ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、今年8月から茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護について綴る。ほとんど寝たきり状態だった要介護5の母ちゃんは、今では歩行器を使って外を歩けるまでに回復。しかし、母ちゃんが言うことを聞いてくれず、イライラをぶつけてしまうこともあるというオバ記者。先日、つい声を荒らげてしまったといいます。
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電気毛布の温度をめぐって口論
介護は人を変える? いやいや仮面の下から“す”の私が出てきたのかしら。93歳の母ちゃんに生涯一の怒声をあげた。
夜、寝るときになって、電気毛布が暑くてたまらないと言う母ちゃん。
「ああ、そうか。シーツを取り替えたときにスイッチを動かしちゃったんだ。いつもの温度に直すよ」とスイッチを直したのに、すぐに温度が下がらないことにイラついた母ちゃんは、「気持ち悪くて寝られね! こうたのいらね。(こんなのいらない)はあ、消しちめよ!」と大声を張り上げた。
「消したらダメだっペヨ。今までこれで温めているから寒くなかったんだよ」と、私は繰り返し説明したけど、こうなった時の母ちゃんの頑固さは手がつけられない。
激怒してスイッチをOFFに!
ああ、ああ~、ああああ~ッ! ぷっつん…母ちゃんに輪をかけた大声で私は、「はあ、消しちまよ! 消しちまよ! 消しちまよおおー!」とクレッシェンドで絶叫。そして、本当にスイッチをOFFにしたわよ。
断熱材の入っていないわが家は、日が落ちると外気温とほとんど変わらなくなる。寒いというより、痛い。特に布団から出ている頭は毛糸の帽子をかぶっても頭皮が冷えるんだわ。
その夜、茨城の山間部はこの冬いちばんの冷え込みで、母ちゃんのベッドは庭のすぐそば。そこにポリエステルの毛布2枚だけかけて寝ているの。昔、私が買ってやった羽毛布団は「でがくて(大きくて)ヤダ」だって。
電気毛布のスイッチを消した私は黙ってベッドから離れて、自分の布団に潜り込んだものの、出したことのない自分の大声に興奮して眠れやしない。なのに母ちゃんは、すやすや寝息をたてだしたわ! ああ腹が立つ。
ここで私まで寝たらどうなるか。夜中に寒さで母ちゃんが起きればいい。寝たまま風邪をひいたら、それが元で肺炎を起こしたら…チクショ〜。悔しいけど起き出して電気毛布のスイッチを入れたわよ。
それで終わりにすれば私も大人なんだが、翌朝、いつものようにホットタオルを渡しながら、「寒くなかったが?」と蒸し返して、再び電気毛布の強弱で軽くやりあっちゃった。
あ~あ、何でも真に受けるのが私の悪いくせ。最初に母ちゃんが騒ぎ出したとき、「スイッチ、消したよ」と言いつつ、いつもの温度にしておけばよかったの。相手は年寄りだ。右から左に聞き流せばいい、ってそれが出来ない。
「あはは。『消しちまよー』が? ああ、おかし」
トイレ介助をしている私に母ちゃんは声をあげて笑った。仲直りしたいというサインだけど、それがまた頭にくる。悪いと思ったら、間違えたと思ったら、笑って誤魔化すなッ。謝れ。
3か月の介護生活で「険しい顔」に!?
3日、3か月、3年というけれど、里帰り介護を始めて3か月。疲れが出てきたのね。先日、病院からお許しが出て久しぶりに上京したら、幼なじみのT子ちゃんが会うなり、「険しい顔しちゃって!」と言って顔を背けるんだわ。
以前、万引きGメンを取材したとき、「万引きした人は顔でわかる。独特の殺気が漂っているのよ」と言っていたのを思い出した。乳児を連れたママが万引きすると、万引きした瞬間、乳児が火がついたように泣くとも言っていたっけ。
だとすると老親を怒鳴りつけた女も、顔に出るのかもね。「聞き流せばいいじゃない」と、それはわかっている。しかし、日々、“大”の始末に明け暮れ、食事を中断してお尻拭き。あげく理不尽に怒鳴られて聞き流す? そういう人に私はなれません。