まだ起きてもいない、予兆もないようなことに対して漠然とした不安がある。そのせいで、今を精一杯楽しめない――。そんな思いにとらわれるかたもいるでしょう。
『あれこれ気にしすぎて疲れてしまう人へ 精神科医30年のドクターが教える傷ついた心の完全リセット術』(徳間書店)でお金の不安、人間関係、仕事のストレスなどから解放される方法を解説した精神科医の清水栄司さんにヒントを教えていただきました。
自分を客観視することで不安が軽くなることも
「もし目の前のことにピンポイントで不安があるわけではなく、『なんとなく不安』といった漠然とした不安を抱えているなら、対処法があります」と、清水さんは話します。
それは、「不安になっている自分」を客観視することだそうです。詳しく伺ってみましょう。
「例えば、あるニュースで、誰かの家が災害級の大雨で浸水した現場を見たとします。それを受け、『うちの家も大雨で浸水したらどうしよう』と不安になったとしましょう。あなたにとっては、深刻な不安かもしれません。
しかし、周りからは、『まだ起きていないことだし、他のことが手つかずになるほど心配することはないのでは?』と、そこまで深刻に思われないかもしれません。共感されないことは残念ですが、その周りの人の視点をいかしてみましょう。
イメージとしては、不安をあおってくる新手の詐欺師の話に耳を傾けないように、周りの人から助言を受けること。不安を『外在化』するということで、自分の心のうちにある不安に対して、『不安詐欺師』のような名前をつけるのです。そして、『不安詐欺師がまた来て、自分をだまそうとしている。知らんふりしよう』というふうに考えてみるのです」
また、不安になっている自分を、他人になったつもりで客観視することもポイント。例えば、もう一人の自分になった気持ちで、上から自分(=彼女)を見てみることです。
「上から自分(=彼女)を眺めていると、彼女は、自宅の浸水が心配だと言っていますが、不安に感じながらも、三食ごはんを食べ、お風呂に入って、夜は寝ている。その様子だけ見ると、とうてい彼女は、不安そうには見えない。そこで気づくのです。実際に自分では不安だ、不安だと思っていたことは、周りの人から見れば気づかれないレベルなのだと」
紙に書き出してみるのも有効
さらに、自分を眺めている様子を想像して、それを紙に書き出してみるのも、有効です。同様に、今不安に感じていることも紙に書き出して、数時間、あるいは数日経って眺め返してみると「どうでもいいことで悩んでいたな」と感じるかもしれません。
何度確かめても不安に感じる人は
一方で、戸締まりやガス栓を何度も何度も確認しないと不安で、それによって日常生活に支障が出ている人もいます。これは、「強迫症」という病気の可能性があると、清水さんはいいます。
客観視して考え方をチェンジする
「強迫観念の根底には、『自分のせいで万が一、火事が起きて、死傷者が出てしまったら、人様に顔向けができない。自分で対処できる火の確認、用心が少しでも役に立つなら、いくらでも時間をかけて念入りにやっておこう』といった、『強すぎる責任感』の問題があるとされています。ただ、それで一緒に出掛ける家族を待たせたりしていては、かえって人に迷惑をかけ、本末転倒です。『自分が何度確認しても不安は消えないし、いいこともない』という事実に気づきましょう。
その事実に気づくには、やはり、前述のように、もう一人の自分になった気持ちで自分を客観視することが有効です。『大規模火災になったら、どう責任をとるんだ』と因縁をつけてくる強迫観念は、新手の詐欺師だと思って相手にせずに、『一度確認したら、放っておけばいい。それで不安も減り、いい方向に向かっていく』と考え方をチェンジしてはいかがでしょうか」
不安をなくすことは難しくても、不安を標準レベルに軽くすることは十分可能です。その第一歩が自分を客観視すること。早速今日から始めてみましょう。
教えてくれたのは:精神科医・清水栄司さん
千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学教授、医学部附属病院認知行動療法センター長、子どものこころの発達教育研究センター長も務める。千葉大学医学部卒業。 千葉大学医学部附属病院精神神経科、プリンストン大学留学等を経て、現職。著書に『自分でできる認知行動療法 うつと不安の克服法』(星和書店)などがある。