感染症専門家で白鴎大学教授の岡田晴恵さん。
多忙な日々を乗り越えて来られたのは出演者やスタッフたちの支えだったと岡田さんは語ります。
最新知見で答えるために放送直前まで準備
メディアで新型コロナへの注意喚起を発信し続けている岡田さん。心掛けていることは、「そのときのベスト」を尽くすことだという。
「感染症はそのときの状況などによって変わってくるため、最新での知見で答えます。そのためには毎日、膨大な論文を読まなければいけません。パソコンを持ち歩いていつでもどこでも仕事をするので、睡眠時間以外はほぼ仕事漬けです。たまーに親しい人に電話して雑談をするのが素に返れる私です」(岡田さん・以下同)
質問に対して正直に答えたことも
そこまで最新情報を集めていても、即答出来ない質問が飛んできたことがある。
「昨年7月、熊本県で豪雨災害がありました。報道番組の生本番で“避難所ではコロナの感染をどう防げばいいですか?”とアナウンサーに聞かれました。別の番組でも同じことを聞かれましたが、テレビで中途半端な情報を伝えるわけにいきませんから、すぐに答えることができませんでした。避難所で飛沫やエアロゾルで感染する呼吸器感染症を防ぐのは、事前対策無しでは困難ですよね。
これではいけないと思い、4か月後に『感染しないひなん所生活』(フレーベル館)を出版しました。イラストの多い児童書にして、誰でも理解しやすくしました。この本は今、無償公開しています。9月は台風の季節ですから、スマホで誰でも無償で読めます。利用してください。9月末までとなっていましたが、状況次第で公開期間は延長します」
https://froebel-kan.tameshiyo.me/9784577049433
最善を尽くしても、発言が批判されることも少なくない。それでも発信をやめないのは、感染を拡大させたくないという強い信念からだ。
励まされた手作りのおにぎり
矢面に立つことがあっても、出演を続けられたのは、他の出演者やスタッフさんの助けがあったからこそ。岡田さんは、周囲への感謝を口にする。
「人とのつながりが私を支えてくれました。大学だけでは出会えない方々とお話をしていると世間が広がります。現場のディレクター、プロデューサー、タイムキーパーの方、メイクさんの方々、皆さんに仲良く助けていただきました。
食事が喉を通らなくなった時、あるディレクターの方が、“味がついているから食べられないのかも”と、薄塩のおにぎりを作ってくれました。その気持ちがすごく嬉しかった。色んな方に助けられています」
学生が「先生、痩せたもん」
岡田さんは大学でも支えられているという。学生の優しさに思わずジーンと来たこんな出来事があった。
「2、3年生くらいの男子学生さんに、おにぎりをもらったことがあるんです。自分で自炊して作ったおにぎりとコンビニのお味噌汁でお昼をしている学生さんがいて、彼が“先生に1個おにぎりあげる。だって先生、痩せたもん、食べてって、無理しないでって”。これにはまいりました。逆ですよね。ちょっと泣きました。
一緒にいただきました。人に助けられて生かされているんです。だから、こんなに大変な仕事をこなせるのでしょうね」
◆白鴎大学教育学部教授・岡田晴恵さん
医学博士。専門は、感染免疫学、公衆衛生学。共立薬科大学(現慶應義塾大学薬学部)大学院修士課程修了。順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退。アレクサンダー・フォン・フンボルト奨励研究員としてドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所に留学、国立感染症研究所研究員、日本経団連21世紀政策研究所シニア・アソシエイトなどを経て、現職。主な著書に『知っておきたい感染症』(ちくま新書)、『新型コロナ自宅療養 完全マニュアル』(実業之日本社)などがある。https://hakuoh.jp/pedagogy/119
撮影/五十嵐美弥 取材・文/小山内麗香 ヘアメイク/boyTokyo 滑川彩香