母親への6年半の介護生活を送ってきた歌手・タレントの新田恵利さん(53才)。介護者の多くは、溜まっていくストレスに悩まされますが、新田さんはどのようにストレスを解消してきたのでしょうか? 自らの介護経験を綴った『悔いなし介護』(主婦の友社)を出版した新田さんにうかがいました。
ストレスを溜めないためにブログで「言いふらす」
骨折をきっかけに母親が寝たきりになり、右も左も分からないまま始まった介護。
「初めは頑張りすぎた反動で母に強い言葉をぶつけることもありました。寝た切りで逃げ場のない相手にひどいことをしたと、自己嫌悪の嵐です。それが嫌だったので、責めたい気持ちがこみ上げると急いで母の部屋から出て、自分の部屋に駆け込みました。そして愛犬相手に、『クソババア!』って(笑い)」(新田さん・以下同)
我慢を重ねて介護を頑張りすぎてはいけないことは、失敗による学びの上にあった。
適度に肩の力を抜いた
「強いストレスを感じる時は、『こんなに頑張ったのに!』と努力が報われないときだったので、適度に肩の力を抜きました。それでも介護に疲れたときには、母と暮らしてくれていた兄に任せて、友達と旅行に行っちゃいました(笑い)
私のように長時間家を空けられない方もいらっしゃいますよね。その場合は、短時間でも介護から離れることが大事です。喫茶店でも美容院でも図書館でもいい。気分をリフレッシュすることで、また要介護の方を支えることができます。
家から出られない場合、手近なストレス解消法として私がしていたのは、バスタイムを利用すること。いい香りの入浴剤を入れたり、好きな音楽をかけたりして、リラックスできる空間に変えました。食事や飲み物をちょっとリッチにするなど、自分へのご褒美で身心をリフレッシュする手もあります」
夫には「聞いてくれるだけでいい」
重要なのは、ストレスを一人で抱え込まないこと。新田さんのオススメは「言いふらし介護」。自身も夫に愚痴を聞いてもらったり、ブログに介護の体験を書き始めたりした。
「長年続けているブログに、介護の悩みや本音を書き始めました。すると反響があって、『恵利ちゃんが頑張ってるから、私も介護を頑張る』という声があり、私も力をもらえました。
夫に介護の話をしていると、初めのころは良かれと思ってアドバイスが返ってきました。するとイライラしてしまうことがあるので、『聞いてくれているだけでいいの』と伝えました。なあなあにしてしまっては逆効果、意思表示をすることも大切です」
きょうだいの役割分担は早めに決める
介護をきょうだいで分担できたことも、負担の軽減につながった。二世帯住宅では、2階に新田さん夫妻、1階には母親と兄が暮らしていた。
「兄は長男だという思いがあって、仕事を辞めて母と一緒に暮らしてくれました。ケアマネジャーとの打ち合わせや介護の実務は兄に任せて、私は食事作りや医療費を担当して、きょうだいでうまく役割分担ができました。
でも一般的には、介護をするきょうだいの役割分担で揉めてしまうケースも少なくなく、よく相談を受けます。どうしても親のそばにいるきょうだいのウエイトが上がってしまうんです。よく言っているのは、近くにいる人は実際に親を支え、遠くにいる人はお金で援助。どちらもしない人は口も出すな、ですね(笑い)」
きょうだいに感謝の意を示すことが大事
トラブルになるのは、金銭面と精神面、どちらの要因もあるという。
「例えば、離れて暮らしている場合、親に3万円のお小遣いを渡すのであれば、2万円を親に渡して、1万円は実際に介護している人にあげてほしい。これで好きなもの食べて、ストレス解消して、いつもありがとうね、と言われると『頼まれている』と思えます。それがないと、『押し付けられている』という気がしてしまいます」
介護仲間が集まれる場を作りたい
近くに介護をしている友人がいる場合は、その要介護の親にプレゼントを渡すことも、友人の励ましになると新田さんは話す。
「母が埼玉生まれ埼玉育ちなので、狭山茶が好きなんです。それを知っている友達が、新茶の時期になると、狭山茶を送ってくれました。友達が私の親を大事にしてくれるって、私がプレゼントをもらうより嬉しい。私も、彼女のお母さまにお洋服を作ってプレゼントしました」
こうして新田さんは6年半の介護をし尽くした。しかし一般的には、終わりが見えない介護が不安になり、うつになるなど心に不調をきたすケースも少なくない。
一人で抱え込まないでほしい
「どうか、一人で抱え込まないでほしい。リアルなコミュニティーの場もありますし、SNSで簡単に仲間を見つけられる時代です。私もこれから、みなさんとお話ができる場を作ろうと考えています。そこでは何を言ってもいい。クソババアでもクソジジイでも(笑い)。
毒を吐き出してしまえば、また人に優しく接することもできます。大変だよね、一緒に頑張ろうね、と共感してもらう仲間がいるだけで、気持ちが違いますよね。私もいずれそんな場所を作りたいなって思っています」
◆歌手・タレント・新田恵利さん
歌手・1968年3月17日生まれ。埼玉県出身。1985年、おニャン子クラブの会員番号4番として一躍人気を博す。翌年『冬のオペラグラス』でソロデビュー。その後、歌手、タレント、女優、作家として活動。2014年に実母が要介護4と認定され、今年3月に亡くなるまでの6年半の介護生活を綴った『悔いなし介護』(主婦の友社)を10月に出版。介護経験を各地で講演している。https://ameblo.jp/nittaeri/
撮影/浅野剛 取材・文/小山内麗香