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夫が無趣味でつらいのは妻! 定年後の夫婦関係を円滑にするために今からすべきこと

老夫婦
定年後の夫婦関係を円滑にするために今からすべきこと(Ph/AFLO)
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定年退職後は夫婦の時間が増えるもの。ですが、夫が無趣味でずっと家にいたら…。いろんな問題が出てきそうですよね。そこで、ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、無趣味な夫にイライラしてしまうというかたにアドバイス。どんな夫婦にも応用が効く、夫婦の関係性を円滑にするコツを教えてくれました。

【相談】
夫は無趣味で休日もずっと家にいます。コロナ禍の現在はそれでもよいのですが、通常時もずっと家にいられるとなんとなくイライラ。一緒に出かけようと誘っても「出かけたくない」と言います。私は友人と会うなど出かけることもありますが、夫がずっと家にいると思うと、なんとなく気が引けます。こんな出不精の夫をアクティブにする方法はありますか。(48歳・専業主婦)

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男性脳はゴール指向型、目標なしでは動けない?

この質問には、2つの論点が混ざってますね。

問題は、「夫と一緒に出かけたいのに、出かけられない」ことなのか、「夫が家にいると、気が引けて出かけにくいから、やめてほしい」ことなのか。そのどちらなのでしょう。

それぞれにお答えしようと思います。

無趣味の夫。そのまま定年退職されてしまうと、時間を持て余す夫を持て余してしまうことになり、危険です。趣味も仕事もない在宅夫は、食べることだけが「次のゴール」なので、朝から「昼ご飯、何?」なんて聞いてきて、相当ウザいからです。

けんかしている夫婦
「何の話だ?」「結論から言えないのか」という夫も(Ph/GettyImages)
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男性脳は、基本、目標(ゴール)がないと、脳がうまく動かせません。「目標を定めて、そこに向けてどうしていくか」という思考スタイルなのです。会話でも「何の話だ?」「結論から言えないのか」なんて言うでしょう?

女性は無意識のうちに気持ちを語ることから始める

一方、私たち女性は、無意識のうちに、気持ちを語ることから始めたりします。例えば、姑の7回忌の話をしようとして、つい「お父さんの3回忌のとき、お食事がいまいちだったわね。茶碗蒸しが冷たくて…あれ、がっかりしたなぁ」とか、「喪服入るかなぁ。しばらく着てないし」なんて会話から入ることも。夫が「そうだったね」とか、「しばらく着てなくて、幸いだよな」なんて受け止めてくれれば、「そうそう、お母さんの7回忌だけどね」と本題に入ります。

ところが、男性脳は目的のない話をスルーしてしまうので、たいていは生返事。「聞いてるの?」なんて責められて、イラッとしながら「これって、何の話?」「結論から言えないのか」なんて返してきます。

大半の男性脳は、「お母さんの7回忌だけど、どうする?」というふうに、対話の目的から入らないと、脳がうまく回りません。母の7回忌の相談だと分かっていれば、料理の話も喪服の話もちゃんとキャッチできるのに、「妻の気持ちの垂れ流し」だと思っていると、情報がどんどんこぼれて、脳内にキープできないのです。

男性脳の「おしゃべりに使うワーク領域」は、女性脳の数十分の一と言われています。料理や思い出話にひとしきり花を咲かせたあと、「ところで」と切り返して、一気に結論へ向かうなんていう離れ業は、男性にはとても難しいことなのです。

男性は日々の暮らしにもゴールが必要

会社に行って、責務を果たし、家に帰ってくる。その判で押したような繰り返しも、男性脳にとっては、それほど悪いものではありません。定番のゴールを毎日毎日クリアしていく暮らし。ときに失敗があっても、成果の手ごたえがあり、徐々にでも地位が上がっていき、成果(収入)で家族を食べさせているという自負がある。

そのうえ、妻に感謝でもされれば、ゴール指向型の男性脳にとっては、ゲームに興じているようなものなのでしょう。頑張れば、パワーとポイントが上がり、お姫様に優しくされるのと同じだから。

定年退職すれば、その大いなるゲームが終了します。

けんかしている夫婦
細かく聞いてくる夫にイライラ(Ph/AFLO)
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趣味のない男性脳は、目標を求めて、家庭内に目を向けることに。妻の家事の「タスク見直し」をして、「これは効率が悪い」なんて小言を言いだす夫もいるはず。そして、妻が完璧な主婦だったりすると、やることがない男性脳は、「ご飯」を目標にするしかなくなってしまうわけ。で、やっと朝の片付けが終わったところに、「昼飯はなんだ?」とか聞いてくるのです。

というわけで、無趣味夫は、めちゃウザい。

女性脳にとってゴール設定は残酷

ちなみに、お昼の2時間以上も前に、「お昼は何?」と聞かれるのは、女性脳にとってはとてもストレスですよね。毎日だったら、鬱になるかも。

理由は、女性のシンキングコストの高さにあります。女性脳は、「気にかかることが、ずっと忘れられない」のです。

例えば、お昼の15分前に、「チャーハン」と決めれば、目についたチャーシューの切れ端とレタスでささっと作ってしまうものを、3時間前に「チャーハン」と決めると、そのことが他の家事をしている間も頭のすみにあって、「エビも解凍して使おうか」「ご飯、どれくらいあったかな」「あ~、半端なネギも使っちゃおう」と思い付き、なんなら、何度かキッチンに行く羽目に。

男性には、わからない苦しさです。

主婦歴が長いと「気付きの数」が半端なく多い

よく男性は、「妻が出がけに、あれもやっておこう、これもやっておこうと言い出して、なかなか出発できない。今やらなくてもいいことなのに」と言うのですが、これも、「気にかかっていることがずっと忘れられない」というストレスを避けるためなのです。「そうだ、あれを捨てなきゃ」なんて思いついたら、買い物している間中、それが気にかかることになる。捨ててから出かければ、ショッピングに集中できるから、そうしたいわけ。

主婦歴が長くなると、「気付きの数」が半端なく多いので、どんなに早く準備を始めても、結局、ぎりぎりまで「あれも、これも」とバタバタすることに。60歳を過ぎたら、はっきり言って出かけられないんじゃないか、という感じです。

そこで、私は、自分にメールをすることにしています。思いついたことをメールする。あるいはネットカレンダーに書き込む。そうして、忘れる努力をします。

「早々とご飯のメニューを聞かない」も定年夫婦の掟

そんな「やり遂げるまで、ずっと気にかかる女性脳」に、3時間も前からご飯のメニューを決めさせるなんて、あまりにも残酷な話ではありませんか?

というわけで、拙書『定年夫婦のトリセツ』には、「早々とご飯のメニューを聞かない」という掟が書いてあります。

とはいえ、男性脳には、「次のゴール」がないのも残酷。無趣味で、責務もない男性に、ご飯のメニューを聞くなというのも、あまりにもかわいそう。

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定年後を見据えて今から一緒にできる趣味を見つけて(Ph/AFLO)
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というわけで、夫に趣味を推奨し、責務を与える必要があります。とはいえ、40歳を過ぎて無趣味の男性は、自分で趣味を探せないかも。最初は夫婦で、何か始めてもいいのでは? アクティブな趣味でなくてもいいと思います。

定年退職までに準備しておくべきこと

わが家の夫は、昔から革細工や木彫りが得意で、定年退職後、バッグを作るようになりました。彼のバッグインバッグ(化粧品などを立てて入れられる優れもの)は、今やよそ様から注文を受けるほど。先月、誕生祝にもらったトートバッグは、デパートに並んでいてもおかしくないほどの出来栄えでした。

私や息子のお嫁ちゃんや、友人たちが「こういうバッグが欲しい」とそれぞれに夢を語り、成果を評価してくれるので、彼は日夜研究に励んでいます。

体を動かしてほしかったので、定年退職と同時に、社交ダンスにも誘いました。こちらはタキシードを初期投資。形から入る男性脳を刺激してみました(微笑)。

さらに、わが家の洗濯リーダーに任命したら、洗剤から干し方まで、めちゃくちゃ探求して、彼なりの洗濯哲学を展開しています。

家事は「手伝ってね」ではなく、専門分野を決めて責任者になってもらうほうが喧嘩になりません。その代わり、口を出さないし、自分が洗濯するときは、リーダーに「洗濯機、使ってもいい?」と聞くほど尊重しています。

夫婦
夫の趣味と責務で夫婦関係が円満に(Ph/GettyImages)
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趣味が2つと、責務が1つ。彼の毎日は、それなりに目標に満ちているので、おかげさまで、今のところご飯のメニューも聞いてこないし、ぬれ落ち葉にもなっていません。

定年退職までに、準備しておくべきことだと思います。

主婦の「引け目」を捨てよう

さて、男性脳のゴール指向、まだあります。他者の行動を把握するときも、ゴール指向型なのです。

妻が出かけるとなったら、「どこに行く?」「何時に帰る?」を気にしますよね。あれも、ゴール確認なのです。妻が向かう先という第1のゴールと、帰宅という第2のゴール。この2つを定めないと、「妻の外出」という現象をうまくつかめないのです。

このセンスは、仕事の現場では不可欠です。あらゆる工程のゴールを把握して、無駄のないコントロールをするために。昔々、狩りをしていた頃の男たちも、獲物という目標に向かって、全員で邁進していたはず。「目標を見定めて、成果を挙げる」という何万年の癖が男性脳の本能となっているのです。

「どこに行くんだ? 何時に帰る?」は、主婦の脈拍数が跳ね上がる質問と言われています。妻にしてみれば、「主婦がなに出歩いてるんだ」という威嚇に聞こえるから。でもね、これ、決して妻の外出を責めているわけじゃないのです。単なるゴール確認。男たちの、せつなる本能なのです。

会話している男女
自分の意向は堂々と伝えて(Ph/AFLO)
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というわけで、「どこに行くんだ? 何時に帰る?」と聞かれても、ムカつかなくて大丈夫。「デパート。夕方には、おいしいもの買って帰るね」と明るく言えばいいだけです。

「外出するのは気が引ける」と思う必要はない

ついでに、「外出するのは気が引ける」という気持ちも捨てましょう。人生100年時代、定年退職後、まだ40年もある…! 気が引けるなんて言ってたら、やってられないでしょう。十分に年老いた日々のことを考えたら、妻が元気に外出できるなんて、祝福してもらっていいくらいですものね!

わが家は、夫が家にいるので、宅配便は受け取ってもらえるし、ちょっとした用事が頼めるし、洗濯は完璧だしで、本当に安心。気持ちよく外出できて、感謝しかありません。

男性脳は、単なる確認をしているだけなのに、妻のほうが夫のことばを裏読みして、勝手に引け目に思ってるってこと、脳科学の光を当ててみると、案外あるんです。

女は、無邪気なほうが勝ち。たとえ、向こうに多少の悪意があっても、妻が無邪気に振る舞えば、「ま、いいか」となるのが、多くの日本男児たちです。自分の夫を信頼して、無邪気に、出かけてみましょうよ。

◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん

脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
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株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/

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