「虫」の存在に翻弄され、「人を想う尊さ」を訴えかける
変わった恋物語が展開する本作ですが、根底にあるテーマは普遍的な愛。そこに見い出すことができるのは、“人が人を想うことの尊さ”だと思います。ときに人は誰かに恋をした際、「なぜ?」と理由を求め、簡単に言語化することも難しいものではないでしょうか。誰かを想う理由など、上手く説明できるものではないと思います。それでも人は、理由を求めます。そしてときに、“それらしい理由”に辿り着くことがあるのではないでしょうか。
「一時の気の迷い」は虫のせい?
この“それらしい理由”という漠然としたものが、本作でいう「虫」の存在にあたると思います。例えば、ダメダメな甲斐性なしに惹かれる理由も、「虫」のせいにしてしまえば万事解決。「一時の気の迷いだった」という言葉は、「虫がそうさせた」と言い換えられます。
しかし、一時的で説明がつかないものにせよ、人を想った事実は残ります。「虫」は脳にいますが、人を想うのは心のはず。本作の主人公たちがこのことに翻弄され、激しく葛藤するさまが、“人が人を想うことの尊さ”を強く訴えているのだと思うのです。
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk