってきました。娘も自分で考えて行動できるようになってきたので、言いきかせたり怒ったりすることはなくなりましたね。むしろ『もうママったら~!』っていうような、『おっちょこちょいでちょっと頼りないママでごめんなさい』っていう感じです」
目からウロコのボイストレーニング
忙しい毎日でも、コロナ禍ではどうしても自分と向き合う時間が長くなるもの。西山さんの場合は、仕事上の“命“でもある「声」と向き合った。
「私の声はまだまだ甘い――滑舌も含めて音の出し方が甘いなと思うことがあったんです。先輩から、ボイストレーナーの方の噂を聞いていて、実際、行ってみたらもうそれこそ目からウロコの連続で。
私が習っている先生はオペラ歌手の方なので、アナウンサーの発声とはまったく違うアプローチなんです。本当にすべてが勉強で新鮮。とかくアナウンサーは声をしっかり出しなさいと言われてきましたが、その先生の練習方法は15分ぐらいずっと呼吸。鼻から吸って口から出すっていうところから始めて、その後やっと声を出すのですが、そこから間違っていたんだって知りました。
すごく謙虚になれましたし、この歳で新たに挑戦して、もう1回勉強し直して良かったなと思っています」
死ぬまでやりたい!?『きょうのわんこ』のナレーション
アナウンサーとはいえ会社員の西山さんは、いずれ定年退職することになる。“人生100年”といわれ労働年数が長くなっている今の時代、どんな形で仕事を続けるのか、それとも終わらせるのか――人生後半戦の夢はあるのだろうか。
「ナレーションがもっともっとうまくなりたいんです。『きょうのわんこ』のナレーションについてはスタッフともよく死ぬまでやりたいねって話しているんです。冗談で、『今日、西山さん録音に来ないね』って言っていたら、『あれ?(死んでた)』って(笑い)。
変な話ですけど、それくらいまで頑張れるものなら頑張りたいよねって話しています。制作スタッフ2人も私よりちょっと年上なのですが、ずっとこの3人で続けているので、このまま頑張りたいねとはいつも言っていて、これは私のライフワークとして続けられるならずっと続けたい。そのためにもしっかり声を作っておかないといけないなと思っています」
◆西山喜久恵(にしやま・きくえ)
1969年6月22日生まれ。広島県尾道市出身。上智大学文学部英文学科卒業。血液型AB型。1992年フジテレビ入社、アナウンス室チーフアナウンサー。担当番組は、『めざましどようび』(毎週土曜6時~8時30分)、『めざましテレビ(きょうのわんこ・ナレーション5時25分~8時)ほか。
撮影/宮本信義 取材・文/田名部知子