適応障害のため、5月26日に芸能活動休止を発表していた女優の深田恭子さん(38歳)が復帰、9月から活動をスタートさせています。適応障害は皇后雅子さまが長年患っておられるため、「そんなに早く治るもの?」「どんな症状なの?」とネットなどで疑問が飛び交いました。
コロナ禍で増えているという適応障害について、精神科医の片田珠美さんに解説してもらいました。
うつ病と適応障害の違いとは?
「適応障害はストレスに対処できずに、心身にさまざまな症状が出現する病気です。精神的な症状としては、不安、気分の落ち込み、イライラ、不眠。身体的な症状は吐き気、動悸、めまい、腹痛、頭痛、ふらつき、全身倦怠感など多岐にわたります。内科や耳鼻科などで検査を受けても異常がなく、メンタルの問題ではないかと精神科に来ることが多いです」(片田さん・以下同)
うつ病と適応障害の境界線はあいまいで重なる部分もありますが、適応障害のほうが環境の要因、外部のストレス因子の影響が大きいそうです。
「適応障害を発症する場合は原因がわかりやすい。薬を処方することもありますが、多くの場合、そのストレス因子を減らして、上手にストレスを発散することで、症状は改善します。たとえば仕事が原因だった場合、患者さんに職場と相談してもらいストレス因子を減らしてもらうことがあります。
それでもうまくいかない場合は、ストレス因子から距離を置くために医師が“休職加療を要する”と診断書を出してお休みいただくこともあります」
適応障害はどれくらいの期間で治る?
適応障害が治る期間は、ケースによって大きく異なります。
「基本的には3か月~1年で治る人がほとんどです。ストレス因子をしっかり取り除くほど、早く回復します。深田恭子さんの場合は3か月余りで仕事に復帰ました。ストレス因子が解消されたのでしょう。仕事が忙しすぎたという報道もあったので、休養できたのもよかったのかもしれません。
雅子さまのように適応障害を長く患うことがないわけではありません。しかし、ストレス因子を取り除くと病状が改善することが多いので、雅子さまに対して、うつではないかという指摘もありました。皇室のさまざまな環境がストレス因子の場合、離れることができないため、長引いてしまっているのかもしれません」
新型コロナの影響で適応障害が増えている4つの理由
「コロナうつ」という言葉が生まれるほどコロナ禍でうつ病を患う人が増えていますが、それは適応障害も同じです。理由は4つあるといいます。
「まずは、経済的な不安が強くなっていること。仕事のシフトを減らされた、休業を余儀なくされた、勤務先がつぶれそう、借入金が増えている、など。経済的な不安はストレスになるので、適応障害の要因になっています。
2つめは、コロナ禍でやるべきことが増えたこと。特に飲食業は、徹底した感染対策をしながら接客をしなければいけません。自治体などへの提出書類も増え、時短などの要請に従わないと行政からにらまれるかもしれない。クラスターが出たら大変なことになる。客もイライラしているから、従業員に暴言、暴力を振るうなどが報道されていますね。これでは従業員は神経をすり減らします」
コロナ禍での環境の変化も原因に
それだけではありません。テレワークなど新しい働き方が原因となるケースも。
「コロナによって職場環境が変化したことも関係しています。テレワークが導入されましたが、それがストレスになる人もいます。パソコンが苦手、家に子供がいて集中できない、など。“夫が在宅ワークで、ずっと家にいるとしんどい”、という妻の声も多い。
3食作らないといけないし、夫から家事について文句を言われるし、かといって家事をやろうとしない。家庭のストレスで適応障害になる人もいます。
そして、ストレス発散の手段が減ったこと。誰でも大なり小なりストレスを抱えていて、ストレスを解消しながら生きています。しかし、コロナ禍で自粛を要請され、外出を控えなければいけない、外食でお酒も飲めない、人と会っておしゃべりもできないなど、ストレス発散の手段が減っています。
そもそも適応障害になるのはストレスへの対応がうまくできない人が多いので、より患いやすい環境になってしまっています」
オンラインでの”おしゃべり”でストレス解消
以前より楽しめなくなった、眠れない、イライラする、など兆候が表れ出したら、意識してストレス解消に努めましょう。
「おしゃべりも立派なストレス解消法です。直接集まりにくいので、オンラインでおしゃべりするのがおすすめ。お酒が好きならオンライ飲み会もいいですね。幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンを増やすことで、やる気や幸福感が上がるので、朝日を浴びながら散歩をしたり、運動したりするのもいいですよ」
適応障害になったら、前述のようにストレス因子を取り除くなど、治療が必要になってきます。まずはそうならいためにストレスをためない意識が大事と言えそうです。
◆教えてくれたのは:精神科医・片田珠美さん
大阪大学医学部卒業。フランス政府給費留学生としてパリ第八大学でラカン派の精神分析を学ぶ。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。『子どもを攻撃せずにはいられない親』(PHP新書)、『一億総他責社会』(PHP新書)など著書多数。https://twitter.com/tamamineko
取材・文/小山内麗香