ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、“アラ還”で感じたニュースな日々を綴る。
8月から、茨城の実家で93歳「母ちゃん」の介護を開始したオバ記者。要介護5の母ちゃんは、今では外を歩けるまで回復しました。元気になったのはよかったけれど、新たな“問題”が…。オバ記者が綴ります。
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故郷の秋が面白くてたまらない
しかしナンだ、人はどこかでツケを払うことになるんだねと、毎日、思いつつ帰省介護をしている私。
20代後半で離婚してその後、仕事と博打と旅に夢中になった関係で、子育て、再婚、スルー。64歳の今まで毎日、誰かのためにご飯を作ったことがなかったんだわ。自分の食べたいものは、自分で作るしかないから、基本、自炊だけど、台所に立つのがイヤな日は近所の食堂で適当に。それが1か月くらい続いたとて、何も困ることはない。まあ、こういうのを茨城弁では「野良ぼ」って言うんだけどね。超かっこつけて言うと「無頼派」? キャ〜ッ、恥ずかしい。
ともかく18歳で故郷を離れてから実家に2泊以上したことがない。だからしみじみと故郷の風景を眺めたりしたことがなかったのよね。だからわが故郷の秋が面白くてたまらない。
ある日の夕方、農道を原チャリで走っていたら、コンバインで黄金色の稲を刈っていたの。コンバインの後ろにまっ白い大きな鳥がふわりと降りて何かをついばんでいる。10羽の鳥が2羽ひと組になって、交代で入れ替わり立ち代わり。
「なんですか、これは?」
驚いてSNSで発信すると、「それは白鷺が、コンバインに驚いて飛び跳ねるバッタなどの虫を食べているんです」とふたりから返事がきたの。ふたりとも生態系に詳しいようなイメージがなかったから、これまたビックリよ。
それと比べたら、可憐な白い花が密集する蕎麦畑の方は、見覚えがあって「ああ、もうこんな季節か」といった感じ。茨城が蕎麦粉の一大産地だってこと、あんまり知られていないんだけどね。
母ちゃんは”自力”で縁側に座れるように
ここのところ、母ちゃんは絶好調で気分が良ければ家の前をお散歩。以前は車椅子に乗せて、レンタルしているスロープを使って庭に降ろしていたのに、今は縁側までベッドのふちや障子のサンにつかまり歩きして、ちょっと後ろから支えると縁側に座れちゃう。
そうなると気になるのが身だしなみで、「クシはねえのか。鏡は?」とか、「アダマ(髪の毛)を切りでぇ」とか。それはまあ、いいとしても、頭にくるのが何かと私に指図をしだしたこと。
枝豆の茹で方にいちいち注文を…
たとえばご近所のおばあちゃんがから茹でた枝豆をいただいて、食べたら美味しかったの。それを伝えたら「引っこ抜いでくれればやっと(あげるよ)。採りにこうよ」と声をかけてくれたの。
枝豆って、要するに大豆なんだけどさ。ぶっとい幹がしっかりと大地に根を張っていて、簡単には引っこ抜けないんだって。前に後ろに動かしながらようやく3本抜いて家に持って帰ったら、「はあ(早く)、豆取っちめ」と母ちゃん。「はあ(もう)、めんどくせがら(面倒くさいから)、ブヅブヅ切っ飛ばしちめな」と、私がネットで枝豆の茹で方を調べていると、うるさい、うるさい。
「いや、母ちゃん。枝豆のさやの両側をちゃんと切らねぇど、茹でだどきで塩っ気が入んねぇんだよ」と、ベッドの母ちゃんにネットの画面を見せながら説明してやるんだけどさ。
「そうたごとしてだら、日が暮れで、夜が明げっちま」と一歩も引かないの。
「ああ、そんなことを言うなら、自分でやれ!」と、喉元までこみ上げてくるよ。
「押し付けがましさ」「頑固さ」も元通り!?
その翌日は、幼なじみE子が「いっぱいもらったんだよ」と栗を持ってきてくれたの。
こういう時は母ちゃん、遠い耳が治るから、危ないったらない。一時期、和風マロングラッセ作りに凝ったことがある母ちゃんは、栗むき包丁を持ってた。「それを探せ」「使い方を教える」なんて言い出しかねないのよ。
母ちゃんが日に日に自分を取り戻してくれたことはうれしいんだけど、母ちゃんの押し付けがましさや、頑固さまですっかり元通りになると、ついついこっちも大きな声が出るのよね。
それに腹立つことに、最近、母ちゃんは私に対して”上から目線”なんだわ。その話はまた改めて。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。
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