夫のためと思って伝えているのに、夫がそれを受け入れてくれず悲しくなったことはありませんか? そんな夫が素直に従ってくれる方法がもしあったら…。ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、夫が妻の忠告を聞いてくれない理由、そしてそんな夫への対策を教えてくれました。
【相談】夫のためのお願いをしても、夫は言うことを聞いてくれません
夫はよく食べ、よく飲み、タバコも吸うため、メタボで不健康。何度注意しても生活習慣を改めてくれません。健康診断では要注意項目はあるものの、決定的な病気になっていないためわかってくれません。もし夫が病気になったら家族が困るので本当に腹が立ちます。どうしたら夫の生活習慣を改善させることができますか。(55才・専業主婦)
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家族が夫に愛着を感じさせていないことが問題?
なぜ、この夫は、言うことを聞いてくれないのでしょう。
本人が健康不安を感じていない以上、家族の都合のために嗜好品を抑止するには、かなりのモチベーションが必要です。
外から、そのモチベーションを刺激するには、いくつかの方法があります。報酬(歓び)のあることなら、報酬をカットすると、脅すことができます。誇りを感じることなら、プライドに訴えることができます。責任を感じることなら、責任感に訴えることができます。
この夫が、言うことを聞いてくれないのだとしたら、残念ながら、妻ほどには、家族に歓びも誇りも責任も感じていないのだと思います。
質問者のかたが、腹を立てているのは、健康生活をしないこともさることながら、夫の「家族に歓びも誇りも責任も感じていない」ことに傷ついているからでは?
私も、主婦の一人として、この気持ちはよくわかります。「糖尿病の夫が、タバコを止めてくれない、甘いものを容易に口にする」無責任さに、あきれ果て、傷ついて、暮らしてきたから。だから、質問者のことを責めたくはないのですが、心を鬼にして、あえて言いますね。
家族が、夫に愛着を感じさせていないことが問題なのです。家族のほうが変わらなければ…。道はそれしかありません。
結果をとやかく言われることが夫にはストレス
ゴール指向(成果主義)の男性脳は、脳の充足感のほとんどを「成果」によって得ます。このため、「結果をとやかく言われること」がひどくストレスなのです。
プロセス指向の女性脳は、結果が思いどおりにいかなかったとき、「ことのいきさつ」が気になって、結果にあまり頓着しません。
例えば、自分が掃除したお風呂に「ゴミが浮いていた」と指摘されたとき、「完璧に掃除したつもりだったのに、何が悪かったのかしら。そうだわ、洗濯物を干していたから、ふたに糸くずがついていたのかな」というように、「ことのいきさつ」を反すうします。成果を台無しにされたとは、思いません。
先日、うちの夫が、息子からこのセリフを言われたとき、「いつも通り、完璧に掃除したから俺のせいじゃない!」と怒り出しました。「とやかく言うのなら、お前がやれよ」とまで。息子は夕飯を作ってくれたのに。
私が、「パパ、お風呂場で洗濯物を乾燥していたから、糸くずが入ったんじゃない? これからは、ふたを開ける人がふたの上に糸くずが乗ってないかどうか確かめればいい。私たちは、パパを責めてるんじゃない。原因を探って、同じことが起こらないようにしたいだけ。家事ってその繰り返しなのよ。なのに何をそんなに興奮してるの?」と言ったら、「俺はそんなふうには考えられない。成果が台無しにされたら、ショックなんだ」と言っていました。
システムエンジニアとして、究極の成果主義で生き抜いてきた夫の“脳の癖”なんだなと理解して、なんだか、かわいそうになりました。
成果を称えて気づいたことをアドバイス
以後、口の利き方を変えることにしました。まずは成果を称えて、気づいたことをアドバイスとして言う。例えばこんなふうに——「お風呂、洗ってくれてありがとう。ぴっかぴか。でも、糸くずが浮いていたの。ふたについていたのかも。せっかくパパがきれいにしてくれたのに、ごめんね。気をつけるね」
チョーめんどくさいけど、多分これ以降、夫自身もふたの糸くずを気にしてくれると思います。言葉一つで、後が楽ってこと。今までだって、たくさんあったから。
というわけで、食べてしまったこと、飲んでしまったことをなじっても、男性は、反発はしても反省はしません。時にはやけになって逆効果なので、なるだけ避けたほうがいいと思います。
「謝ってあげる」「優しく誘う」「がっかりする」の3点セットが効く
糖尿病の夫が、甘いものを口にしてしまったとき、私もついなじってしまうこともあるけれど、必ず「私が先に気づいて、止めてあげればよかった」「甘いものを出しっぱなしにしてごめんね」と言ってフォローするようにしています。
口にしそうになったときも、「私も我慢するから、ここは耐えよう」とか「野菜を先に食べてから、半分だけね。私と半分こしない?」と誘ってみます。それでも、抑止が効かずに口にしたときは、「将来、ずっと一緒にダンスしたいのに、糖尿病がひどくなって足を悪くしたら無理だよね」とがっかりしてみせます。
夫が完全に自制してくれる日はまだ来ていません。とはいえ、ここ10年でメタボは完全に消えて、わずかに血液の検査値の中には、上向いているものも。要注意は、きっと一生続くと思いますが、家族で支えられるところは支えなきゃ。
北風ではなく太陽のような戦略で
来春には孫も生まれるので、しばらく、私たち夫婦が健康で、息子とお嫁ちゃんを支えることがミッションですから。そうそう、最近は、まだ見ぬ孫を引き合いに出すと、めちゃ効果があるので、助かっています。
結果をなじるだけでは、男性脳は頑なになります。北風に吹かれて、コートを頑なに脱がない旅人のように。
けれど、
【1】「夫の失態」を自分の失態のように謝ってあげる
【2】いい方向に誘ってみる
【3】「夫のへの期待」を語ってがっかりしてみせる
の3点セットは、案外、夫を素直にします。コートを見事に脱がせた太陽のように。
私は、「妻の愛、3点セット」と呼んでいます。
動機は、愛じゃなくたっていいんです。単なることばの戦略。でもね、夫が素直に従ってくれたら、きっとあとから「言ってあげてよかったな」と思うはず。愛は後からついてきます。ぜひ、お試しください。
◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
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