明るく元気な笑顔がトレードマーク。“シェフ料理”ではなく“シュフ料理”をモットーに長年活動を続ける料理愛好家・平野レミさん。数々の「伝説のレシピ」を生み出してきた、レミさんが考える料理の魅力とは?
料理は1+1+1が100にも1000にもなる世界
「それを聞かれると困っちゃう。料理が大好きなの! 仕事も趣味も料理よ」
レミさんに趣味をたずねると笑いながらそんな答えが返ってきた。
「包丁を持ってトントンやってるのが大好きで、1日中台所に立っていた日が昔はよくありました。料理の魅力ってね、いろんな素材や調味料を合体させると、1+1+1が3にならないで、100にも1000にもなっちゃうところ。それが算数の世界と料理の世界の違いね。おいしくできたら、その時の幸せってないもんね。“お料理の算数”は最高よ」(レミさん・以下同)
レミさんは、どんなに忙しくても毎日自炊するのが当たり前。時間がない人でも、できれば総菜やレトルト食品に頼らないでほしいと言う。
「たまにはいいんだけどね。自分が作ったのは安心できるし、手作りのほうが心が入るしさ、やっぱり味も違うのよね。家族がいる人は特に、できるだけ自炊をしてほしいかな。そして、家族そろって食べるのが理想よね。
私は夫の和田(誠さん、イラストレーター)さんが亡くなって、ひとりぼっちになっちゃったけど、なるべく誰かと食べるようにしているの。作ったものを息子のところに持って行って、一緒に食べたりね。一人の食事はむなしいから。
でも、仕方がなく一人で食べる時には音楽をかけて、ワインを飲んで、和田さんに話しかけるんです。“今日は私、一人ぼっちだよお父さん”って。そんな感じでやってます」
料理はにぎやかさを重視して立体的に
レミさんの料理には、奇抜すぎて度肝を抜かれるものも多い。土台のキャベツに串刺しにしたきゅうりやトマトを生け花のように刺す「お祭りきゅうり」。木のように立てたブロッコリーにソースをかける「まるごとブロッコリーのたらこソース」など。そんな、目でも楽しめるオリジナルレシピは、どのように考案しているのだろうか。
「私は不精で気短だから、パパッとできておいしい料理を考えるのが得意ね。それに、テーブルも少し派手に。お皿の中の魚が寝ていたり、ブロッコリーが小房に分けられているより、テーブルが立体的にボコボコになっているほうが面白いでしょ。
よくテーブルの真ん中にお花を飾ったりするけど、私はお花の代わりに、魚とかブロッコリーを立てて立体的な料理にするの。そのほうが食べられるし楽しいじゃん(笑い)」
レミさんの生涯忘れられない味
数多の料理を生み出してきたレミさん一押しのレシピは、平野家伝来の「秘伝・牛トマ」だという。
「私が昔から作っている、超カンタンでおいしい料理です。オリーブオイルで炒めたトマトに、沸騰したお湯でしゃぶしゃぶした牛肉を加えて、さらに一緒に炒めながら塩、こしょうで味を調えます。バジルを散らして、お好みでサワークリームをのせたら完成。目をつぶっていても作れちゃう(笑い)。トマトは生で食べるより火を通した方が、栄養が吸収されやすいんですって」
いくつものアイディア料理を生み出してきたレミさんだが、忘れられない味は自身が作った料理ではないという。レミさんが振り返る。
「45年前、12時間くらい分娩台で唸ってやっと長男の唱(和田唱、「トライセラトップス」ボーカル)を産んだら、そのまま寝ちゃったのよ。目覚めたら誰もいなくて、枕元におにぎりと番茶があったの。そのおにぎりが、今まで食べた何よりもおいしかった。
子供を産んだ達成感、満足感、幸福感がスパイスになっていたのね。中に梅干しが入っていただけのシンプルなおにぎりだったけど、そのおいしさに勝るものは未だにないよ。
食事っていうのはさ、心の中にあるいろんな気持ちが、その料理をすごくおいしく感じさせるんだって、そのときに思ったの。高価だからいいわけじゃないよね。そういう料理を作っていきたいし、これからも食べたいよね」
◆料理愛好家・平野レミさん
東京都出身。日航ミュージックサロンで歌手デビュー。1972年にイラストレーターの和田誠さんと結婚し、出産後は育児に専念するため歌手活動を休止。その後は料理愛好家として活動、明るい性格とユニークなレシピで人気に。多機能鍋「レミパン」などのキッチン用品の開発、特産物を使った料理で全国の町おこしなどにも参加。テレビ、ラジオ、講演会などマルチに活躍中。
◆和田誠展
2021年10月9日(土)~12月19日(日)/東京オペラシティ アートギャラリー(東京・新宿区)https://wadamakototen.jp/
取材・文/小山内麗香